14 告白の風 【14-2】

【14-2】


『新井絵史』



浮かんだ名前。

そういえば、前に、みずなから聞いた気がする。

絵史が色々とあったということ。


「風音ちゃん、友達だっけ? 新井さんちの娘さん」


『友達』と聞かれたら、間違いなく首を振りたい。

しかし、ここで思い切り振るのも大人げないから、軽く傾げてみる。


「何度か話しをしたことはあるかな。大学も一緒だったし……」


そう、『城相大学』に入ってからすぐに、くだらない噂を広められ、

思い切り言ってやったことを思い出す。


「あぁ、そうか……そうだったね、城相だったよね、風音ちゃんも。
新井さんちの娘さんは、お付き合いした人とのトラブルで、一度休学したけれど、
結局、通えなくて辞めたって聞いて」



辞めた……



「そうなんだ。学部が違うから、3年になると校舎も違うでしょう。
だから、会わなくなったから、知らなかった」


絵史、確かすごく痩せたって聞いた。

自分に自信があって、いつもハッキリものを言う人だったのに。

そう思いながらお店の方を見ると、おばさんがビニールにワンピースを入れて、

渡しているところだった。あれ、絵史のということだろうか。

絵史のお母さんはおばさんに頭を下げて、店を出て行った。

くつろいでいるおじさんに気付き、『何しているのよ』と文句を言いながら戻ってくる。


「何しているって、俺だって風音ちゃんと話したいよ」

「さっさと仕事しなさいよ、さっき休憩したでしょう」


おばさんに追いやられ、おじさんは立ち上がると、文句を言いながら仕事に戻る。

おばさんは少なくなったカップを見て、『あいつが飲んだ』と、

文句を言いながら、口をつけていく。


「今来ていたのね……」

「うん、絵史のお母さんだってね」

「あら、わかったの?」

「ううん、おじさんに聞いた。
友達から、絵史が痩せちゃったらしいというのは聞いていたけれど……」

「うん……前に来てくれたことがあったけれど、高校生の頃のかわいらしさ?
なんていうのかな、ピチピチしているような雰囲気、全然無くなっちゃって。
痩せたと言うより、『こけている』って言えるくらいなのよ。
怖いよね、人とお付き合いするっていうのも」


おばさんは、バイトで知り合った男性に夢中になった絵史が、

半分同棲のようなことを始めてしまい、家に戻ってこなくなったこと、

しかし、半年ほど経つと、その男性からの暴力で、

体調を崩してしまった話などをしてくれた。

私はコーヒーを飲みながら、『その人が好きだ』と思うと、

一気に走ってしまうような絵史の過去を思い出し、頷いてしまう。


「独占欲っていうの? 強かったみたいでね、夢中になっていた時には、
学校にもほとんど行っていなくて、バイトばかりして、
旅行とか楽しんでいたみたいだけれど、単位が足りなくなるからって、
絵史ちゃんが言いはじめたら、急に……」


おばさんは左手で拳を作ってみせる。

つまり、DV。


「今の若い子たちは、感情のコントロールが効かないのかしらね。
なんだか、写真をネットに出されたとか、なんだとか……」


おばさんはそういうと、私の戸惑っている表情に気づいたのか、絵史の話を止めた。

そこからは、母の入院のこと、私の仕事のことなど、懐かしさと近況報告で、

あっという間に時間が過ぎていく。

1時間半くらい、しゃべって笑って過ごした後、

重たくなって根付いたかもしれない腰を私はやっとあげる。


「今日が仕事だったことを、すっかり忘れてました」

「あはは……そうだったね、そういえば」


私は、また遊びに来ますとおじさんとおばさんに挨拶をして、

『橋爪クリーニング』を出る。



『新井絵史』



絵史のお母さん。うちの母よりも背は小さいように見えた。

蒼のお母さんがよくしていたような、髪留めで、髪をまとめていて。

みずなのお母さんのように、よく笑ってくれるのかわからないけれど、

きっと、『子供を思う気持ち』は変わらないだろう。


『写真をネットに……』


どんな写真なのかなど、調べてみようとも思わない。

高校の時の事件を、絵史に身勝手に広められたことは、今でも許せないと思うけれど、

でも……

彼女もきっと、今は傷ついているのだろう。



そう、傷つくのは、いつでも女性。



気持ちは変わっても、好きだと言う思いがあったのなら、思い出を汚すことなど、

しないでほしいのに。



川の流れ、木々の香り、

時が夢を実らせ、風が思いを運ぶ。



『清廉高校』の校歌。

私もみずなも、そして蒼も絵史も……

自分がどう思おうと、時は自然と重なっていって。

子供だった時代は、もう振り返っても見えないくらい、遠くに行ってしまって……



大人になったという現実に、気持ちを追いつかせるには、

どうすれば、一番いいのだろう。





「おはようございます」

「おはよう」


蒼が『キタック』に出勤した日。

私は、タイミングを見つけて、話しかけることにした。

同級生だということは知られたが、里穂さんとのことまで、

ここでペラペラ言うのは、どうかと思うので。

蒼が立ち上がり、下へ降りていくのがわかったので、

私もタイミングを合わせ下へ向かう。

おそらくコンビニにでも行くのだろうと思いながら歩いていく。

横断歩道を渡るところで、追いついた。


【14-3】



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