11 不意の時 【11-3】

【11-3】


どれくらい走ったのだろう。30分くらい経っただろうか。

そこまで大通りばかりを走っていた蒼は、右折をしてさらに走り続ける。

また別の通りに出ると、そこで車が止まった。

私の横で、カチャンと音がする。ロックが解除されたのだろうか。

ドアノブに手を伸ばすと、扉が開く。

結構暗くなってきていて、ここがどこなのか、よくわからない。

それでも、こうして出られるようになったということは……



出ろと言うことでしょう。



「失礼します」


私はバッグを持つと、意地で外に出た。

周りを見てみるけれど、ヒントになるようなものがなくて……

いったい、どっちにいけば駅があるのかもわからない。

とにかく、どこかお店を探して……


「わからないのか、ここが」


運転席から降りた蒼は、私の方を見ている。


「えぇ、わかりません。でも幸い口がありますから、誰かに聞きます。
では、お疲れ様でした」

「もういい、こんなことは辞めよう。乗れよ、ちゃんと送るから」

「結構です!」


何が乗れよ……なの、こんなわからない場所に連れてきたくせに。

乗るものか絶対に。どうしてこんなことをされるのかわからないけれど、

たとえ3時間歩くことになったって、歩き抜いてやる。

私は、とりあえず蒼の車がある場所から離れるように進む。


「風音……おい、戻ってこい」

「うるさい」


自分が勝手に連れてきたのでしょう。

言うなら台詞は『戻ってもらえませんか』くらい、低姿勢に出てこいっていうの。


「なぁ、あの大きな角を、左に曲がれ」

「うるさいって言ったでしょう」


信じられない。この場に来てまで命令口調。

何を言っているんだ、誰がこんなところに連れてきたと、

文句を頭の中だけで言いながら、とにかく前へ進む。


『次の角』って、目の前にあるそこだよね……

立ち止まって、何気なく横を向く振りをしながら目を動かすと、蒼の車は……


……いないんだけど。


本当にあいつ、ここへ私を置き去りにしたんだ。

腹が立つという以上に、血の気が引く気がした。

考えられない。蒼はここを知っているのかもしれないが、私は知らないとそう言った。

住宅街で、それほど人通りがあるわけでもないし、

今のところ、道を聞けるような店も見えない。

そう思いながら、蒼の言うとおりにするのが嫌で、まっすぐに進もうとしたら、

右側から来た車のライトが上向きに思い切りつけられた。

眩しくて目をそらす。視界が狭くなったので、その場に立ち止まるしかなくて。

すると、ライトの明かりが少し小さくなったので、失礼極まりない車をよく見ると、

どこからどう回ってきたのか、それは蒼の乗った車だった。

あいつは運転席で、偉そうに前を指さしている。

どうしても左に行けと、言うことなのか……


「あ……」


左に折れてすぐに見えたのは……



『清廉高校』



私たちがいつも見ていた表門ではなく、陸上部が『死の坂』と呼んでいた、

なだらかな登りが続く道。ここ、知っている……



そう、よく見てみたら、部活の時、

先輩に言われてダンボールをもらいに行った薬局があるし、

近所のおばあさんたちが井戸端会議をしている、古くて壊れそうな美容室もある。

私が知っているこの場所は、太陽の眩しい時間、昼間の時間だから、

今見ている景色が、結びつかなかった。


「風音……悪かった。車に乗れよ、戻ろう」


蒼は私の後ろに車を止めて、そう言った。

私は首を振る。


「そうか、こうなるのか。運転する人は感覚があるからわかるんだね。
免許はあっても、活用できていない私には、さっぱりだった」


ダンボールを抱えて、みずなと笑いながら歩いた道。

確か、数学のメガネの悪口を言ったり、お小遣いが少なくてと、愚痴を言ったりしたな。

そう、そういえば……


「ねぇ、蒼。この道をバスケ部が走っていたこともあったよね。
私、ダンボールを抱えて、すれ違ったことが確か……」


バスケシューズを履き、走っていた蒼。

ダンボールを抱え直す振りをして、後ろ姿を追った思い出。


「さすがにこの時間は、部活も終了だね」


後輩達も、この道を使っているだろう。


「大丈夫だよ、ここからならわかる。一人で帰れるから」

「何言っているんだ、駅まで結構かかるぞ、こっち裏門だし」

「いいよ、なんだか懐かしい。ゆっくり登りながら、歌でも歌う」


私は一度、蒼の顔を見た。


「ここに走ってこようと思っていたのなら、そういえばよかったのに。
こっちは、無視されたままどこに行くのかわからなくて」

「走り出してから、急にここに決めたから」

「何よそれ」


職員室、まだ電気がついている。先生達、忙しいんだろうな。


「風音……」


蒼は、『本当に送るから』と私の左手を握り……



そのまま……



私の体は、蒼の方へ……



蒼の……



私の右手が動き、蒼の頬に思い切り当たる。

偶然とかではない。蒼は私を引っ張って……


「どうしてこんなことするの」


車に乗れと引っ張られたのかと思った。

その力はもっと強くて……

私が、予想していなかったからなのかもしれないけれど、

体ごと、蒼の腕の中に飛び込んでしまった。


「風音……」


悔しくて、情けなくて、とにかく走り出す。

どうして、こんなことをするのだろう。


「風音!」


『SANGA』のお嬢さん、里穂さんがそばにいるのだと、自分自身で認めたのに。



借金を抱えて惨めな同級生には、お金も未来もある同級生が、

何をしても許されるとでも思っているのだろうか。


「風音……待てって」


名前なんて呼ぶな!

私は、ただ必死に走った。陸上部でもないし、体を鍛えるつもりもないのに、

車では上がれない細い道を選び、必死に蒼から逃げる。



この速くなる鼓動が、走っているからだと思えるように……

決して、蒼の行為に負けたわけじゃないと、何度も思いながら、必死に耐えた。


【11-4】



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