14 告白の風 【14-3】

【14-3】


「ねぇ……」


私が着いてきたことに気づかなかったのだろうか、蒼は思い切り驚いた顔をする。


「ごめん、そんなに驚いたの?」

「あ、うん……」


手に持っていたメモらしきものを、ポケットに押し込んでいる。

タイミングがタイミングなので、隠されたような気がしたけれど、

今は、そんなことをあれこれいうところではなくて。


「何」

「あのね、これなんだけど」


私はポケットから『招待状』を取り出した。

もちろん、『SANGA』の新車発表会の招待状。

蒼は、どうしてという顔をする。


「みずなに、里穂さんがくれたらしいの。蒼と私たちが同級生だって知って。
これ、私の名前でくれているけれど……。ごめん、こういうものに興味がないし。
蒼もわかるでしょうけれど、車を買うなんて余裕、うちにはないしさ」


私はルールもわからないので、『キタック』の他の人にあげてしまうのも、

また失礼かもしれないと思い、蒼に渡すことにする。


「蒼から里穂さんに戻してくれないかな。ありがたいけれどって」


蒼は何も言わないまま、招待状を受け取ってくれた。


「中西さんとか松田さんは興味があるみたいだったの。それとも、あげてもいいのかな」

「いいよ、これは俺が」

「あ、うん……」

「風音が渡したりしたら、どうして持っているのかとか、
また聞かれることになるだろうし」

「あ、そうか、そうだね」


そうだった。

よりにもよって、『SANGA』の社長の娘さんからいただいたもの。

どうしてもらえるのかと聞かれたら、蒼のことを言わないとならないだろうし。

お付き合いをしていること、販売店に顔を出しているのだから、

隠しているわけではないだろうけれど、関係のない職場で話すのは、

確かにおかしな話だ。

何気なく道路を渡ってしまったので、そのままコンビニに向かおうかな……


「ねぇ、蒼。仕事、忙しいのかもしれないけれど、心配させない方がいいよ」


里穂さんが、みずなに少し愚痴を言ったこと。

思わず蒼に語ってしまって。

高校生の時、二人きりだと、なんでも結構言えてしまったような気分で、

明らかに『余計なこと』を発した私。

蒼の表情、完全に迷惑そうで。


「ごめん……また余計なことだ、私には関係ないのに」

「そう思うなら言うなよ」

「うん……」


蒼はチケットを受け取った状態で、駅の方へ行ってしまった。

私はそのままコンビニに入り、ふらっと店内を歩く。



『心配させない方がいいよ』



そうだよね、おせっかいだよね。

これだって、里穂さんが私に言ったわけではなくて、みずなに言ったことなのに。

恋愛なんて、全然出来ていない私が、何を言っているんだか。


「はぁ……」


思い切りため息をつくと、品物を棚に入れていた店員さんに、

不思議そうな顔をされる。私は小さなチョコレートの袋を取ると、

そのままレジに向かった。





「いやだ、何これ」

「嫌なのか、いいのか、妙な言い方ですね、奥村さん」

「美味しいってことよ」


以前、私が中村さんと昼食に出かけたとき、

自分を誘ってくれなかったとぼやいた奥村さんを連れて、2回目の中華料理店。

話題は、奥村さんの後任についてということになる。


「『MAKINO』からですか」

「うん……どうもそうらしいよ」


中村さんは、経理関係のベテランが抜けることを知った『MAKINO』が、

いよいよ動き出すのではと警戒する。


「社長はね、風音ちゃんもいるし、フォローとして着くのなら、
主婦のパートでも構わないと思っていたようだけれど、
『MAKINO』がバツを出したみたい」


お金を扱う場所に、確かに一人が君臨してしまうと、良くないというのは、

ニュースなどでもよくみる話だった。仕事の仕方に理解をしてくれているとはいえ、

そこはやはり上から下を見ている気分なのだろう。


「うちの監視も含めているからね、今はその役を古川さんがしているけれど、
どうも彼の話だと、秋には神戸に戻るのではないかと言っていたし」


『神戸』

そうか、そういえば清川さんが言っていたっけ。蒼は戻るんだ……


「まぁ、本来、期待されている人材なのだろうから、向こうにいるのが普通でしょう」


中村さんはそういうと、この間と同じチャーシュー麺を、美味しそうにすすっていく。


「風音ちゃん、頑張ってね。乗り込んでくる人に、いいようにされたらダメよ」

「いや、奥村さん、それってプレッシャーですよ。残ってくださいもう少し」


私は本音でそう言った。

『MAKINO』から、バリバリ仕事が出来る人が送り込まれてしまったら、

太刀打ち出来ないことも、東京支社の雰囲気を感じた私としては、予想が出来る。


「あ、そうそう、そういえばさ、『電旺』の前の同僚から電話があってね。
急に、『MAKINO』で仕事をしませんかという、ちらしの入った封書を受け取ったって、
そう言われたんだ。何、あれ、どこまで出したんだよ」


中村さんは、担当だと思える私に、そう聞いてくる。


「あ、えっと……」

「だってそいつさ、大学時代に、バイトの面接をしただけだよって。
驚いていてね。結局、条件が合わなくて、やめたんだよ。
まぁ、その頃に住んでいた場所から、未だに動いていないのも驚きなんだけど。
俺が転職したことも知っているから、どうなんだって連絡入って」


確かに、そういう思いを持つ人は多いはず。

だから私も蒼に言ったのだから。


「何……名簿3段階全てに出したの」

「はい」


奥村さんは、名簿の種類について私と同じように知っているため、

驚きの声を上げた。中村さんは何がと聞き返す。

奥村さんから名簿についての説明を受けながら、『本当なのか』と私を見るので、

頷くしかなく。


「古川さん、何かあるのかな、彼は」


中村さんは、蒼がいつも何かを考えている気がすると、そう言った。

表と裏があるというと、言い方が悪いかもしれないがと前置きをして、

心が見えないところが多いと、首を傾げてしまう。


「あ……」


中村さんと目があった。


「ごめん、石本さん、同級生だったよね」


そう、同級生。


「悪口に聞こえたかもしれないな」

「いえ、私も……」


そう私も、今の蒼が一体、何をしたいのか、どうしてなのかという疑問符ばかり、

膨らんでいく気がする。


「高校生の頃を知ってはいますけれど、それからもう何年も経ちましたから」


絵史のことにしても、人は出来事が何かあれば、あっという間に環境が変わる。

ある瞬間だけを知っているからと言って、それが全てではない。


「一緒に仕事だの、協力だのと言っても、『MAKINO』は『MAKINO』ってことよ」


奥村さんは、残ったお冷やを飲み干すと、伝票を持ち立ち上がった。


「あ、奥村さん、ここは」

「いいの、いいの」


私ももちろん財布を持ち、自分の分は払いますと声に出すが、

奥村さんは、中村さんの手も、私の手も、ペチペチと軽く叩く。


「お二人のランチに、お邪魔しちゃったから、いいのよ」


その言葉に、思わず中村さんと目を合わせてしまう。


「奥村さん……」


結局、奥村さんのおごりということになり、その日の昼食は終了した。


【14-4】



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