5 心の痛み

5 心の痛み

里塚との電話を切り、亮介は一度大きく深呼吸をした。そんな亮介に視線を一度送りながらも、

祥子は前に座り、紅茶を飲んだまましばらく黙っている。


「長谷部が黙っているっていうのは、何とも言えないプレッシャーがかかるもんだな」

「言いたいことはわかってるでしょ。あなたに会おうとした理由も……」

「……お前の方が愚痴ってない?」


祥子は持っていたカップを下へ置くと、そうかもしれないと、軽く頷いた。


「塚田さんは、人情も、愛情もない男よ。ううん、愛情はあるわね。
自分の地位に対してだけだけど」


亮介は全てわかっていると苦笑する。塚田の前に支店長だった本郷が体調を崩し、

しばらく亮介が支店を仕切る形になっていたのだが、

本社から急に塚田が送り込まれ、あっという間に、色を変えてしまった。


「坂口専務が入院して、本郷支店長まで体調を崩すなんて、本当についてないというか……
大丈夫なの? 深見君」

「何が」

「あなたの立場よ。部下のリストラをあれこれ気にするのもいいけれど、
自分の立場はしっかり守りなさいね。あなたは一人じゃないのよ、頭にきたからなんていって、
辞表でも書いてしまったら、咲ちゃんと赤ちゃんが困るんだから、いい?」

「……お前、指導員ばっかりやっているから、口調がきついぞ」

「エ……」


亮介はそう言って笑うと、自分のコーヒーの残りを飲み干した。


「そんなに簡単に、結論を出したりしないよ。あの人にいいようにされてたまるか」

「うん、そうよ、それでこそ深見だからね」


祥子が満足そうに頷くのを、亮介は黙ったまま見続ける。


「長谷部、お前そんなことを言うために、わざわざ東京から来たのか」

「……違うわよ、仙台空港からの直通便の仕事で……」


亮介がじっと自分を見ているのがわかった祥子は、苦笑しながらただ頷いた。





亮介が仕事から戻り着替えている間に、咲は食卓を整え、いつもの食事が始まった。

話題は、有給を取り、仙台へ遊びにくる親友、利香のことだ。


「来月の3日に来るって」

「3日? あ……ちょうど俺が添乗でいない日だな」

「あれ? そうだったっけ?」


仙台支店の5年目社員として、勝負のかかる太田をリーダーとしたツアーが、

3日に出発予定だった。亮介も添乗員として、参加することが決まっていて、

咲がカレンダーに目をやると、確かに3日のところに、赤いチェックが入っている。


「咲が一人になるから、ちょうどよかった」

「そうなんだ。利香のことだから、亮介さんが私を避けたとか、言い出しそうだけどね」

「……あ、言うだろうな、あいつは」


亮介は利香が何かを言っている様子を思い浮かべているようで、軽く笑みを見せた。


「太田にとっては正念場なんだ。このツアーが成功するかしないかで、
塚田支店長の気持ちも変わるかも知れないし、失敗するようなことでもあったら、
おそらくリストラの話をされるに決まってる」

