13 混乱の中 【13-3】

【13-3】


電車に乗ると、空いている席があったので、座ることにした。

顔を少し上げると、週刊誌の見出しが車内刷りとして揺れている。



『『SANGA』国内シェアを伸ばしつつも、アジア圏で力を発揮』



『SANGA』は、自家用車を得意としている。

大型車も数年前にヒットを産んだりしているが、やはりすぐに思い浮かぶのは、

ファミリーカーだろう。

これからは電気自動車の時代が来ると、外国との競争も続いている。


『北島里穂』


どんな人なのだろう。

蒼は、私がお金の話をしたとき、細かいことは気にしないようなことを言ったけれど……



『同級生』



そう、私たちが同級生だと言うことは、もう明らかになった。

だとしたら、もう少し、親しさがあってもいい気がするのに。



昔は、蒼が何を考えているのか、ふざけた言葉の裏にあるものも、

見えていた気がするけれど、今は、あの顔の奥で、何を思うのか、

全然見えてこなくて。



あのとき、『清廉高校』に連れて行かれたことも、

急に、『キタック』の名簿を洗い出すようなことを言い出すのも、

私には全く意図が見えてこない。



蒼と話をすると、どんどん迷路に入り込む気がして……



私は携帯を取り出すと、今日の出来事を知るために、

ニュースのページをただ、めくり続けた。





季節は梅雨に入り、雨の日が増えた。

こういう時期は、あまり引っ越しに向かないため、

どちらかというと仕事が減る傾向だったのに、『MAKINO』からの依頼が次々に入り、

繁忙期かと思えるくらい、スケジュールが埋まっていく。


「大型車を使うものよりも、中型を使う仕事が増えたね」

「そうですね」


車検のスケジュールもあるので、車をどう回していくのか、人をどう回していくのか、

ドライバー管理の鶴田さんが、嬉しい悲鳴だと言いながら、2階に降りていく。


「はぁ……これが今日の分、かな」


下から戻ってきた奥村さんは、手に封筒の束を持ち、戻ってきた。

蒼から頼まれて、3つ目のファイルを全て広げ、

無駄だとわかっているのに、80通近くの手紙を出した。

前回よりもさらに、戻ってくる率が高い。


「今日は古川さん、来ない日よね」

「はい」


週の前半と後半で、蒼は『キタック』と『MAKINO』を移動している。

だから今日は、向こうにいるはずで。


「今、清川さんだっけ? 車止めてたわよ、駐車場に」

「清川さんですか」

「うん……だから、古川さんがいるのかなと思って」


清川さんか。

最初は蒼と一緒に行動していて、運転手の役割なのかと思っていたけれど、

気づくと、蒼は自分で運転して『キタック』に来ることになって。

この間は牧野さんを連れてきたし、いまいち何をしている人なのか、

よくわからない。

それに……


「奥村さん。それ……貸してください」

「ん? あぁ、はいはい」


私は奥村さんから封筒の束を受け取ると、

素早く、蒼がいつも入れている引き出しの中にしまった。

それから1分もしないうちに、清川さんが入ってくる。

奥村さんはいつものように話し始め、副社長も声をかけていく。

データをあれこれ拾い上げ、片っ端から手紙を出したこと、

蒼が秘密だと言ったわけでもないのに、

私は自然と、清川さんの目からそらすようにしていた。


「こんにちは」

「こんにちは」


当たり障りのない挨拶。

私は普段通りの仕事をしようと自分の席に戻る。

清川さん自身から、何かおかしなことを言われたわけではないのに、

蒼があれこれ話さなくていいと言ったからなのか、つい身構えてしまう。


あの日、牧野さんが来た日も、

蒼は、チェックをする封筒を、自分のテーブルからわざわざ部屋の隅へ移動させていた。



『知られたくない』



私にはそんなふうに思えて。


「すみません、帰り道でつい」

「いえいえ、いつでも」


清川さんは社長と20分近く話をした後、『キタック』を出ていった。





『借金の返済』


これで4回目。

完済出来たわけではないが、祖父母の助けで、まとまったお金を入れられた。

そのおかげで、気持ちにも少し余裕が出来た。

毎月、これくらいの同じ金額を送り出していけば、来年の今頃には、この通帳も……



そう通帳……

これは、返さないとね。



『古川蒼』の名義、私が持っているのはおかしいのだから。



金額の記載された通帳を、ケースにしっかりと収め、私はATMの前を離れた。


【13-4】



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気になります

ナイショコメントさん、こんばんは

>毎日、楽しみにしています
 今までの作品も全て読みましたが、
 今回の作品は、特にお気に入り4つに並ぶくらい入れこんでいます

おぉ! それはありがとうございます。
このコメントをいただき、その『4つ』が非常に気になります

みんな読んでいただけているのなら、
なんだろうな……
しかも4つでしょう、嬉しいけれど。

また、ナイショで結構です
お知らせください(願い……)