19 道標の人 【19-1】

19 道標の人

【19-1】


リストを作ったのは蒼。

蒼はこの人に何か、思ったことがあるのだろうか。

そういえば、元々、『人捜し』をするためだと……


「これの担当って……」

「古川さんです」

「あぁ……」


社長は、『MAKINO』から仕事を円滑に進めるために来ていた社員だと、

蒼のことを刑事に説明した。刑事は後ほど連絡を取ってみますと言うと、

ファイルは3の方だけ見せて欲しいと指で数字を出した。

私はあらためてファイルを持ち、前に出す。

後輩になる刑事が、データを確認するように、メモを取り始めた。


「この坂上京助という男は、詐欺の常習犯でして。
喧嘩をふっかけて、相手を威嚇しては、少し身体が触れたりすると怪我をしたとか、
いちゃもんを付ける。それで、治療費だと言って金をたかったり」


刑事は、そういうと、名前の隅に書かれた数字をチェックする。


「この表だと、2回は仕事に参加していることになりますね。
今から、5年くらい前かな……」


ベテランの刑事が、社長に表を見せて確認する。

社長は表の下部分を見ながら、日当を出しているのでそうなりますねと頷いた。


「5年ですか。となると完全にダブりますね」

「あぁ……」


刑事たちは、証拠になるからと言って、データを持ち帰ることになる。

突然訪れた緊張した時間は、15分程度のものだったが、

それからもしばらく、社内では落ち着かない時間を過ごすことになった。





「『坂上京助』」

「そうなの。年齢は今、40代前半かな。うちに2週間だけ契約していた。
その時期がね、ある女性から治療費としてお金をたかっていた期間と一致していて、
刑事さんが詐欺の証拠として、勤務期間のデータを持ち帰ったの。
足が不自由だとか、頭に腫瘍があるとか、そうやってあれこれ言うらしくて、
どうも、町医者の中に、その計画を助ける悪人がさらにいるみたい」


私は、警察が現れてから1週間後、真路さんの部屋に向かった日に、

こういう出来事があったのだと、話をした。

真路さんは、そうなのかと言いながら、資料を広げる。


「医者がそんなものに加担しているようじゃ、たまったもんじゃないな」

「でしょう。人を助けるのが医者じゃないのかな」


私は最後のお皿を洗い終えると、水を止める。


「古川さんが印らしきものをつけていたって、そう言われたんだろ」

「うん……私は蒼からリストをもらった時、全然気づかなかったけれど、
確かに見せてもらうと、なぞったような、筆圧があって。さすが刑事よね、
ちょっとしたことも見逃さない」

「どうしてチェックしていたのかな、トラブルを引き起こす男だと言うのなら、
彼も何かあったのか……」


蒼と関わりがあったのか、『MAKINO』に何かあったのか。

結局、蒼は『人を探している』と、確か話してくれ、見つかったと頷いたが、

あれから、里穂さんとのことがあり、『キタック』にも来なくなって、

すっかり、聞く時間もなくなっていた。


「ただ女性が騙されていたという事件で、捜査二課だろ、それだけ警察が動くかな」

「エ……」

「いや、何かもっと大きなことがあるのかもと、ふっと思ったけどね」


真路さんは、まぁ、『キタック』には問題はないよとそう言うと、

また仕事の書類を見始める。私は邪魔をしないようにしようと思いながら、

洗った食器を拭くことにした。





「へぇ……そんなことが」

「うん」


世の中は梅雨の季節となった。

ジメジメしていて、何かをしようと思っても、体が重たくなる時期。

しかし、我々の女子会は、こんな暦でも当たり前のように開かれる。


「確かに、女性に対しての詐欺でしょ。
警察が大がかりで動くにしてはって感じだよね」

「うん」


みずなも話を聞いて、真路さんと同じようなことを考えたらしい。

藍子は、そんなに女性を簡単にだませるようないい男なのと、私に聞いてくる。


「ファイルに写真はなかったの、『写真は後』って、赤い文字で書かれていたから。
なんだか後から持ってきますとか言って。結局、持ってこなかったみたい。
まぁ、根っからのズルイ人なのでしょう」


私はそういうと、空になったコップに飲み物を入れる。


「あ、そうだ、風音の彼、転職したのでしょう。順調?」


藍子は、元々『電旺』だものねと、真路さんがエリートだと口にする。


「順調と言えば順調だと思う。とにかく忙しいみたい。だから外に行くより、
近頃は彼の部屋で会うことが多いかな。外で会おうとすると、
急に取引先との連絡があったりして、ダメになることも結構あって。
落ち着かないし」


合鍵を持っている私は、何度か通っているうちに、

真路さんの近所にあるスーパーにも慣れた。


「それでも、家で仕事の書類を見ているし、1ヶ月の中で、結構、出張も多い。
まだ会社が3年目で、広げていく段階だしね。
今日も、社長をしている同級生と一緒に長崎にいる」

「そうか、付き合い始めて間もないから、旅行とかさ、行きたいところだけど、
難しいんだ」


藍子は『箱根』は定番だけれど、外れる宿泊施設は少ないからいいよと、

情報を入れてくれる。


「うん……。仕事だし、今は仕方がない。彼も『キタック』にいた頃より、
とにかくこうして出かけることが増えたから、休みはゆっくりしたいだろうし。
私は邪魔しないようにしようと、とにかくそう思っているだけ」


藍子はそうなのかと言いながら、自分が近頃気に入っているという、

おつまみの『チーズ鱈』を食べ進める。


「風音の彼は、6つ上だもんね。
となるとあまり『どう思う』とか聞いてくることはなさそうだね」

「そうだな……うん」


藍子に言われて、そういえばそうだと思う私。

『キタック』の頃には、同じ社員としてどう思うのかと聞かれることもあったが、

今はない。


「みずなは?」

「何?」

「何じゃないでしょう。みずなの彼はもっと年上じゃない。
となると、全てにおいてドンとこい! なの?」


藍子の言葉に、みずなは自分の彼も年上だけれど、ドンとこいなんてことはなく、

何でも聞かれて面倒なことがあると、急に愚痴をこぼす。


「車いじりは詳しいけれど、他のことがすっかり抜けている人なのよ。
時々、自分がお母さんの代わりかもと思うときがあるくらい」


男はいくつになっても子供に近いと、みずなは冷静に分析する。


「まぁね、確かにそれはそう思う。うちは『藍子がよければいいよ』が、口癖」


藍子は、一緒に暮らし始めて、さらにそういう傾向になってきたと、

少し不満そうな顔をする。


「いいじゃない、愛されていて」


私がそういうと、藍子は恥ずかしかったのか、人の膝をポンと叩き……


「あ、そうそう、ねぇ、『SANGA』のお嬢さん、元気にしている?」


……と、話題を勝手に変更した。


【19-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント