18 交差の道 【18-2】

【18-2】


夜中にふっと目が開いた。

少しだけ顔を横に動かすと、真路さんの目もすぐに開く。


「起こした?」

「いや、起きていた」

「眠れない?」

「……違うよ、眠りたくない」


真路さんは、外は寒いけれど、ここは暖かいと言いながら、私の身体を引き寄せる。

私は目の前に迫る彼の胸に、そっと口づけた。


「ん?」

「ん?」

「何それ、誘ってるの?」

「エ……」


私は笑いながら首を横に振る。


「真路さんがアメフトをしていたって聞いた時、ウソだと思ったの。
だって、松田さんや中西さんよりもスリムだと思っていたし……」


スーツ姿を思うと、あのアメフト選手達のがっちりした雰囲気が想像できなくて。


「で、生身を見て感想を変えたのか?」

「……かな」


胸板も結構厚みがあるし、マッチョとは言わないけれど、引き締まっている。


「うわぁ……風音、そんなふうに俺の身体を見ていたわけだ。結構いやらしいな」

「エ……何よ、それ」

「いやいや。これから、スーツ姿見てにやつくなよ」

「そんなことはしません」


真路さんの笑い声に包まれながら、私は『幸せ』な日を送ることが出来た。





真路さんとお付き合いを始め、それから新しい年を迎えた。

埼玉の実家に戻り、お雑煮を食べた後、休みを残した形で東京に戻る。

プラモデルが並んでいるからと言われた彼の部屋に行き、

正月休み、最後の1日を過ごす。


「昨日?」

「あぁ……急に社長から電話があってさ、春に向かっての会議が早速あって、
最初の日にすぐ『MAKINO』へ行ってくれとそう言われたんだ」


北村社長からの連絡に、真路さんは、自分がこの先、

プロジェクトに関わることがないということを話すため、

フライング気味になったが、退職したいことを語ったという。


「3月いっぱいでと、そう……」

「社長は?」

「もちろん驚かれたけれど、でも、すぐに理解してくれた」


私はお玉を持ったまま、そうなのかと何度か頷く。


「キタックが嫌いになったわけではないけれど、
『MAKINO』に支配されて行くように見える中で、
自分自身が仕事を楽しめないと思ったからと、そう言って……」

「うん……」


受け止めるだけで済むことを楽だと思うか、物足りないと思うか、

今回の選択はそこにある。


「明日、あらためて社長に話すつもりだ」


私は真路さんが決めたことに、自分自身がついていくだけだと思いながら、頷いた。

この人の選択なら……きっと間違いない。


「焦げないか? 料理」

「あ……」


私はすぐにコンロの火を止めた。蓋を少しずらして、おたまで中をすくう。


「大丈夫……」


真路さんは立ち上がって私のそばに来ると、自分の胃は結構丈夫だから、

何を食べても平気だよと笑い出す。


「何を食べてもって、どういう言い方?」

「どういうって、逆にどうして怒るんだ」

「怒っていません」


私は真路さんに背を向ける。

こんなふうにしたら、彼がどう出てくるのか、それを探ってみる。


「はいはい、そんな顔はしません……。かわいくなくなりますよ」


くだらない会話だけれど、こんなふうにじゃれ合っている時間が、

今の私には楽しくて仕方が無い。

昔、藍子が彼のことを話しながら、にやけていたことを思い出す。


「風音が作ってくれるから、何でも美味しいんだ……って言えばいいのか?」

「もう、いい……」


そういって、ちょっかいを出そうとする手を払うと、

私は食事をするために、食器を運ぶことにした。



二人でいる時には、いつも真路さんがリードしてくれる。

食事から次へと進むタイミング、ふれあう時から、受け止め合う時に移ることも、

まどろみながら眠りにつく私を、見つめてくれている。

そう、私は気づいたときから、ほとんどが母と二人の生活だった。

仕事をしていた母に、あれこれ相談をすることも出来なくて、

どうすればいいのか、何を選ぶべきなのかは、いつも自分自身で決めてきた。


思いを受け止めながらも彷徨う私の手に、からめてくれる彼の大きな手。

震えた声を出す唇を、包みこむようなキスの強さに、

『頼れる人がいる』ということの喜びを、私は今、感じている。

温かい場所が、今ここにあるという事実が、何よりも嬉しいことだった。





「乾杯」


『新年会』というには、もうカレンダーも2月に近い日付ではあったが、

私たち3人の女子会が、久しぶりに開かれた。

私は一番遅い報告になったが、お付き合いを始めたことを披露する。


「エ……本当? 嫌だもう!」

「どういう反応よ、藍子」


みずなは冷静に職場の人なのかと、尋ねてきた。

私は、『キタック』が新しくなるという時から、一緒に盛り上げてきた人だと答えていく。


「あ、ほら、新車発表会で一緒にいた……」

「あ……エ! あの人?」


そう、みずなは一度真路さんを見ている。

思い出しながら頷くみずなに対して、何も情報がない藍子が迫ってくる。


「ねぇ、何よそれ、名前は? 年齢は? 趣味は?」

「落ち着いてよ、藍子」

「落ち着けないよ、だって、やっと風音に話が通じるでしょう」


藍子は、そういうと『ねぇ……』と私に同意を求めてくる。


「まぁ、そうだよね。私もそう思う。藍子が彼のことを楽しそうに話すのを聞いていて、
いいなと思いつつ、どこか冷めていた気もするから」


私は、とにかく一緒にいると楽しい人なのだと、真路さんのことを話す。


「年齢は……31になるから、6つ……そうか、6つ上」

「へぇ……」

「でも全然感じない、一緒にいると」


藍子は、うん、うんと言いながら、目の前に両手を出した。


【18-3】



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