18 交差の道 【18-1】

18 交差の道

【18-1】


「あのね……」


私は、高校2年の秋、学園祭の前日に自分の身に起きたことを隠さずに話した。

母がパートをしている店の常連客が、母に交際を申し込んだが、

断りの返事だったため、夜、私たちが暮らすアパートで待ち伏せしていたこと。

母よりも先に帰った私が、その苛立ちを発散するターゲットになり、

いきなり暗い玄関で、顔や脇腹、足などを何度も殴られたことを話した。

真路さんは、真剣な表情で、聞き続ける。


「意識が朦朧としていて、どう動いていいのかわからなくなった頃、
その男が……」


ひんやりとした手の感覚。


「私の胸元に、手を入れてきた……。確か、『メチャクチャにする』とか、なんとか……
でも、そこで隣に住んでいて、親しくしてくれていたクリーニング店の人たちが、
私の叫び声を聞いて飛び込んでくれたから……」


そう、最悪の事態は防げたのだ。

おじさんの『風音ちゃん』という声は、忘れることはないだろう。


「それからしばらく、暗い部屋に入るのが怖かった。
でも、一人暮らしをしたり、時間が経過していく中で、
大丈夫だと思えるようになっていた。今日も、今だって、夜景がきれいだと思えたし、
真路さんがいてくれるって……ずっと……」


真路さんが、無言のまま私を抱きしめてくれた。

もう辛いことは話さなくてもいいよと、そう言ってくれているように……。


「そうか……」

「ごめんなさい、こんなこと……話すつもりなかったのに」


大切な1日だったのに。

私にとって、新しい日々がまた、書き足される日だったのに。


「風音、時間はこれからたくさんある。今日は、こうしていられたらそれでいいよ」


真路さん……


「嫌……」


このままただ一緒にという言葉を、拒絶する。


「それは嫌」

「風音……」

「このままは嫌。あの日がまた覆い被さるのは嫌……。嫌なの……」


負けたくない、あの日に負けたくない。

あの日の出来事に、自分の選択を曲げられたくない。

私は、『お願い……』と真路さんの胸に顔を埋める。

乗り越えられるはず。

目の前のこの人は、何もかもを許せると思った人なのだから……


「大丈夫なの?」


私はただ頷いた。

話をするのはとためらったが、話をしたことで、逆に落ち着けた気がする。


「そうか……」

「うん……」


真路さんは、そこからもう一度、私にゆっくりとキスをしてくれた。

唇にも耳元にも、そして、首筋にも……

時々、『風音』と優しくかけてくれる声が、私に少しずつ落ち着き与えてくれる。

ベッドサイドに腰かけたまま、真路さんの手が、私の服のセーターへ伸びた。

どんな瞬間にも、あの日とは違い、私には優しいキスが降り続ける。

視線を手から少し上に向けると、すぐに目があった。

下着姿の私はただ恥ずかしくて、真路さんの胸に顔を埋めてしまう。

背中に回された手が、ホックを外した。

ふわっと解き放たれる胸元を、思わず隠すようにしてしまう。


「風音……顔をあげて」


私は鼓動に追いつくように、大きく息を吐く。


「大丈夫か……」


とにかく頷いた。このなんとも言えない時間を、進めてみたい自分自身と、

恥ずかしさに震えそうになる自分の気持ちが、行ったりきたりする。


真路さんは立ち上がると、私の前に回り、ひざまずくような姿になった。

私の両手に隠れるようになっていた胸に、そのままキスをしてくれる。

思わず出てしまう自分の声に、慌てて口を塞いだ。

右胸、そして左……

ふくらみにも先端にも、何度も彼のキス……


「どうして口を塞ぐ」

「だって……」


私の声しか聞こえないなんて……


「風音の声が聞きたくて、俺はここにいるんだから」


真路さんはそういうと、私の鼻に触れる。


「よし、大丈夫だ、一緒に……乗り越えよう」


私は小さく頷くと、目の前にいる真路さんを両手で抱きしめた。

『ありがとう』と声に出すと、真路さんの『うん』という声が聞こえてくる。

あらためてベッドに横たわり、お互いにまとっているものを剥がしていく。

キスをされながら、胸元に届く彼の手に、少し前に感じた妙な思いは消えていた。



あの日……

突然現れた男の行動に対して、誰も助けに来てくれることがなかったら、

私はもっと深く傷つけられていただろう。

暗闇だけではなく、自分の腕に届く男の人の手におびえ、逃げ続けたかもしれない。

大きな手に頬を支えられながら受けるキスが、どれくらい甘いものなのかも、

男の人の指に触れられることで、自分の胸が柔らかく温かいものだと知ることも、

男の人の荒い息づかいが、自分と同じ思いを共有しているからこそ出るということも、

何も知ることが出来なかったかもしれない。


「風音……」


真路さんの声。

一度起こされた彼の身体が、ゆっくりと私の上に重なってくる。

私は両手を広げて、彼の背中をつかんだ。

心と身体が、一つに重なり合おうとする瞬間は、

ただ『幸せ』という思いに酔わされていて……

怖さとか、不安なんて、心のどこにもなくなっていた。

今、私は……

彼への思いだけで、全てが満たされる。

名前を呼ぼうとするのに、出て行くのは吐息しかなく……

せめて思いを伝えようと、揺れる彼の背中を、必死につかみ続けた。


【18-2】



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