17 過去の声 【17-1】

17 過去の声

【17-1】


二人で行くのなら、興味のあるものを観てみたい。


「中村さん、アクションものとかも嫌いでしょう」

「どうして決めつける」

「松田さんは確か、学生時代柔道をしていたって話してくれたし、
中西さんはサッカーが好きだとか……」

「あぁ、そうそう、あいつはやるよりも見る方だけどね」

「でも中村さんにそういうイメージ、あまりなくて」


3人の中でも、体型は中村さんが一番スリムな気がする。


「あれ? 俺は文化系だと思われているのか」

「運動部ですか?」

「うん、結構、しっかり運動部だよ。学生時代は『アメフト』したし」

「ウソ!」


『アメフト』というのは『アメリカンフットボール』の略。

大きな体の男の人たちが、バンバンぶつかっているイメージしかなくて。


「ウソって何」

「あ、すみません、だってイメージないですから」


中村さんは、アメフトには体格がよくないと出来ないポジションと、

細くて足が速いほうがいいポジションがあるのだと、教えてもらう。


「俺はワイドレシーバーっていって、走るのが主だったからね。
それほどがっちりにはならなかったんだ。
あ、でも、学生時代は、今よりも筋肉ついていたけどね」


スーツ姿しか見たことがないので、私はそういうものなのかと、頷くしかなかった。

高校までは蒼がいたバスケ部の試合くらいしか見たことがなかったし、

大学に入っても、特に運動部が強いわけではなかったので、

応援をしに行く経験もなくて。


「今度、見てみるか? 俺の身体……」

「エ……」


中村さんは一瞬の沈黙の後、『何を真面目に……』と私の対応を笑い出す。

自分の顔を見たわけではないけれど、おそらく赤くなったのだろう。

耳のあたり、そんな気がするし。


「ほら、映画、映画」

「あ……」


中村さんは、私が開いた携帯画面を勝手にスクロールする。


「何をするんですか。わからなくなるのに、もう……」

「もう!」


中村さんと最初に食事をしたのは、確か梅雨になる前くらいだった。

季節が夏に向かうぞと、湿気のある空気を遠慮無く出していた。

そこからこんな時間が重なるうちに、季節は秋になり、確実に冬に向かう。

でも、遠慮がちだった口調は、1歩ずつ、確実に壁を壊していて。



『お兄さん』



そんな台詞も、消えていくくらい……

私の中には、自然と彼の声と言葉が、溶け込むようになっていた。





奥村さんの送別会は、あの『中華料理店』を利用し、貸し切り状態で開かれた。

長い間、一生懸命に頑張ってくれたと社長が号泣し、副社長が得意な歌を披露し、

松田さんが実は趣味だという手品をいくつか披露したが、その半分が失敗に終わる。

それでも、こういった温かさが嬉しいと涙声になった奥村さんの顔に、

完全もらい泣きの私は、ろくに挨拶も出来ないまま、花束を渡すことになる。

これからも、しばらくは自宅でのんびりテレビを見ていると言われ、

相談事はいつでも電話をかけていいという保険をもらったおかげで、

10月に入ってからも、仕事を止めることなく進めることが出来るようになった。



そして……

カレンダーは気づくと11月になっていて、

『キタック』には蒼の代わりに来た宮下さんと、30代くらいの男性、

『山中康平』さんと『小池礼治』さんが週の半分ずつ顔を出すようになる。

一緒に仕事を作り上げていくと話しあった『MAKINO』と『キタック』は、

模索期から、形成期に入ったのかもしれない。


「はぁ……11月か、だんだん寒くなるな」

「はい」


中村さんと食事をした店を出て、駅までの道を歩く。

まだ、11月だというのに、

街の雰囲気は少しずつクリスマスを意識しているように見えて。

ライトを効果的に使った『黄色の光』が、冬の訪れの中にも、

暖かさを伝えるような気がして……


「あ……見てください、ここ。
かわいいですよ、ほら、キャンディーの形をしているライト」

「ん? あぁ、うん」


中村さんの返事は、『あ、そうか』というくらいのあっさりしたもので。


「全く興味がなさそうですね」

「興味がないというか……いや、おかしいだろう。
うわぁ、そうなんだ、どこどこっていう男の方が」


確かに……


「そうですね」


私は頷きながら、それでもまた別の形がないのかどうか、探してしまう。


「石本……」

「はい」

「そろそろ、もう一度聞いてもいいか」


中村さんの言葉。

私は、視線をライトに向けたまま『はい』と答える。

もしかしたらという予感は、ずっと持ち続けているから……


「お兄さんは……卒業出来そうか」


最初に告白された日、

私は何気なく使っていた『お兄さん』という表現を否定できなかった。

そばにいてもらうのは嬉しいけれど、それ以上、近づく必要があるのかも、

よくわかっていなくて。

でも、今は、別の思いが私の中にある。


「……はい」


この人となら、弱い自分も情けない自分も、きっと見せていける。

私はそう思いながら、中村さんの腕に自分の腕を絡めていく。


「寒くなりますから……」


こうして一緒に、1歩ずつ歩いて行けば……

私はきっと、『幸せ』でいられる。


「よし……」


中村さんの声。


「よしっておかしくないですか?」

「いいんだよ」


中村さん……いや……

真路さんと、進む1歩目の日。


「あ、石本、ここにも飴がある」

「興味がないって言いましたよね、さっき」

「興味が出た」


中村さんはそういうと、絡めた腕をさらに近づけようとする。

そんな行為がどこか嬉しくて、私は気持ちに応えようと、自然と笑顔になれた。


【17-2】



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