12 秘密の箱 【12-5】

【12-5】


だって、うちに顔を出さなかった人だっているのだ。

それを今更、『MAKINO』で仕事をしませんかなどと言う誘いのチラシ、

ほぼ100%無駄になる。


「無駄なのか、有効なのかは、私が決めますので」


蒼はそういうと、出来たら今日中にお願いしたいと言い、どこかに向かうのか、

バッグを持って出て行ってしまう。

確かに、蒼の所属は『MAKINO』であって、『キタック』ではない。

だから、私が仕事の内容を全て把握する必要もなければ、そうすることもないだろう。

でも、今、現在行われているのは、『キタック』が持っているデータになる。

どう使うのか、なぜそこまでするのか、聞いてもおかしいとは思えない。

私は蒼を追うように階段を降りていく。

2階に到着した蒼は、一度私の方を見たが、自分を追っていると思わなかったのか、

さらに少し早足で階段を降りる。

私もその動きに合わせるように1階まで降りた。


「ちょっと、蒼!」


思い切り、同級生モード。

蒼は、すぐに振り向いたが、嫌な顔をする。


「呼び方が悪いと言うことでしょう。私だってわかっています。
別に、3階でこんなふうに言おうとは思わないわよ。でも、同級生を隠している必要、
これからもあるの?」


『人員整理』は終了した。

『MAKINO』と『キタック』は互いのいいところを認めあい、

助け合う間柄に変わったのだ。私と蒼が同級生だったことを披露しても、

それがマイナスになるとは思えない。


「この間、清川さんと副社長さんが来たでしょう。
私のことを覚えてくれていたみたいで」

「誰が?」

「誰って……牧野さん」


『かざね』という名前に記憶があったと、清川さんを通じて話してもらった。


「会ったことがあるのか」

「ある……」

「いつ」

「いつって……」


同級生口調を怒られると言うより、違う方向に矢が飛んでいった気分。


「私が『清廉高校』を転校することになって、
みずなから、蒼が病院に来てくれたことも聞いたから。
『ふくたろう』に行ったら会える気がして……でも、蒼は合宿だって」


バスケットをやっていた蒼。

選抜チームの合宿だと、おばさんに聞いた。


「あぁ……」

「牧野さん、おばさんを迎えに来ていた。私、蒼が来ないのかとおばさんに聞いて、
で、その話の中に、私の名前が出ていたのだと思う」


かざねちゃん……と言われた記憶が……


「で、同級生だと、お前、話したのか」

「だって……」


どうもこの様子は、また私が責められている気がする。

でも、悪いことをしたとは思わない。

話を振ってきたのは、牧野さんのことをいってくれた清川さんの方なのだから。


「どうしていけないの? 清川さんは別に……」


横断歩道が、音楽とともに、歩行者に青の合図を出す。

蒼は進むことなく、その場に立っていて。

そのとき、以前、みずなが言っていたことを思い出した。

私の事件が起きてからしばらくして、蒼はバスケを辞めてしまったと。


「ねぇ、蒼、そういえば、どうしてバスケ辞めちゃったの?」


聞いてしまった。だって、考えてみたらおかしなことだから。

選抜チームに入れて、学年も2年生で、これからもっと楽しめるという時期に、

辞めるという選択肢は……


「そんなことを話すことが、今、必要か」


蒼の目……最初に来た日のように、冷たくて。


「疑問に思ったから聞いただけ。そんなに責められること?」

「話したくない……」

「エ……」

「話したくないんだ。風音にだって、思い出したくないこともあるだろう」


蒼……


「ごめん……」


そうだった、私……昨日の中村さんの時と一緒だ。

奥村さんがいつも、『なぜなぜ』と、えぐるように聞き出そうとするのを、

どこか冷めた目で自分が見ていたはずなのに、やっていることは全く変わらない。


「そうだよね、ごめん」


辞めたくなる理由など、色々あるだろう。

今、それを聞いたことろで、私も蒼も何一つ変わらない。

『思い出したくないこと』と言われて、あの事件が浮かんだ。

みずなも藍子も、私に過去を語ってくれなんて言わないのに。


「理由なんて話すほどのことではないよ、つまらなくなった、それだけだ」

「うん」


私はただ何度も頷きながら、気持ちを押し込んでいく。


「とにかく、名簿をすぐに出してくれ。それと……」



それと……



「清川が何か言ってきたら、あれこれ語らなくていい。笑ってごまかしておけ。
ここで風音と、同級生として話をしたくないんだ」

「……うん」

「じゃ……」


私は、勢いよく飛び出して、自分の正当性を主張しようとしていたが、

蒼に押さえ込まれた気分だった。

嫌なことを聞き出そうとしてしまい、話が動いているうちに、

結局、自分が悪いという気持ちだけを抱え、私は3階に戻ることになった。





ファイルの3つ目、とにかく住所を知っている人、全てに対しての名簿。

今回『MAKINO』の資料として、提出することになった。


「全てのファイルを? そこまでか」

「はい」


一応、副社長の河石さんに、蒼から言われた仕事の内容を語る。

前回のメンバーに手紙を送る話をしたときには、『それも必要なのかもしれない』と、

好意的に考えてくれた副社長だが、今回はさすがに『そこまで』と驚かれる。


「はい。私も、そこまでするのは無駄ではないかと話しましたが、
とにかく全てだと」


今時、住所や経歴をお金で買う企業もあると聞く。

その人の好みや生活水準がわかる通販の注文履歴なども、相当な財産になるのだろう。


「それなら、『キタック』としても一覧表を作れるように、古川さんに話をしておこう」

「はい、よろしくお願いします」


蒼が、戻ってきた封筒をチェックをしているのはわかっている。

仕事のちらしを入れて、その返事がどれくらい来るのかがメインだろうけれど、

ここでは戻された封筒の方が、重要なのではと思えた。

副社長が言えば、さすがに『関係ありません』と突っぱねることはしないだろう。

私はファイルの3つ目を出し、住所の一覧を表示させると、

それを『印刷』にかけ、範囲を『全て』とした。

カシャカシャと音をさせながら、出てくる宛名のシール。

それを『キタック』の新しいロゴがついた封筒に入れていく。

4月から、『MAKINO』のグループの一員として、動き出したこと、

配送所が全国にあり、人手不足が続いていることなど、

『キタック』と『MAKINO』両方の情報が、収められた。


「はぁ……」


10年というのは、これだけの重みがある。

とりあえず全てを仕上げようとしたら、今日はそれで一日が終わってしまった。


【ももんたの小ネタ交差点 12】

引っ越し業者さんからの『迷惑なお客様…パート4』。
『家具などの置き場所を決めていない』。こういう人も、結構いるそうです。
行ったらだいだいわかるよねと、お気楽に構えていると、
予想外に入らないことがあったり、逆に余ってしまったりして、ロスが多いそうです。
そういえば、今の家に越すとき、母と何度も計ったこと、思い出したわ。



【13-1】



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