11 不意の時 【11-5】

【11-5】


「いただきます」


おにぎり2つを持ってくることは、続けているけれど、

祖父母がお金を貸してくれたおかげで、

そこにおかずをきちんとプラス出来るようにはなった。

蒼に言われたとおり、

今まで『キタック』に所属したことがある人たち全ての宛名を印刷し、

それを封筒に貼り付けた。

懐かしい森田さんの住所もあって、今はもういないから絶対に届かないけれど、

全員分だと何度も言われたので、返却はわかっていながらも提出する。

蒼のデスクの上は、封筒の入った段ボールで、作業など出来ないくらいになっていた。

どう考えても、効率が悪い仕事だと思う。どうしてこんなことをするのだろう。

あいつは何を聞いても、きちんと答えてなどくれないはず。



『風音……』



昨日、思いがけず抱きしめられたシーンが脳裏によみがえってくるのを、

私は頭を何度も振って、切り捨てる。

もう、どうでもいい。やりたいようにやってくれ。

私は箸を持ち、ウインナーを口に入れた。





「あはは……」


昼どきの3階。奥村さんの笑い声に、ハンカチの角を首のところに挟み、

お弁当を食べる北村社長。

社長は、取引先との打ち合わせなどがなければ、ほとんが愛妻弁当。

ハンカチを首のところに入れて食べるのは、まぁ、いつものことだけれど、

金太郎のよだれかけのようで、見ていると笑ってしまいそうになる。

過去に何かいいことでもあって、そのジンクスなのだろうか。

今時、あんなことをする人、見たことがない。


「あはは……おかしい、もう」


奥村さんは、目尻に触れながら、笑っている。

社長が引っ越しを依頼されたお客様に、譲ってもらったテレビ。

小さいけれど、なかなかしっかりと働いてくれる。


「うわぁ……今のは絶対に、これからもめますよね」


私と奥村さんは、お休み時間に合わせて、近頃ドラマの再放送を見ることが増えた。

今日はそこに、営業から戻った松田さんが加わっている。


「このままだと、疑われるよね」

「いやいや、これ絶対に2、3日で解決させるでしょう。
土曜になるから、はい、次の週ってぐらいに」

「そうかもしれないけど」

「それに、主人公ですから、絶対にやられませんよ」


展開を予想しようとする奥村さんに、松田さんの現実論パンチが飛ぶ。


「こら、松田。そういうことばかり言って、
これを楽しみにしているおばさんに嫌われたいのか」


奥村さんはわざとらしく頬を膨らませ、松田さんに拳を見せる。


「そういうことって、僕は普通の意見を言っているまでです。
石本さんまで付き合っているから、奥村さんがパワーアップするんだよ。ほらほら」

「いえ、でも、見始めたらおもしろいですよね」

「そうよね……」


扉が開き、中村さんが戻ってきた。その後ろに、蒼も続いている。


「石本さん、これ」

「はい」

「後で食べよう。なんだかネットで話題らしい」


中村さんが渡してくれたのは、コンビニがこの夏、大々的に売り出した、

本格的なシャーベットアイス。


「俺と古川君はキウイ。あとはみなさん勝手に選んで」

「すみません、中村さん」

「いやいや……」


袋の中を覗くと、マンゴーとかイチゴとかが並んでいる。


「冷やしますね」


私は冷蔵庫を開けると、箱から取り出してしまうことにする。

蒼は携帯が鳴ったのかすぐに取っていて、

何度か『はい』と繰り返すと、慌てて外を見始めた。


「どうした、何かあったの?」


一緒に動いていた中村さんは、蒼の様子がおかしいと思いそう聞き返す。

確かに、慌てているように見えるけれど。


「すみません、牧野が顔を出すと」

「牧野?」


『MAKINO』という社名をいつも聞いているから、牧野だと言われても、

何がなんだかみんなピンとこない。

しかし、蒼と同じように上から下を見た中村さんが、すぐに社長はと声に出す。


「どうした……」

「社長、『MAKINO』の……」

「すみません、『MAKINO倉庫』を束ねている副社長の牧野が、急に」


蒼は東京に来ていることも知らなかったのでと、社長に頭を下げる。


「副社長が? 今」

「はい。今、下に」


『副社長』とは、蒼のお父さんになった人のことだろうか。

グループ企業の副社長だと聞いているけれど、仕事に関係するのなら、

こんなふうに来ることはないだろうし……

奥村さんや中村さんが、どんな人物だと窓から下を見ているとき、

蒼は私が置いた手紙の束が入った段ボールをすぐに片付け、蓋を閉めた。

デスクの上に置いたものを、わざわざ階段の隅の方へ運んでいく。


「あ、来る、来る、上がってくる」


奥村さんの半分、悲鳴に近い声。

段ボールを置いた蒼を見ていたら、視線がぶつかった。

すぐにそらされたけれど、なんとなく違和感が残る。

私の思い過ごしだろうか、蒼はあの手紙を、隠したような気がしてしまう。

仕事なのなら、広げていたって問題は無いはずなのに。

私の目を見た蒼の目は、最初にここに来た日と同じで……



何も言えないし、聞けなくなった。



【ももんたの小ネタ交差点 11】

創作を作るときに、結構面倒なのが『名字』なんです。
今までも色々なパターンを利用してきましたが、今回は『水泳の選手』。
役名とその登場人物の性格は全く関係ありません。
一覧表から、目に入ったものを、拾ってくるだけなので。日本という国は、
世界的で見ても、名字が多い国なのだそうです。30万近くあるんだって。



【12-1】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント