13 混乱の中 【13-1】

13 混乱の中

【13-1】


『砂戸屋』


携帯でホームページを見ながら、メニューのチェック。

確かに、色々とついたお得セットなどもあるけれど、本当にここでよかったのだろうか。

中村さんはどこでもいいよと言ってくれたし、デートというわけでもないのだから、

気合いを、入れなくても……


「うん……」


私なのだから、私らしく。


いつものように支度を済ませると、今日はお礼の食事会と思いながら、

駅までの道を進んだ。





今日は水曜日だから、蒼は『MAKINO』だと思ったのに、

いつもの時間に部屋へ入ってきた。中村さんが同じようなことを考えたのだろう、

どうしたのかと聞いている。


「これから立ち寄るところがありまして。渡す資料を、ここに忘れてしまって」


蒼はファイルを取り出し、バッグに入れていく。

そして、昨日私が仕上げた封筒を見ながら、手紙を入れる作業を始めた。


「古川君」

「はい」


副社長が蒼のそばに立ち、封筒を1枚、手に取った。

表と裏をじっくり見るようにした後、デスクの上に置く。


「ここまでやらないとならないのか」


副社長は、私が蒼に言ったことと同じように、効率が悪いのではないかと話し、

ホームページなどに『募集広告』をつけた方がいいのではと提案する。

蒼は、それはわかりますがと最初に副社長を立てる。


「ただ、発信するだけでは、どう反応されるのかもわかりません。
今回も、もう業界自体に嫌気がさしている方もいるでしょうし、
いい反応ばかりではないこともわかっています」

「それなら……」

「でも、1人、この山積みの封筒から1人従業員を見つけられたら、
それだけで扱う荷物の量を、増やすことが出来ます」


現状、機械に全てを任せることは出来ないのでと、言い切ってくる。

蒼は、この作業が無駄だという思いは持っていないらしい。


「申し訳ありません」

「いや……」


副社長もそれ以上話すことは無駄だと思ったのだろうか。

新聞を広げて、いつものようにコーヒーを飲む。

それから1時間後、社長が外から戻ってきた。


「いやぁ……暑いな今日も」


さらに扉が開き、その後に清川さんが入ってくる。


「いやぁ……助かったよ。清川さんが現場に来てくれてね。
今日が経済誌の取材だから、見学に来させていただきましたと言われて。
帰り、ここまで乗せてきてもらったんだ」


『MAKINO』の清川さん。

この間、牧野さんが私のことを覚えていたという話を聞いて以来になる。


「そうそう、聞いたよ。石本さんと古川君。二人は同級生だというじゃないか」


社長は、高校が一緒だったのだろうと、私と蒼を見た。

蒼の目が、すぐに私を……いや、清川さんを見る。


「エ? 何、やだ、風音ちゃん、古川さんと同級生なの?」

「は?」


一緒の部屋にいた奥村さんや、中西さんに話しが飛び火する。

清川さんだけが冷静に、先日伺いましたよねと私を見た。

私は黙ってただ、頷くしかなくて。


「なんだよ、二人とも。どうして言わないんだよ。
それならもっと楽に話せばいいのに」


中西さんは、数年ぶりの再会だとしても、思い出せば変わってくるだろうと笑い出す。

蒼は笑うでもなく、この話に乗ってくることもない。


「古川さん、今日もこちらですか」

「午前中には出ます」

「そうですか」


清川さんは、蒼にそれだけを言うとさらに前に進む。


「先日は、牧野が突然お邪魔いたしまして、申し訳ありませんでした。
しかし、思い切って来て良かったと、そう申しておりましたので」


清川さんの言葉。

そして、手に持っていた紙袋が、デスクの上に置かれる。


「あらためてみなさんで、お茶の時間にでも食べて欲しいと」

「あら……いえ、そんな」


高級そうなお菓子だとわかり、すぐに反応した奥村さんだが、

それもまずいと思ったのか、手だけを後ろに引っ込める。


「滑り出しも好調で、仕事も『キタック』さんが築かれてきた信頼のおかげで、
思った以上に伸びを得ています。どうかみなさんこのままぜひ、頑張っていただいて、
互いに発展していきましょう」


清川さんも、蒼と一緒に『キタック』へ来た。

しかし、その日は自己紹介をされた……そう、蒼にされただけで、

ほとんど口を気かなかった気がする。

なのに、なんだろう、今日はずいぶん話をする。



清川さんが話をしているその間、蒼は黙ったまま……



「古川さん、『キタック』さんがこの調子なら、
任務を終えて、本社に戻ることも早く出来そうですね」




『本社に戻る』




蒼は本社に、神戸に帰るということだろうか。

私は席を立ち、外から戻ってきた社長と清川さんに、麦茶を入れて出していく。

冷たくしておいたおしぼりも同時に出すと、清川さんが今まで見たことがないような、

穏やかな笑顔を見せてくれた。


「石本さんの風音というお名前は、どなたがつけられたのですか」

「エ……」


私の名前をつけたのは、確か父だった。

一緒にお風呂に入りながら、そんな話をしたことも、少しは覚えている。


「父です」

「そうですか……素敵な名前ですね」

「ありがとうございます」


黙ったままの蒼と、急に存在感を増した清川さんの逆転ぶりが、

とにかく気になる日だった。


【13-2】



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