16 青色の布 【16-3】

【16-3】


お盆に取れなかった休みを取り、数日実家に帰った後、

また『キタック』に戻ってきた。

そこには、1週間近く来られないと言っていた蒼が戻ってきていて。


「こんにちは、宮下晴香と申します」


奥村さんが職場を去ることが決まったため、

『MAKINO』側から宮下さんという女性が、仕事に加わることになった。

現在は『MAKINO』の東京支社にいるという自己紹介に、

私は思わず声を出しそうになったが、寸前で止める。

そう、いつも私が蒼を尋ねると、応対してくれたのがこの宮下さんだった。

髪型が違っていたので、全然気づかなくて。


「よろしくお願いします」

「すみません、何度かお会いしていたのに、気づかなくて」

「いえいえ、私、バッサリ髪の毛切ったので」


宮下さんは、笑顔でそう返してくれた。

蒼がしていた仕事の引き継ぎもあるらしく、松田さんがいる反対側の場所に椅子を置き、

色々と話を聞いている。

『東京』に残るという蒼だけれど、仕事の内容は変わると言うことだろう。



途中になっている話の続き



それを聞きたいという気持ちはあるけれど、とにかく忙しそうに見える。



どうなるのかわからないまま、さらに2日経った日、

『東京支社』にいる蒼から、呼び出されることになった。

一応、仕事の話だと言われていたものの、いつものパターンだと思い、

きっと、話の続きをしてくれるのだろうと、昼食を終えた後に『キタック』を出る。

『6』と書かれた部屋。

あの部屋ではいつも、蒼の本音が聞けた。

同級生口調はダメだと言いながらも、私の仕事に文句を言ったり、色々と言い合った。

何を考えて、どういうことが起きているのか、

私はそれを聞くために、少し足早に『MAKINO』へ向かった。





『6』の部屋。

宮下さんが『キタック』に来たので、今日は別の人から指示をされる。

扉を叩くと、中から蒼の声がしたので中に入った。


「悪かったな、ここまで来てもらって」

「ううん……」

「今日は、ちゃんと話ができるから」

「うん」


蒼の前に座り、言葉を待つ。

ここで全てを明らかにしてもらって……



それから……



「話せることは、俺から全て話すよ。聞き終えて疑問があったら……」

「うん」


蒼……なんだろう、今までと雰囲気が違う気がする。

確かに1週間の時間はあった。その期間にもやもやしたものは、

全て解決出来たということだろうか。


「まず、風音が気にしていたバスケを辞めたことだけれど、
確かに、あの事件の後くらいに、選抜の合宿には行った。
選ばれたことは嬉しかったし、やる気もあったんだ」


やる気……確かにそうだと思う。


「でも、現実は甘くなかった。俺よりもうまいし、気持ちも強いヤツばかりで、
帰ってきたときには、完全に小さな自信が崩されてさ」


代表になってきた人たちは、みんな必死だったと蒼は言った。

高校3年になったら自然と引退なのに、

それに、大学より先で続けるつもりもなかった自分が、

ここまできついことをするのはどうだろうかと思えるようになったと、話してくれる。


「学校で、楽しく続けようかとも思ったよ。
でも、むなしくなって。もういいやって」

「うん……」


蒼は、結局、そこまでバスケを好きではなかったのだろうと、

当時の決断を振り返る。


「自分自身、気づいていなかったけれど、どこかにおごりがあったんだ。
バスケを辞めたら、急に勉強にも身が入らなくなって。成績は下がりだして、
気持ちは焦ってきて……その悪循環だった」


私はただ、頷いていく。


「むしろ、風音にこうして会って、あの事件と結びつけられることが申し訳なくて。
全然違うのに、なんだか責任背負わせているみたいで、これはまずいなと思いつつも、
どう言っていいのか、いや、みっともないしさ」


蒼から、言葉が迷わずに、ストンと送り出されてくる。

過去のことだから、もうどうでもいいことだから、

滑るように語れるのかもしれないけれど、それなら、どうして今まで、

あえて語らないような状態を作ってきたのだろう。


「だからお前が責任を感じたり、考えたりする必要はなにもない。
本当に俺が、ダメだっただけだ。あの時期に転校するのも、
本来なら受験に不利だけれど、正直、『清廉高校』から離れられるのは、
ラッキーくらいに思っていた」


私の思い過ごしだろう。

この人と、私が時間をともにしたのは、今生きている人生24年間の中の、

半年くらいしかない。


「向こうに行くことができたから、気持ちを振り切って、
ゼロからなんとか壮明にも入れた。まぁ、『MAKINO』も用意されていたし、
気持ちはずいぶん楽になったよ」


古川蒼。

私にとって、この人は『世界一の笑顔を持つ人』だ。


「あの日……学園祭の前の日、風音に告白して、返事待ちのようになって。
でも、それから結局……」


何も秀でたところなどない私を、認めてくれた人……


「俺自身、色々なことが中途半端で。成人式で会っても、前を向くお前に対して、
どこか申し訳ないと言うか、思い出を壊すようでさ」


今までのように、黙ったり、考えたりする時間がどこにもない。

作文用紙に、話すことはこういうことだと書いてきたくらい、

スラスラと言葉が送り出されている。


「もう新しい環境に自分を向けたのに、
お前には俺……いいところばっかり残した気がして……」



『風音が好きだ』



あの言葉は、もう、戻ってこない。

あの頃の自分はもういないと、今、蒼が話している。



「仕事で、こっちに戻ってくることになって風音と会った。
お前があまりにも昔と変わっていないし、頑張っている姿を見ていたら、
悔しさのようなものが、あったのだと思う」

「悔しさ?」

「うん……。あのとき助けてやれなかったから、
今なら自分が何かできるかもと思っているのに、お前は突っぱねるし、
年齢を重ねても、頼りにはしてもらえないのかなとか、まぁ、面倒だな、男は」


蒼は、当時のことをあれこれ思い出しているうちに、

『清廉高校』に向かってしまったと、車で走ったこ日のことを説明する。


「あの頃になんて、戻れるわけ……ないのにな」


高校2年の秋。

学園祭の準備で、ただ、盛り上がっていた時間。


「風音……」

「何?」

「お前はもう……大丈夫なのか?」


何が大丈夫なのかと、ここであらためて聞く必要はないだろう。


「事件のこと、思い出して辛くなることは……」


暗い場所に鼓動を速めたり、夜道が歩けないなんてことは、もうなくなった。

私は『大丈夫だ』という意味を込めて、首を横に振る。


「そうか……」


蒼は頷きながら、また1枚先のページをめくろうとしている。

横にあったバッグを、ソファーに置いた。


【16-4】



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