11 不意の時 【11-1】

11 不意の時

【11-1】


外回り組がいなくなると、3階の部屋は意外に広いなと思うようになる私。

なんとなく視線を向けると、蒼は何か地図のようなものを広げ、

じっと見ているようだった。

今、ここにいるのは奥村さんと私。

蒼と『同級生』だと言ってもいいのなら、

『ちょっとごめん、話をしてもいい』なんて言って、

借金返済の事情を、簡単に語ってしまえば済むはずなのに。



『砂戸屋』かぁ……

1回、下を通ったことはあるな。



「石本さん」

「はい」


蒼は立ち上がると、私に1枚の紙を出した。



『MAKINO』人材募集



以前、Cランクをつけられてしまった人たちに、

再就職代わりとして配ったちらしに似ている。


「従業員名簿。以前、伺ったものがありましたよね。
現在ではなく、過去に縁があった人たちの名簿」

「はい」


そう、『キタック』には数種類の名簿が存在する。

現在、立場はあれこれあっても、『キタック』自体に籍を置いている人たちの名簿。

それから、すでに退社をしたり、バイトをした経験はあるが、

社会人となったため、会社を辞めていった人たちの名簿。


「この手紙を、その全員に出してもらいたい」

「全員?」

「はい。名簿全てです」


蒼が寄こしたのは、『MAKINO』の営業所が人員不足になっているため、

こういった仕事をもう一度する気持ちはないですかという、お誘いのチラシ。


「あの……」

「何か」

「古いものだと、データが10年くらい前のものもあります。私もそうでしたが、
大学時代にバイトをした人たちなどは、今現在、この名簿の住所に住んでいるとは……」

「構いません、戻されるのもわかっています。
それでも全員、一人残らず出してください」


私は単純な頭を持っているはずなのに、どうも納得がいかないところがあると、

それを簡単に流すことができない性格らしい。


「でも……ホームページが出来ましたし、広告も打ち始めましたよね。
それならば、こういった仕事があると、そちらに展開した方が、
興味のある方にはすぐ……」

「全員、宛名を出してください。この手紙を入れて、その後、
チェックは私の方でしますので、すぐに出さないようにお願いします」


私の提案、聞くつもりはないという、いつもの強気な態度。


「でも……」


『キタック』に今まで、在籍したことがある人たち、

その全てにこの手紙を送るための準備をして欲しいという仕事の内容。

しかも、出来でもすぐに出さず、蒼に提出をするという、手間暇のかかることで。


「100通では終わらないと……」

「何通でも構いません。あれこれ言わずにやってください」


これ以上の文句も反抗も受け付けないという、シャットアウトな台詞。

私は結局、下がることしか出来なくて。

言われたとおりにファイルをデータから呼び出すと、

全ての宛名シールを打ち出すことにした。





そして、その日の仕事が終わり、私は『砂戸屋』へ向かい歩き出す。

『砂戸屋』は、大通りにある外食チェーン。

蒼は、名簿の話をしてからすぐにどこかへ出かけてしまって、

結局メモなどを渡すことも出来なかった。


「はぁ……まだ遠いのかな」


現在6時半を過ぎた。

これから夕食時、おそばとお寿司のセットが、

なかなかおいしいのだと奥村さんから聞いたことがある。

まだ先なのかと思いながら歩いていると、その看板は急に現れた。

1階は駐車場なのか、数台の車が入っていて、

階段を上がって2階が店舗のように見える。

私は車で来る蒼に見逃されないよう、なるべく目立ちそうな場所に立つ。

『キタック』から直線距離で歩いて7分。

いや、実際には10分? 意外に遠かった。

説明すればほんの数分で済むのだから、

もう少し近くのお店でも、指定してくれたら良かったのに。

足下にあった小さな石を蹴ると、その石は転がっていき、

駐輪場に止めてある自転車のタイヤにカチンと当たった。

すぐ周りを見る。

持ち主さん、ここにいないよね。

いたら、『何しているんだ』とにらまれるかも……


背中の方で、バタンと音がしたので振り返ると、

駐車場の空いたスペースに、車を止めた蒼が立っていた。


「行こう」

「どこに?」

「話を聞ける場所」


そう言うと、また運転席に乗り込んでしまう。

私はとにかく説明をしておこうと思い、助手席のドアノブに手を伸ばす。



『助手席に乗って……』



そうだった、この間聞いたばかりだった。

ここはきちんと座る人がいることを。

私は後部座席の扉を開けて、中に乗る。


「どうしてそっちなんだよ」

「話ならここからでも出来ますから」


距離もあるくらいの方が、話しやすい。


「あのお金のことだよね」

「まぁ、そうだけれど、どこかに……」

「いいよ、車の中で」


どこかに行って、あらためて話を聞いてもらわなくてもいい。

いや、むしろ、ここでいい。


「ここは駐車場だぞ」

「大丈夫だよ、5分で終わる」


そう、責められるような話ではない。

5分で終わって、『さようなら』で済むことだから。


【11-2】



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No title

ナイショコメントさん、こんばんは

ありがとうございます。
( v^-゚)Thanks♪