15 決断の夜 【15-3】

【15-3】


くどいような甘さではないから、スッと口に運べるし、

スポンジの柔らかくしっとりした感じは、口の中で広がっていく。

中村さんのチーズケーキもきっと……


「食べてみる?」

「エ?」

「俺、まだ口をつけてないからどうぞ」


中村さんはそういうと、フォークでケーキを半分にして、

私のお皿にのせてくれる。


「こんなにいいですよ」

「いいって、というより食べてよ」

「中村さん、ケーキ食べたかったわけではないのですか?」


好きだから頼んだのかと思っていたのに……


「正直言うとさ、あまり得意ではない」

「エ……」

「でも、向こうが自慢だって言うし、これはね」


言葉に意味を含めたことがおかしくて、私は自然と笑っていた。

中村さんはきっと、私が楽しめるように、このお店を選んでくれたのだろう。

贅沢ができない暮らしであることを、知ってくれているから。


「すみません、食べてみたいと思っていたので、遠慮無くいただきます」

「いえいえ、助かります」


結局、両方のケーキを味わった私は、中村さんにお礼を言ってお店を出ることになった。

駅までの道を、ゆっくりと歩く。


「中村さん」

「何?」

「すみません、またおごってもらうことになってしまって」


また私が次はと言うと、中村さんは首を振った。

『そうだね』と受けてくれると思っていたので、予想外の展開に、言葉が出なくなる。

『もういいよ』という意味なのか……


「ごめん、気を悪くさせるつもりではないんだ。ただ、今日は少し違う話をしたくて」


中村さんは一度私の方を見てくれた。

『違う話』という言葉に、自然と身構える。


「同じ会社にいるし、社長から色々と仕事の相談を受ける中で、
一緒に色々と考えてきたから、そう、だからだと思っていたんだ」


一緒に考えてきた……

『MAKINO』との仕事が始まる前のこと。


「石本さんは現場のことも知っているし、身軽に動いてくれるし。
頼りになるしと、そう思っていた……でも……」


でも……


「一人で頑張っている姿を見ると、もっと相談に乗ってあげたいし、
相談してもらいたいし、何か役に立てるのならとあれこれ考えたり、
いや、同じ会社だから、プレッシャーになってもと、気持ちが行ったりきたりしてね」


中村さんは、いつも冷静な人だ。

中西さんが言っていたように、ミスをしたところなんて見たことがない。

でも、どこかまとまりきれないような言葉が、

緊張しているのかもしれないと思えてきて、

私も同じように鼓動が大きく強くなる気がする。


「そのくせ、ただ、頼りになる兄さんだと思われるのは、正直辛いなと……
この間、思ったんだ」


中村さんは『砂戸屋』での食事会の時、

私が『お兄さん』と言ったことだよと、教えてくれる。


「俺は自分が男として、石本さんを見ていることに気づいていたから、
この状態は、どうなのかなと」



男として……



「今ならまだ、気持ちを切り替えられる気がするから、
だから今日は普段と違う場所に誘った。普段の空間ではない場所に、こうして来てみた」


普段とは違う場所。


「石本さんに、仕事ではない時間、会うべき相手として、
見てもらえるのかどうか……考えて欲しくて」



中村さんが、私のことを……



「ごめんな、突然で。でも、少しは感じてもらえているかなという、気持ちもあって」


私を女性として、見てくれている。

ストレートな告白。


「本当にごめん。同僚だから答えにくいだろうし、逃げ場もないしさ。
もう少し待てと、自分に言い聞かせてきたけれど、でも……無理だった。
気になるんだよ、気にしないようにと思えば思うほど」


私は小さく頷いた。

思えば、中村さんはいつも、気にしてくれた。

席が隣のこともあるけれど、当たり前のように頼りになって。


「石本さんに、相談できるような相手がいるのならと思っていたけれど、
もし、いないのなら……俺でも役に立てるのではないかと」


『相談相手』

ふと、昨日の出来事を思い出した。

蒼の抱えていることを知りたいと願い、困らせた私。

そのまま上を向くと、中村さんと自然に目があった。

慣れていなくて、どうしていいのかわからなくて、下を向いてしまう私。

中村さんをこれから特別な人として、見ていくこと……


「そうか、それはこの展開が予想外だって顔だな」


中村さんは、私からの言葉が戻らないことを気にしている。

明日もまた、会うことになるし…… どう答えたらいいだろう。


「わかった。無理するな、兄さんでいいよ。これからも兄さんでいい」


そういうと中村さんは私の肩をポンと叩いてくれた。

この話はここまでというように。




終わりという合図。




「あの場所、ほら、青い光がでているだろう……あれは……」


中村さんの言葉が、耳に入っていかなくなる。

私はまた、こうして曖昧な態度を取ってしまった。


【15-4】



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