19 道標の人 【19-5】

【19-5】


蒼は『来たよ』と頷く。

私は、刑事が疑問に思っていた部分がどういうことだったのか、

意味がないことはわかりながらも、蒼に尋ねてしまう。


「前に私がどうしてって聞いた時に、蒼、人捜しって言っていたでしょう。
それってあの人のことだったの?」


詐欺師として逮捕されるような人間を、蒼が追わないとならない理由。


「刑事にも言われたよ。どうしてここに跡があるのかって……」

「うん……」


なんだろう……

どうして、蒼はその人を探そうとしたのか……


「クックッ……」


蒼の笑い声。


「何よ、どうして笑うの?」

「何、真剣な顔して聞いているんだ。風音が知ってどうするんだよ、
お前、探偵にでもなるのか」

「ならないわよ、でも、どうしてかなと思ったから」


そう、ただ思っただけ。


「意味はない。あのときは、他に見ていた紙に書いていたことがあって。
で、偶然に跡がついただけだ。名前に反応したわけじゃないから」


蒼は、刑事にもそう答えたよと言った後、コーヒーカップに口を付ける。


「本当に?」


本当なのだろうか、あの時の蒼は、これでもかというくらい、

名簿に対してしつこくて……


「本当に、あの坂上って人……」


黙ったままでいられると、もしかしたらという気持ちが、湧き上がってくる。


「風音……」

「うん……」

「実は、あの坂上って男」

「うん」


何があるのだろう、何を探すために……


「俺の……兄なんだ」

「エ……」


ウソ……


「ウソ……」

「ん?」


ウソ? いや、今、兄って……


「何真剣に聞いているんだよ、全く」

「全くって、それならウソなの? 今の」

「だからウソだって言っただろう。お前、昔から人づての話に弱いよな」


蒼は、高校時代、同じバスケ部の田島が冗談で話したことを、

最後まで信じていただろうと言いはじめる。


「何? どんな話だっけ?」

「ほら、学校の裏にあったトタン屋根の壊れた家の話」


トタン屋根の……


「あ……あの、おじいさんに飼い犬が寄り添って亡くなっていたって話でしょう」


そう、高校時代、蒼と同じバスケ部の田島から、聞いた話。

歳を取ったおじいさんが、よく学校の周りを犬を連れて散歩していた。

そのおじいさんが、部屋で突然亡くなってしまう。

飼い犬がその異変に気付き、部屋に入ると、遺体に寄り添ったまま、

同じように亡くなっていたという話を聞かされた。


「あれもウソだ、田島が笑っていたよ。『フランダースの犬』気分で話したら、
風音が思いきり信じて、家の前を通るときに手を合わせていたって……」


蒼は、おじいさんは引っ越しただけで死んでいないし、

あの空き家は、自分たちが高校に入る前から、あの状態だったと聞かされる。


「だって……」


田島……

蒼と同じバスケ部で、ちょこちょこしていた記憶がある。


「まぁ、そういうこと。今更兄だなんて、ミステリアスなことは何もないよ」


蒼は楽しそうに笑うと、コーヒーのカップに口を付ける。


「何それ、そうやって人を騙して、蒼も田島も笑っていたわけだ、私のこと。
最低だね、それ」


私は口では嫌みを言ってみるが、目の前で見られた蒼の笑顔に、どこかほっとする。

『世界一の笑顔』を、もう一度見られたのだから。


「あいつ、『清廉高校』に赴任したらしい」

「教師になったの? 田島が」

「あぁ……」


いつも『落ち着け』と教師に言われていた田島が、教師になったのかと思うと、

日本は大丈夫だろうかと考えながら、私もカップに口を付ける。


「風音もブラック飲めるんだ」


蒼は、昔、『ふくたろう』に親同士が通っていた頃の話を持ち出した。

そういえば、塾帰りの蒼に、コーヒーをあげようかと言われたことが……


「あ……あったね、そういうこと。確か自動販売機で当たったって」

「あぁ……何気なく買ったらさ、『パンパカパン』って、で、もう1本」


そうだった。

蒼の上着のポケットに入っていた缶。

私、『ブラックコーヒーを飲むか』と聞かれて、瞬間的にいらないと答えた。

自転車を止めたまま、ストッパーをした状態で、意味も無く、ただ漕ぎながら……


「さすがに大人になりましたから、ブラックくらい飲めますよと言いたいけれど、
目覚まし代わりにと思って飲み始めたら、結構飲めたと言う方が正しいかも」

「そっか……」


あのとき、振り返ったら、蒼が両手で缶を持っていて。

私、飲めなくても、『ありがとう』ってもらえばよかったと、後悔して。

蒼が手を当てていた場所に、自分も手を当てたかったと……


「懐かしいね……なんだか」

「そうだな」


あの頃も今も、時間は同じように流れている。

それでも、学生時代の思い出は、今でも記憶として頭の片隅に大事にされていて。

去年のこととか、おととしのことなんて、ただ流れていっているだけなのに。


「『キタック』どうだ」

「うん、仕事は順調なのだと思う。でも、らしさみたいなものは、
徐々に消えている気がするな、正直なところ」


蒼だから、担当が外れたこともあり、つい本音を言ってしまう。


「宮下さんもそれほど威圧感がある人ではないから、協力することは出来るだろうけれど、
確かに、『MAKINO』としての考えが、1年経ってハッキリ出てきたこともあるから。
探りながらの仕事ではなくて、長い時間、進めていけるようなシステム作りが、
始まったと言うことかもしれない」


私は『そうだね』と頷いた。

『MAKINO』は『キタック』を守る立場になったのだから。

気合いも違うのは当たり前。


「中村さん、『キタック』辞めたんだろ」

「あ……うん」


真路さんの話。私は、大学時代の友人が作った輸入関係の会社で、

広報関係の責任者になっているという情報を話した。



【ももんたの小ネタ交差点 19】

6つ違いの風音と真路ですが、実際いくつ差までみなさんOKなのかしら。
あるアンケートでは年上なら10歳まで。逆に年下なら5歳までとなっていました。
でもこれは女性の場合。男性だと年上は5歳まで、年下が10歳になるそうです。
いやぁ……、男性諸君、そう来ますかねと思った私。フランスのマクロン大統領は、
奥様の方が、24歳年上なんですよね。まぁ、ちょっと特別だけど。



【20-1】



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