15 決断の夜 【15-1】

15 決断の夜

【15-1】


「誰を探しているの? どうして? ねぇ、何か、私が手伝えるのなら」

「その必要はない。風音には……」

「……蒼」


蒼はリストで出した封筒全てのチェック用紙を持つと、私の前に立った。

私はそれを受け取り、200人近い数の名前と住所を見る。


「確かに、風音の言うとおりだ、妙な行動だったかもしれない。
でも、あのチラシを見て、仕事を希望する人が出てきて欲しいというのも事実なんだ。
だから、誰かに指摘されたら、そう答えてくれたらいい」


蒼から受け取ったリスト。

名前、住所がびっしり書かれている。

この人たちの中に、探している人はいたのだろうか。


「見つかったの? その人」


蒼は遅れたタイミングで頷いた。

本当に見つかったのか、そうではないのか、わからないような答え方だけれど。


「そう……」

「いくら風音でも、何をしているのかどうしようとしているのか、
全て話してしまうわけにはいかないんだ。でも、お前が気にするようなことではない。
それだけは保証する」


ポンと肩に触れた、蒼の手。

昔、『ふくたろう』の横で、宿題を教えてもらった時……

頭にポンポンと触れられたことを思い出す。


「清川は、そうだな、まぁ、簡単に言えば、牧野から指名された見張り役だ」

「見張り?」

「あぁ……。俺が東京で妙なことをしないように、見張っている」


蒼はそれだけを言うと、部屋を出て行こうとする。

まだ終われない。

私は、蒼が出て行かないよう、先に扉の前に行き、ドアノブを隠すように立った。


「見張りってどういう意味? どうして蒼が見張られないとならないの?」


意味がわからない。蒼は『MAKINO』の社員だ。

しかもしていた仕事を見たら、会社の重要書類を持ち出すようなものでもなくて。


「見張りっていう言葉に、そんな反応をするなよ。
大学出たての『もの知らず』だから、心配なんだろう。ほら、そこをどいてくれ。
聞かれたことに答えた。もうこれ以上はお前に話すことではないから」

「ねぇ……何かテストでもされているの?」


そう、牧野さんと蒼のお母さんが再婚したのなら、

それこそ見張られるなんておかしな話だ。

奥村さんが言っていたように、『縁者』なのだから。


「ねぇ、蒼……おばさんは……」

「風音、そこをどいてくれ」

「まだ話の途中」


どいてしまったら、今、蒼を帰してしまったら、二度とこんなふうに言えない気がした。

蒼が来てからずっと、心に引っかかっていたこと。

人は成長する、人は変わる。それはわかっているけれど、

私は『世界一の笑顔』を、まだ忘れていない。


「蒼のおばさんと牧野さんは再婚したのでしょう。だったら、蒼は……」


バンと音がして、私の顔の右側に蒼の左手が伸びた。

扉に押し当てるようにした手から出た音は、『威嚇』そのもので……


「そんなふうにされたって、怖くなんてない。このままは引かない。
今日は言わせてもらう」


今日しかない。

なぜだとかではなく、そういう気がした。


「わかっているよ……私なんかが蒼の今を知っても、大して役には立たないことくらい」


高校時代からずっとそうだった。

助けてもらうのは私、助けてくれるのは蒼。

今だって、蒼がお金を貸してくれたから、こうしてこの場所に立っていられる。

あの助けがなかったら、2つの仕事に体がおかしくなっていただろう。


「ずっと、私ばかり……私ばかりが蒼に迷惑をかけてきたから」


宿題の答え、貼ろうとしても届かないポスター。

蒼はいつも、笑顔で答えてくれて……


「迷惑……かけっぱなしだから……」


『神戸』に戻ってしまったら、もうきっと、こんなふうに会うことはなくなるだろう。

東京に戻ってくることがあっても、もっともっと、距離は遠くなる。



私、何をしているのだろう。



『諦めるために』、全てを知ろうとしたのではなかったのか。



何から何まで、私が入り込めないことも、自分で納得したはず。



壁に置かれた蒼の手が、私の背中に回った。

体が、蒼の方へ引き寄せられて……


「風音に迷惑をかけられたなんて、一度も思ったことはない」


蒼の声が、耳元に届く。

吐き出される息の音も、その熱さえも、届く気がする。


「そんな顔するな……お前らしくない」


蒼には、里穂さんがいる。

だからもう……思い出の1ページは、閉じてしまうべきなのだろうけれど。


「蒼……だったらもっと笑ってよ」


蒼が笑顔でいるのなら、あの頃のように笑ってくれていたら、

私も前に進める気がする。

『あの日は戻らない』ことを、自分自身に言い聞かせたいから。

だから今が幸せなのだと、笑って欲しいのに……


「私が転校した後、バスケを辞めたことも、
それに、少し勉強につまずきかけたことも聞いた」

「それは……」


そう、会社の下でも一度、バスケを辞めたことについて聞いた。

そのときは『知ってどうする』と冷たく言われて、次の言葉が出なかった。


「蒼が決めたことだし、私には関係ないと言うかもしれない。
でも、あの事件の後だったから……ううん、私はおばさんから蒼が、
選抜チームの合宿に言ったことも聞いていたから。どうして急にって。
クラスの雰囲気がおかしくなっていたことも聞いたし、結果的に、
蒼に迷惑をかけたのかもって……」

「違う!」

「違う?」

「あぁ、それは違う。風音が転校した後、確かにバスケを辞めた……
でもそれは別の……」


蒼が大きく息を吐いた。

何かを言おうとしたのだろうか、言葉はそこで急ブレーキをかけられたように止まる。


あの時、私は自分のことを考えるだけで精一杯だった。

成人式で出会ったみんなが、私のことを黙って受け入れてくれたとき、

色々な感情や、色々な光景が、みんなにもあったのだと、少しわかった。


学園祭を一緒に過ごそうと話し合い、あの日、最後に私と別れた蒼は、

きっと、複雑な思いがあったはずで……


「あと少し、待ってくれないか」


蒼は私を見ると、そう言った。


【15-2】



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