16 青色の布 【16-5】

【16-5】


9月になり、蒼が『キタック』に来ることがなくなった。

宮下さんは、蒼の座っていた席に座り、私と奥村さんの業務、

さらに蒼が手がけていた広報関係の仕事にも、関わるようになる。


「はい、これが資料だからね」

「はい」


私と奥村さんの引き継ぎも、問題なく進むのだけれど。


「こうして去る日が近づくと、寂しいものね」

「いいですよ、奥村さん。延長申請しても」

「何言っているのよ、風音ちゃん」


奥村さんは、メガネを外して、軽く肩を回す。

私は冗談ではないですよと言いながら、資料をめくっていく。

仕事はおそらく、これからもこなすことが出来るだろう。

毎月、やらなければならないことは決まっているし、

時期が来たらやることもわかっている。

奥村さんの存在は、そういうことではなくて、そこにいるだけで、

成り立つ存在感のようなものがある気がして……





「まぁ、確かに」

「ですよね。ドライバーリーダーの鶴田さんがいても、
3階の業務には関わっていないから、私たちがこう……」


どう説明すればいいだろう。

奥村さんの、他の人にはない。


「全て終わりましたと、帰る場所のような……」

「そうです、そうなんです」


中村さんとの食事会、今日は奥村さんの送別会のことも兼ねていて。


「まぁ、しばらくは寂しいだろうけれど、それは仕方がないよ。
宮下さんのやり方を見ていたら、まだこれから人が増える気がする」

「『MAKINO』からですか?」

「あぁ……。古川さんは、いい意味でこっちに投げてくれていたけれど、
彼女はそうじゃないし」


中村さんは、蒼が24歳という年齢ながら、

バランスをよく保っていたと思うと、そう褒め始める。

確かに、蒼も人が増えるようなことは言っていた気がするけれど。


「彼は『海外事業所管理』に異動したらしいね」

「海外事業所? それなら、日本にいないと……」

「まるっきりいないわけではないだろうけれど」


中村さんが言うには、蒼は『MAKINO』の海外向けの荷物管理部門に異動したらしく、

月の半分くらいは、日本にいないのではないかと話してくれる。


「そうなのですか」

「まぁ、仕事は色々だし、やることも色々だろうけれど、なんだか腑に落ちないな」


食後のコーヒーを飲みながら、中村さんは首を傾げた。


「何かおかしいですか? それって」

「というか、『MAKINO』に期待をされているのなら、
行く場所ではないような気がしてさ」


本流からは外れているのではないかと言った後、

まぁ、俺たちには関係が無いけれどと、話を終わらせてしまう。

中村さんは、パンフレットを2枚それぞれの手に持つ。


「よし、こっちにしよう」


テーブルに置いたのは、以前3人で訪れた中華料理店の『放題コース』。


「駅前のレストランもいいけれど、ここならうちの人数で貸し切りが出来る。
奥村さんはきっと、堅苦しいのは望まないだろうからさ」

「私もこっちがいいと思います」

「値段もこれなら妥当だろ」

「はい」


選ばれたパンフレットを受け取り、私が電話担当を引き受ける。


「なんだか悪いね、面倒なことは全て任せた気がする」

「いえいえ、お世話になった量を思えば、私が頑張るのが当然です」


料理はお任せで頼んでも、おそらく大丈夫だろう。

あ、そうか、まず出席者の名簿を作って、それからお店に予算を話せば……


「今度の休み、映画でも見に行こうか」


中村さんの言葉に、すぐ顔をあげる。

流れるように出てきた言葉だけれど、そのまま流せない言葉。

私と目が合った中村さんが、当然だけれど、目の前にいて。


「どうでしょうか……」


『お兄さん』発言をしてからも、こんなふうに食事の中で、

仕事の話をし続けている。他にこういうことをしている人がいるのかと言われたら、

誰もいなくて。


「……ホラーは、嫌いです」

「それは俺も」


私は奥村さんの送別会をするお店のパンフレットを横に置き、

携帯で映画の情報を調べることにした。


【ももんたの小ネタ交差点 16】

『発表会』とか『展覧会』など、企業のイベントは結構でかけると楽しいものです。
コンビニの新商品の集まりなどでは、お店に並ぶ前の商品を、
味わうことが出来たりします。『新商品、美味しかったですか』と聞くと、
『美味しかったよ、でも、やっぱりオリジナルが一番かな』なんて、
同僚が話してくれたことがありました。基本はなかなか越えられません。



【17-1】



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