「そう……」


咲は、以前、自分が体調を崩し、派遣社員になった時のことを思い出した。

同じ仕事が出来なくなり、惨めな気持ちのまま、辞めてしまおうかと思ったこともあった。


「私も派遣社員になった時には、色々考えたもの。今はもっと厳しいってことなのね」

「あぁ、派遣社員は全てなくなったからな。だから、来週、
あいつにハッパをかけてもらおうと思って、電話をしておいた」

「あいつ?」

「里塚。あいつと太田は同期なんだ。一緒に研修して、エリート候補だった里塚は
本社に残された」

「あ、里塚君、元気だった?」

「元気なようだよ。深見さんから貸しを作ってもらうのは、
とっても気分がいいとかなんとか言って、笑いやがった」

「あはは……、あいかわらず、らしいのね、里塚君って」


福岡博多支店に勤めている里塚は、以前、咲が東京西支店に勤務していた時の後輩になる。

中国から2年、戻ってこられない亮介をひたすらに想う咲を好きになり、

自分の気持ちをぶつけてきたこともあった。


「えっと……千夏さんだっけ? まだ、お付き合い続いているのかしら」


咲は食事を終えた食器を流しへ運びながら、里塚の近況を亮介に問いかける。

亮介はテーブルからソファーに移り、TVをつけた。


「しっかり続いているらしいよ。前に『華の家』の女将が、
例のお礼に来てくれたって言っていたから」

「エ……二人で?」

「そんなふうに、ハッキリとは言わなかったけどね」


亮介の言葉を聞きながら、咲は食器を手早く洗う。

布巾で皿を拭きながら、ソファーに座る亮介の後ろ姿を見ると、ひどく疲れているように見えた。

片付けを終え、黙って後ろへ回ると、亮介をそっと後ろから抱き締める。


「ウッ……」

「エ……」


思わず漏れた言葉に、咲は慌てて手を離した。

亮介はすぐに立ち上がり、リビングを出ようとする。


「ねぇ、どうしたの? 今……」

「風呂に入ってくる」

「……亮介さん」


まるで亮介が自分から逃げようとしている気がして、咲は目の前にあった左手を引っ張った。


「イッ……」


亮介はすぐに左肩を押さえ、辛そうに目を閉じる。

呼吸を整え、目を開いた前には、心配そうに亮介を見つめる咲がいた。



                                 深見家、新メンバー加入まで……あと90日
                                             (いや……まだ90日(笑))






6 7割の告白 へ……




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コメント

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悩める亮

まだ左肩が痛むのね。

芽衣とのこと、咲には言えない何の理由があるのかしら?物凄く気になる!

塚田支店長、太田くん、芽衣さん。抱えてる問題多すぎでは・・・

咲とお腹の赤ちゃんのこと忘れてないよね。

90日なんだけどね

yonyonさん、こんばんは!


>塚田支店長、太田くん、芽衣さん。抱えてる問題多すぎでは・・・

そうだよね。一つずつ解決していく予定なんだけど、
90日しかないのに、間に合うのだろうか。
いや、のんびりペースで、終わるんだろうか……

ちょい、心配(笑)

ひとつずつ、ひとつずつ

mamanさん、こんばんは!


>研修中に色々ありましたが、長谷部さん
 今は頼りになるいいお友達って感じですが、

おぉ……、そうです、そうです。
Ⅱでは、あれこれ、ありましたけどね(笑)

小さな色々を、一つずつ解決し、さらに大きなところへ
向かう予定なんですが(って、意味不明)
続きも、よろしくお願いします。

一緒に空想しましょう!

拍手コメントさん、こんばんは!


>最近リミットのこと考えてること多いです!
 どうなる?ああなる?こうなる?な~んて、

すごく嬉しいです。どうなるのかな……と気にしてくれているってことですもんね。
サークル連載時と違って、小さく回数を多くの連載方式ですが、楽しんでいただけたら。

これからも、お付き合い、よろしくです。

もやもやもやもや……

yokanさん、こんばんは!


>亮介の肩の怪我と後藤芽衣か~・・・
 そこの所が分かればすっきりするのにね、

……ねぇ。
スッキリ出来る時が来ると思うので、もう少しお待ちを。
もやもやは体に悪そうだな(笑)

ぎゃ~~@@

同期っていいわね、すべてを語らずとも分かり合える関係だもの。
男女を越えた部分もあるしね。

里塚クンの恋は、進行形なんだ~安心しちゃった^^

それにしても・・・
妻が抱きしめたのに、悲鳴を上げる夫
あぁ~~最悪・・・

次回は、きっと理由が明らかになることでしょう!

ギャー! Ⅱ

なでしこちゃん、こんばんは!


>それにしても・・・
 妻が抱きしめたのに、悲鳴を上げる夫
 あぁ~~最悪・・・

咲はびっくりしたと思いますよ。もちろん理由は
次にわかるはずです。