12 秘密の箱 【12-4】

【12-4】


「中村さん」


その日の午後、営業活動に出かける中村さんを追うために、

奥村さんには『コンビニに行きます』と言って出てきた私。


「どうした」

「歩きながらで……」


一緒に横断歩道の横に立つ。


「チケットありがとうございました。母も祖父母も喜びました」

「うん、それならよかった」


中村さんは、祖父母まで連れて行ったのなら、お金がかかっただろうと、

心配してくれる。


「生き金です」

「おぉ……言うね」


横断歩道が青に変わり、一緒に進む。


「それでですね、母がどうしてもお礼がしたいからお米を送りたいと」

「米? いや、いいよ、そんなこと」


予想通り、中村さんは必要ないと断ってくる。

そう言われるとは思ったが、母の気持ちもわかるだけに、

今回は受け取って欲しいとお願いした。

そんなやりとりをしていると、短い横断歩道を渡りきり、『コンビニ』に着いてしまった。


「母の気持ちなんです」

「それは気持ちだけでいいって。俺、自炊しないんだよ」

「……しないのですか」


中村さんは、一人暮らしだから自炊をするよりも、外で食べたり買ったりした方が、

結果的に面倒ではないからねと言い、逆に『ごめん』と謝ってくる。

もちろん謝られることではないが、それでそうですかというのも、

あっさり過ぎるだろう。


「作ってくれる人でもいたらさ、ありがたくいただくところだけれど、
一人暮らしにたくさんの米は、もったいないよ」


中村さん、本当に彼女いないのだろうか。


「そうだ、中村さん、そういえばお見合いしてましたよね。
断られたって言ってましたけれど」


言った後、慌てて口を押さえたが、遅すぎて話にならない私。


「すみません……」


中村さんは一瞬、驚いた顔をしたが、あまりの非常識さに、笑い出してしまう。


「全く石本さんは、おもしろいな。言うかそこ、普通。
あの日、奥村さんのえぐるような質問から、やっとの思いで逃げたのに」

「ごめんなさい、でも、私、あの時も中村さんがどうして断られるのだろうと、
正直、不思議に思っていた……というか」


そうだよなと思う人なら、こんなこと聞いたりしない。

私には、理由が全く見えてこないので、聞きたくなったのだ。


「しょうがないな、それなら答えます」

「はい、すみません……」


考えてみたら、ずうずうしい切り出し方。


「初めて会う人だろ、でも、見合いってその先に結婚があるわけで。
だから『僕はタバコを吸う女性が好きではないのです』と、先に話した。
そうしたら、その人、『わかります』と言っていたのに、結果、すぐに断ってきた。
つまり、本当は吸う人だったってこと」


中村さんは、自分がタバコを吸わないので、

相手にも吸って欲しくないと思っているらしく、

そのことをいきなり言ったことで、断られたのだと言う。


「いつもそう言うのですか」

「いつもって、俺、見合いは1回しかしてないよ。これからもないな、
やってみて、むかないなと思ったし……」

「あ……あれ?」

「なんだよ、連戦連敗だと思っていたわけか」


中村さんはそう言うと、『全く』と言いながら笑い出す。

私も思わず、そうですよねと返事をしながら、笑っていた。



『タバコを吸わない人がいい』



そうか、そうだったのかと、納得する私。

そんな条件提示で断られたと聞き、少し嬉しくなる。

中村さんが悪いと言うよりも、中村さんの思いが前に出たための出来事。


「本当に気持ちだけで結構。米はいただかなくていいからさ、
石本さんからのお誘いを、早くしてもらえると嬉しいけどね」


私が食事をごちそうしますと宣言した。


「そうでした。でも、お店が……中村さんが行きたいお店、どこかにあります?」

「どこでもいいけど」

「どこでもいいという返事は、困ります。
私、おしゃれなお店も、美味しいと評判のお店も全然知らなくて」


謙遜ではなく、本当に何も知らない。


「おしゃれである必要などないと思うよ。俺が連れて行った店だって、
全然そうじゃないし」


中村さんは、どこでもいいからともう一度言ってくれる。

私の視線に写る、まっすぐな道。


「あ……それなら」


蒼に言われた場所。

ふと道を見ていたら思い出す。


私と中村さんの食事会は、『砂戸屋』に決まった。





次の日、蒼は出社してからずっと、戻ってきた封筒のチェックを続けていた。

私はどうしようかと考えていたが、思い切って立ち上がることにする。


「すみません」

「はい」


蒼の返事。

なんだか少し、間が抜けていて。


「戻ってきた全ての封筒をチェックされるのでしたら、私がやります」


仕事はそれぞれ理由があるのだろうが、あまりにも単純作業に思えて、

蒼は別のことをした方がいい気がしてくる。


「いえ、結構です。これは全て自分でやります」

「でも、データはパソコンに入っていますし、『キタック』としても、
必要のなくなったものは、削除出来ますから」


一覧表を呼び出して、もう通用しない住所は消していく。

そんな作業も同時に出来る気がして。


「データ……ですか」

「はい。データなら3つに別れていますので、探すのも楽ですし……」

「3つ?」


思いがけない箇所が、蒼の興味心を捉えたらしい。

3つというのは、どういう分け方なのかと聞いてくる。

私は、『現在の従業員』『過去の従業員』


「あとは、面接に来た人、試用期間で終わった人のリストです」


そう、社長は履歴書をよこしただけという人たちのデータも、

全て名簿として残してあった。

面接に来た人は当たり前だし、約束をしてすっぽかしたという人まで、

全てという全てになる。

うちに就職やバイトという状態にはならなかったが、もしかしたらお客様として、

どこかで縁を持つかもしれないという考えがあり、

もし、そういう時には、『小さな引っ越し祝い』を、特別に渡しているのだ。


「試用期間……その人たちの名簿は、まだ出ていないと言うことですか」

「出ていないと言うより……」

「すぐに全員分、同じように出してください」


蒼は、ちらしの方はすぐに用意が出来るのでと言い、急に動き始める。


「あの、それはあまりにもおかしくないですか」


また、反抗してしまった。


【12-5】



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ありがとうございます

ナイショコメントさん、こんばんは

ありがとうございました。
☆⌒(*^-゚)v Thanks!!