16 青色の布 【16-1】

16 青色の布

【16-1】


『SANGA 新車発表会』



みずなから聞いていた発表会の日、うちにも招待状が来ていたので、

社長や副社長が出席するものだと思っていたのだが。


「お休み?」

「そうなの。社長が夏風邪らしくて。
それで、急遽副社長が別の取引先に行かないとならなくなったみたい」


奥村さんは、そういえば昨日も咳をしていたわよねと、

ドライバーリーダーの鶴田さんに声をかける。


「仕事の中で、ちょっとだけでも顔を出してくれって、そう言われたけれど。
どうする? 松田さん、行く?」


中に浮いたチケットを持ち、奥村さんは行きたがっていた松田さんに声をかけた。

松田さんは、卓上カレンダーを見ながら、今日は無理だとバツを出す。


「今日は、『ルボンヌ化粧品』の依頼ですからね。あそこは『SANGA』とは縁がないし、
スケジュール動かすのは難しいなと」


もっと先にわかっていたら合わせたのにと、松田さんは悔しそうな顔をする。


「とりあえず、顔だけを出せばいいのでしょう。風音ちゃん、行ってきなよ」

「エ……いえ、あの……」


里穂さんから招待状をもらったのに、それをお断りしておいて顔を出すというのも、

またおかしな話だ。


「俺、『高見屋』の帰りに顔、出しましょうか」

「あ、そう?」


中村さんは会場の比較的近い場所にある企業に向かうため、

名刺を置くだけ置いてくるからと、そのチケットを受け取っていく。


「石本さんも行こう、前に、聞いてきたことあったよね、『新車発表会』のこと」

「あ、いえ、あの……」

「来てくれたら、俺、その後別企業に行くし、
『高見屋』の資料、こっちに持ち帰ってもらえて都合がいいけれど」


色々な偶然とかが重なって、

結局、私と中村さんが『新車発表会』に顔を出すことになってしまった。

奥村さんから、チケットを受け取る。

蒼に戻したのに、またここに……


「じゃ、後で」

「はい」


中村さんは先に『キタック』を出て行き、私は仕事を進めることにする。

引き出しを開けた時に見えたのは、蒼から受け取った一覧表。

データをやり直すと決めているのに、実際にはまだ進んでいない。

この中の誰かを、蒼は探していたのだろうか。



どうして……

その返事は、まだ受け取っていない。



バッグの中にある携帯。

お知らせの振動。



『ランチ、できる時間に出ておいで』



中村さんから……



ランチか……



「風音ちゃん」

「あ……はい」


奥村さんに声をかけられて、慌てて携帯から顔を上げる。


「ファイル、そろそろそっちにおくね。これからは銀行関係も、全てお願いするから」


奥村さんが『キタック』を辞めるまで、あと1ヶ月半くらい。


「そんなに迫らないでください。気分が重くなります」

「やだ、何言っているのよ、人生これからって人が」


奥村さんは笑いながら席を立つと、新聞をそれぞれの場所に収めていく。

私は携帯の画面をもう一度開き、『了解しました』と中村さんに返信した。





『SANGA 新車発表会』

私はチケットを入れたバッグを持ち、中村さんと待ち合わせた場所に向かった。

あまり遊びに出かけない私に比べて、

営業マンとして毎日出歩いている中村さんの情報量は、とにかく多い。


「あ、美味しい」


今日のランチは、とある『コーヒーショップ』。

セットになると、具だくさんのサンドイッチと、コーヒー。

そして小さなプリンがついている。


「結構強引だな、中村さんはって思っているだろう」

「……はい」


私は笑いながら、そう答えた。

嫌なのかと言われたら、もちろん嫌ではないけれど。


「素直だな、全く」

「自動車自体に興味はないですけれど、
でも、こんなふうにいつもと違う場所で食事をするのは、気分が変わっていいですね」


事務職なので、1日中、同じ景色を見ている日が多い。

仕事だから仕方がないのだけれど。


「まぁ、そうだね。そばのようなものを、さっさとすすって食事終了の日もあるし、
仮眠できるくらいのソファーがある喫茶店に入る日もあったりね」

「仮眠ですか」

「そう、営業マンは、気疲れするんだよ」


中村さんはブラックのコーヒーを飲みながら、私が食べ終えるのを待ってくれた。

こうして向かい合うことが、気恥ずかしいと言うより、普通の状態に思えてくる。



この間よりも、今日の方が……



この次に会うときには、もっと、そんな思いが強くなるのだろうか。



「さて、行くか」

「はい」


一緒に店を出て、会場に向かう。

新車発表会など出席したことはないけれど、どれだけの人が来るイベントなのかは、

ニュースなどで知っている。

里穂さんが会場に来ていて、マスコミ対応をしていても、

隅に立つ私には気づくこともないだろうし。


「『キタック』と申します」


中村さんが出した招待状。

確かにここへ来ましたという印。

私たちは会場の中に入っていく。

聞こえてくる声は、日本語だけでなく、英語、中国語などがあり、

服装からして、中東やアフリカ系と思える人たちもいた。


【16-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント