12 秘密の箱 【12-3】

【12-3】


「あの……」

「『ふくたろう』というお店の前で、石本さんにお会いしたと、
風音さんという名前を聞いて、うっすらと記憶に出てきたそうですが、
みなさんのいる前で、間違ったことを言うのもと思い、遠慮したそうです」


清川さんは『そうですよね』という顔で、私を見る。


「……はい」

「古川とは『清廉高校』で同級生……ですよね」

「はい……」

「確か、『ふくたろう』でお母さんが働いていたと……」


私はその通りだと思い、ただ頷く。

『清廉高校』2年C組。私と蒼は、同級生でした。


「そうですか……」


清川さんは、笑みを浮かべることもなく、ただ噛みしめるように頷いた。

間違ってはいないので、否定は出来ないが、

母のことまで出されたのは、少し驚いてしまう。


「石本さんは、大学を卒業してそのまま『キタック』に入社されましたか」

「……はい」


私は、渡すファイルを出しながら、ふられた質問にそのまま返事をした。


「あの……何か」


清川さんは、何を知ろうとしているのだろう。


「いえいえ、すみません。会社のみなさんには……」

「いえ、みなさんには何も話していません。古川さん……」


もう、いいよね、わかっているのだから。


「蒼が、同級生だということがみなさんにわかると、
最初の仕事が『人員整理』だったので、変な気遣いをされたり、
噂をされたりするのもまずいと」

「あぁ……はい」


私は清川さんに、事情を話した。

仕事に影響が無いよう、そうするように決めたこと、

今もその続きで、話をしていないことも語る。

清川さんは頷きながら聞き、納得したという顔を見せてくれる。


「それはよかったです」

「よかった」

「はい。古川は真面目で仕事も一生懸命にやりますが、
少し気持ちを傾けすぎでは無いかと、心配する人も色々とおりまして……」


清川さんは、『仕事』ではない自分を知っている人がいるのは、

どこかで気持ちも休まるだろうと、そう言ってくれる。


「石本さんがここにいることが、古川にとっては、少し緊張の取れることなのかな」


清川さんの言葉に、私は『そうでしょうか』と首を傾げる。


「いえいえ、そうですよ。たまには、愚痴でも聞いてやってください」


清川さんはそういうと、資料を持ち、事務所を出て行く。

そこまでは、何を聞き出そうとしているのかと、少し身構えていたが、

『愚痴を聞いてやってくれ』という一言に、少しだけ肩の荷が下りたような、

そんな気がしていた。





『蓮の花温泉』

実家の母に連絡を入れて、祖父母も連れて出かけることにする。

広くて温かい温泉につかり、家には置けないような大きなマッサージチェアに座った。

足も肩も腰も、どんなに頑張っても疲れたと言わない機械は、

ただ、確実に仕事を続けてくれる。


「あぁ……極楽」

「何よそれ」


母は、久しぶりにゆっくり出来たと、喜んでくれた。

祖父母も、こういう外出ならばいいよねと、笑顔を見せてくれる。


「中村さんって言ったっけ? チケットをくださった先輩」

「うん……うちの営業部員の中では、一番年長者なの。だからかな、
お兄さんみたいで」

「お兄さんねぇ……」


母の視線。


「何よ」

「年齢は?」

「30だったと思う」

「出身は」

「……何よ、知らない」

「あら……下のお名前は?」


中村さんの下の名前。

『真路(まさみち)』という文字が、頭に浮かぶ。

そういえば、人員整理作業の時、全従業員名簿を見た。


「中村真路さん」

「あら……素敵な名前じゃない。彼女、いるの?」

「お母さん」


母は、素敵な人ならと思っただけよと、少しだけ口をとがらせる。


「いるに決まっているでしょう」


そう言いながらも、そういえば以前、

お見合いを断られたと聞いたこともよみがえってくる。

どうして断られたのか、聞く前に人が来て、終わりになって。


「まぁ、そうよね」


でも、ここで言いはじめたらまた話を拡げてしまうので、黙っていることにして。


「ねぇ、住所は? お母さんお礼にお米送る」


母は、今の仕事柄、お米を安く買うことが出来るようになったからと言いはじめる。

名前の文字はわかったが、住所までは記憶していない。

私は、それなら東京に帰って聞いてみるねと話し、中村さん話を終了させた。





『確認できず、配達出来ませんでした』



蒼が、以前提出した『過去に縁があった人』リストに、

チラシを入れた封筒を出したと言うことなのだろう。

近頃、こういった『住所不明』という封筒が、毎日戻ってくるようになった。

さすがにデータが古いものもあるから、当然戻ってくるのも多い。

出したものが全て戻っているわけではないので、それなりに動いているのだろうが、

なんだかもったいない気がしてきた。

それでも、戻ってきたものは全て捨てずに、机の中に入れて欲しいと言われているため、

蒼に指定された引き出しを開けて、中に入れた。


【12-4】



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