14 告白の風 【14-1】

14 告白の風

【14-1】


「これくらいの予算で、収まると思います」


タブレットに全ての条件を入れて計算をすると、おおよその見積額が出てくる。

もちろん、引っ越し先で階段を使うとか、持ち込みにくい荷物があるかとか、

それぞれの条件で多少金額が動くこともあるけれど、驚かれるほどの差は生じない。


「あぁ……はい」


表情を見ると、予算内くらいなのかな。


「『キタック』は、個人の引っ越しを手がけて、いつも高評価をいただいておりますので。
どうか、お任せください」


公営住宅から引っ越しをするのは、結婚3年目を迎えたご夫婦だった。

赤ちゃんが生まれて、これから共働きする予定もあり、

思い切ってマンションを買ったのだと、嬉しそうに話してくれる。


「そうですか……それは。あのあたりは緑も多いですし。
お子さんを育てるにはいい環境ですよね」


若い夫婦なので荷物の量はそれほどでもないが、奥さんは赤ちゃんの世話で、

引っ越しの準備をするのも難しく、今回は全てお任せのパックを選んでもらった。

私は、家具なども部屋を見ながら徐々に揃えると話す奥さんに、

『キタック』のボックスは、

一時の家具としても扱えるものがあると、タブレットの別ページを開きさらに説明した。

ただのダンボールよりも少し金額は高くなるが、入れ替えの面倒なところや、

ゴミを出し、まとめることを考えると、お得感はある。


「わかりました、それではこれで」

「ありがとうございます」


私は書類を出して、奥さんにサインをもらった。

ご家族の年齢を見ると、私と一緒だと言うことがわかる。


「年齢、同じです、私」

「エ……そうですか?」


奥さんは主人も一緒の年齢で、『高校の同級生だ』と教えてもらう。


「同級生ですか」

「はい、高校時代は特に親しかったわけではなくて、卒業してから会うことがあって……」


幸せなお話。

私は頷きながら聞き、書類に必要事項を全て記入する。

奥さんのお仕事は保育士で、子供の扱いには慣れていると思っていたが、

自分の子供はまた違うものだと、色々話してくれる。

普段、赤ちゃんと二人だけという時間が多いからなのか、

『聞いてもらえる』という時間が楽しいのか、

出してもらった紅茶をおかわりさせてもらい、私は話を聞き続けた。





『橋爪クリーニング』



久しぶり。

でも、何も変わっていない……ように見える。

お客様のところに先に寄ったので、紙袋など持っていると気になると思い、

今日は自分のバッグにおさまるくらいの、

『チョコレート』の詰め合わせをおみやげに選んだ。

この隣に住んでいた頃と同じように、カランカランと鳴るお店のドアを開ける。


「はい……いら……あら、やだ、風音ちゃん」


奥さんの変わらない明るい顔。


「すみません、もっと頻繁に顔を出すようなことを言っていたのに、お久しぶりです」

「そうよ、そうよ、でも、嬉しい。ねぇ、ちょっとお父さん。風音ちゃんよ」


奥さんは中に入ってとカウンターを開き、客ではない扱いをしてくれる。

中に入ると、昔からいた職人さんが2人、『久しぶり』と声をかけてくれた。


「お久しぶりです」


高校の頃、帰りに立ち寄らせてもらった頃には、まだみなさん新人に近くて、

よくおじさんに怒られていたけれど。

今の手つきは慣れていて、この二人のどちらかが主人だと言われても、

納得できてしまうだろう。


「おぉ、風音ちゃん」

「お久しぶりです」


おじさん、変わらないけれど、少し白髪が増えた。

私はお土産を出し、遠慮無くソファーに座らせてもらう。


「今、となりの公営住宅にいたんです。うちで引っ越しをしてくれるお客様がいて、
その見積もりで」

「あぁ、そうだったの」

「場所を聞いて、私が行きますって、そう言いました。ここに顔を出せると思ったので」


それはウソではなく、本当のこと。


「ねぇ、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「あ……今、お客様のところで、紅茶をいただいてきたので、いいです」

「あらやだ、だったらコーヒー1杯だけ出すから」


おばさんは、何も出さないわけにはいかないと、そう言ってくれる。

私は『それなら』とご厚意を受け入れ、窓からの景色を見た。

自転車の学生が公営住宅の中に入ってくる。

着ている制服を見ると、『清廉高校』のものだった。



『風音……』



蒼が着ていたものと同じ。



「はい、風音ちゃん」

「ありがとうございます」


おばさんがカップを置き、私の前に座ろうとした時、

カランカランとお店の扉が開く音がした。


「あ、ごめん、誰か……。あ、やっぱりいい、私出るから」


おばさんは最初、従業員にお店を頼もうとしたようだったが、

お客様の顔を確認したからなのか、慌てて出て行った。

姿を見て、あえて出て行ったということは、よく知っている人ということだろう。

お盆を持ったまま、その女性と挨拶をしている。

何を話しているのか、ここには聞こえてこないけれど、でも、小さな伝票を持ち、

おばさんが台の上に乗せたのは、花柄のワンピースに見えた。

お客様の年齢からすると、娘さんのものと思う方が正しいかもしれなくて。


「いやぁ、風音ちゃん。元気だったか」


おばさんの代わりに、おじさんが前に座った。

私は、『元気ですよ』と両手を握り、ガッツポーズらしきものをしてみせる。


「そうか……」


おじさんはそういうと、おばさんが自分用に置いたはずのコーヒーに、

勝手に口をつけてしまう。

私は、それでいいのかわからなかったが、とりあえず自分の分に砂糖を入れた。


「今、来ているお客様の娘さん、確か、風音ちゃんと同級生だったはずだよ」

「エ……」


同級生のお母さん。

私はあらためてお客様の顔を見た。

小学生の頃は、家にまで遊びに行くと、自然とご両親の顔を覚えていたが、

高校生にもなると、さすがにあまり家に行くことはなく、

母親の顔ですぐにわかるのは、蒼のお母さんと、みずなのお母さんくらいかもしれない。


「誰かな……」

「新井さんだよ」



新井さん……


【14-2】



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