13 混乱の中 【13-4】

【13-4】


季節は7月から8月に入る。

その日もいつものような『定例会』が行われたが、

思いがけないものをみずなから渡された。


「何、これ」

「何これって、『SANGA』の新車発表会の招待状」

「おぉ……」


藍子はそのチケットを私の手から取り、

こういうのは誰でももらえるものなのかと、みずなに聞き返す。


「普通はね、誰でも入れるわけではないの。マスコミの人とか、
あとは長い間、顧客でいてくれる人たちとかに渡すの。
はい、戻してくださいね、これは間違いなく風音宛だから」


みずなは藍子の手から取り上げると、私の前に出した。

藍子は、『あぁ……』と嘆き、まだ未練があると両手を伸ばしてみせたかと思えば、

すぐに冗談だと笑い出す。


「ねぇ、でもどうして風音に?」


藍子は、風音はこっそり車を買ったのかと、ウソにもならないことを言い、

また一人で笑い出す。


「藍子。何ツボに入っているのよ」


私は藍子の背中を軽く叩き、

みずなに『どうして私宛てなのか』と当たり前の疑問をぶつけた。


「どうしてって私に聞かないでよ。この間、里穂さんが販売店に来てね。
いきなりよ、いきなり。吉村さんは蒼と同級生なのねって」

「エ?」


みずなが言うには、『販売店』を尋ねてきた里穂さんは、

みずなが蒼の同級生であることを知り、話しかけてきたと言う。


「あ、ちょっと待って、ねぇ、それってさ……」


藍子は、蒼と里穂さんのことを知らなかったので、

どういうことなのとみずなに問いかける。


「あ、えっと……」


みずなは『SANGA』のお嬢さんと付き合っている男性が、

自分たちの同級生だと、簡単に説明した。


「同級生って、あの……ほら……」


藍子が私の顔を見るので、頷くしかなく。


「エ……あの写真の人ってさ、風音の……」

「私はさ、同級生だとか、一度もそんなこと言っていないのに、いきなり言われて。
でも違いますとウソつくわけにもいかないでしょう。
そうですがって引きつった顔しちゃったわよ」


みずなは、藍子のツッコミを横に置いたまま、話し続ける。


「風音と偶然職場で再会……じゃなかったの?」


藍子は、ときめくような再会ではなかったのかと、まだ言葉を重ねてきた。


「藍子、変な期待をさせてごめん。彼にはちゃんと彼女がいました。
しかも、みずなの言うとおり、『SANGA』のお嬢様、北島里穂さん」

「うん」

「あまりの大きさに、口がぽかんと開いたわよ」


みずなから聞いたあの日なら、こんな余裕はなかったと思う。

藍子がいても、明らかに落ち込んだ表情を見せただろうし、

話をうまく流すことも、出来なかっただろう。

『時間』はやはり、一番の薬なのだと、そんな気がする。


「そうか……」


なぜか落ち込む藍子の横で、

みずなは、蒼は高校時代、どんな人だったのか聞かれたと話し続ける。


「なんて言ったの、みずな」

「エ……まぁ、バスケをしていて、先輩や後輩、もちろん同級生からも結構、
人気者でしたって」

「おぉ……」


藍子は、それは完璧な返事だと、頷いていく。


「それだけ褒めてもらったら、お嬢さん、上機嫌だったでしょう」


藍子の言葉に、みずなは『どうかな』と言い返す。


「あれ? なんで」

「里穂さんって、素直に表情に出る人みたい。
蒼がバスケをしていたこと、聞いたことがなかったって」


『バスケットボール』

球技大会などでも、蒼はいつも中心選手だった。

バスケの試合には、たくさんの応援が来ていて、いつも盛り上がって……

高校の頃は大好きだったはずなのに、そういった昔話を、しないものなのだろうか。


「どうも蒼は相当忙しいらしいよ、東京に来たから、もっと会えるかと思っていたのに、
なかなか時間が取れなくてって」


私は、みずなから受け取った、チケットを見る。


「喧嘩でもしたのかね」


藍子はそういった後、急に両手を目の前で叩いてみせる。


「何よ、急に」

「いや、違う。ねぇ……もしかしたらさ、その彼、なんだっけ? 古川さん、
心変わりしているんじゃないの?」


藍子は、お嬢様と付き合っていたけれど、風音と久しぶりに再会して、

昔の気持ちが揺り起こされたと、身勝手な分析をし始める。


「そうよ、そうそう。だから、お嬢様は気が気ではないの。
みずなに様子を聞いて、この招待状を風音に渡して、さて、どんな女かと……」

「風音、ごめんね、受け取ってしまって」

「うん……」


みずなは、目の前で出されたので、断れなかったと私に謝ってくる。


「ねぇ、聞いている?」

「名前が記載されているから、人に渡すのもね……」

「うん……」

「ねぇ、二人とも私の話を聞いている?」


藍子の大きな声に、みずなが『バカバカしい』と切り捨てようとする。

私は、正直聞いていたが、反応することは出来なかった。

もういい加減にしようと決めたはずなのに、心がまた、振り返ろうとしてしまうから。


「バカバカしくなんてないよ。あるでしょう、ドラマでも、漫画でも。
人の心は動くんだよ、しかもさ、風音とその古川さんとは……」

「漫画は漫画、現実は現実。風音もそう思うでしょう」


みずなの言葉、私はもちろん頷く。


「本当に思っている?」

「藍子、適当なことを言わない。『SANGA』のお嬢さんだよ、
彼女のために東京に出て来たんだよ、喧嘩くらいするかもしれないけれど、
具体的に、そんな雰囲気、蒼から出された?」


みずなの気持ちは、よくわかった。

あのときと一緒。私がまだ、心のどこかで蒼を忘れていないと知っているから、

だから『あり得ない』ということを、強く押し出してくる。

どう考えても、どう見ても、相手の方が上。


「そんなことは何もない」


突然、『清廉高校』が見える場所に連れて行かれたこと、

その場で、ふざけたのかもしれないが、抱きしめられたこと、

それは心の奥底に、しまっておけばいい……


【13-5】



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