16 青色の布 【16-2】

【16-2】


「さすが『SANGA』だな」


中村さんは、日本の乗用車は小さくて燃費がいいので、

需要は世界でも増えているから、マスコミや業界の人間がこれだけ顔を出すのだと、

その様子を教えてくれた。会場の正面、スポットライトが当たる場所が2つ。

そこには今回、CMを引き受けたというタレントが立っていて……



里穂さんではないけれど……



「エ?」


肩を叩かれたので振り返ると、そこに立っていたのはみずなだった。

私はこんなところで会うとは思わなかったので、『いやだ、どうして』と、

声を出してしまう。


「どうしてはこっちの台詞よ。招待状戻したって……」

「あ、うん」


私は本来なら社長達が来る予定だったのに、色々とあってこうなったと、

みずなに説明をする。


「みずな……『キタック』の中村さん」


私は、隣に立つ中村さんを、まずみずなに紹介した。

みずなはいきなり私に声をかけてしまったことを謝り、あらためて自己紹介をする。


「同級生」

「はい……高校の。あの……『MAKINO』の古川さんと彼女も同級生で」

「あぁ……そうなんだ」


中村さんは『キタック』の中村ですと、あらためてみずなに挨拶をしてくれた。

そして、気を遣ったのか、少し前で見てくるよとその場を離れてしまう。


「ごめん風音。声かけちゃって」

「ううん、いいの。今日急に決まったからさ、
それにみずながここにいることも知らなかったし」

「うん……私も急に手伝いに行けって言われたからね」


みずなは来てもパンフレットの整理くらいだけれどと笑う。


「里穂さん、いないの?」


もし、里穂さんがいたら会場のどこかで輪ができているだろうと思ったので、

聞いてみる。


「うん……本当は今日、あの場所に立っていたはずなんだけど、
なんだか体調を崩したみたいだよ。夏風邪だとか」

「あ、そうなんだ。それならよかった。ほら、チケット蒼に返したのに、
来ているって変でしょう」


知らない人とはいえ、失礼なことはあまりしたくない。


「まぁ、これだけの会場だからね、向こうは風音の顔を知らないだろうし」

「あ、そうか」


そうだった。

私は雑誌やパンフレットで里穂さんの顔を知っているけれど、

向こうは私の名前しかしらないはず。

変な緊張は、必要なかった。


「それじゃ、みずな」

「あ、うん……」


中村さんを待たせているのは悪いので、みずなと別れて、前に向かう。

ゆっくり近づいていくと、中村さんは私に気づいていないのか、

車だけをじっと見ていた。


「コホン……お客様、こちらのお車、お買い上げになりますか?」


私は、斜め後ろから、中村さんに声をかける。

中村さんの視線が動き、口元も少し動く。


「そうですね……空を飛ぶことができるのなら、考えますが」


『空を飛ぶ』

中村さんの答えに、私は思わず笑ってしまう。


「その笑い方、ふざけていると思っているだろう。
今、そこ間際くらいまで研究が進んでいるんだぞ」

「本当ですか?」

「あぁ……人が乗るかどうかはわからないけれど、ドローンではない大きさまで、
時代は動いている」

「そうですか」


車が空を飛んだら、交通ルールはどうなるのだろう。

道も書かれていないし、信号機もないのに。


「もういいの? お友達」

「はい。彼女も仕事中ですし、いつも定例会で会っていますから」

「あぁ……あの」


中村さんはそういうと、頷いてくれる。

みずなと藍子と私の定例会。そう、そういえばそんな話も、中村さんにはしていた。

借金のこと、母の病気のこと、そして友達のこと。

話していないことは……あっただろうか。


「『SANGA』には、モデルをしていた娘さんがいたと思ったけれど、
もうそういう仕事はしないのかな」


中村さんは、以前、『電旺』にいた時、1度だけ、里穂さんを見たことがあるらしい。


「今日も参加する予定だったのに、夏風邪だとか」

「あ、そうなんだ」


社長と一緒の夏風邪。

私も昔、ひいたことがあったけれど、結構やっかいだった覚えがある。


「さて、任務は果たしたので、出ますか」

「はい」


もう一度みずなの姿はないかと視線を動かしたが、人がさらに増え、

結局、そのまま会場を出ることになった。





「はい、どうぞ」

「いやいや」

「いいですよ」


それから3日後、夏風邪から復活した社長に、『新車発表会』のお土産、

ミニカーを渡した。


「お孫さん、こういうの好きでしょう、社長」

「まぁ、確かにそうだけれど」


社長は、会場に行った私と中村さんのどちらかが欲しくないのかと聞いてきた。

私たちは揃って首を振る。


「遠慮していませんから、どうぞ」

「そうですよ、どうぞ」


結局、社長はそのミニカーを受け取ってくれて、私たちの任務は完全に終了した。


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