20 意思の力 【20-1】

20 意思の力

【20-1】


蒼と真路さんは、『キタック』にいた頃から、よく話をしていたし、

ただ『キタック』が嫌になって辞めたと思われるのは、ちょっと……


「輸入ね」

「うん……」


蒼は、中村さんは1歩先をしっかり考える人だから、

『MAKINO』の状況を、判断したのだろうねと言ってくれる。


「うん……。従って仕事をしていくスタイルは、自分には難しいと……」


私、詳しすぎないかな。


「中村さんに、よろしく伝えて。いや、一度どこかで会えたらいいな」

「エ……」

「風音の相手は、中村さんだろ」


どうしてわかるの……


「どうして……」

「送別会で、中村さんが風音のことを名前で呼んだって、宮下さんから聞いた」

「あ……」


そう、1回。

私の記憶では……だけれど。


「中村さんなら大丈夫だよ、大人だし……しっかり周りが見られる人だから」


みずなや藍子に話をした時には、

恥ずかしながらも嬉しさでにやついていた気がしたが、

こうして蒼に言われてしまうと、恥ずかしさだけでその数倍顔が赤くなる気がする。

それでも下を向いているのはおかしいため、蒼の顔を、あらためて見た。


「どうして黙る」

「いや、だって……なんだか。蒼に指摘されるとは予想外で」


そう……予想外。


「年齢はいくつだっけ」

「25」

「……風音じゃないよ、中村さん」

「あ……31」


そうだ、何を言っているんだろう、私。


「そうか……」


蒼はポケットから1枚の名刺を取り出した。

以前もらった名刺ではなく、『海外事業所管理』のもの。


「仕事のこととかも聞いてみたいし。これ、渡してもらえる?」

「うん……」

「うん」


久しぶりの再会は、30分くらいのものだったが、

ほっとしたり、少し焦ってみたり、なかなか気持ちが忙しい時間だった。





「古川さんか……」

「そうなの」


蒼に通帳を返してから1週間後、真路さんの部屋でゆっくり過ごすことになり、

私たちは揃ってスーパーに向かうと、夕食用の食材を買い込んだ。

とりあえず冷蔵庫に入れるもの、すぐに使うものなど、分けていく。


「忘れないように、今出すね」


私はしまっておいた名刺を、真路さんに渡す。


「はい……。蒼が一度、会えたらいいなって言っていた。
自分も海外関係の仕事だし、色々と聞いてみたいって」

「いやぁ……向こうは『MAKINO』だからな。
まぁ、でも、俺も学ぶところがあるかもしれないし」


私は、母の借金を返していたことを知っている真路さんに、

実は、お金を蒼が貸してくれていたことも、そこで語った。


「最初は『スマイルローン』で借りたでしょう。でも、返済も利子もあるし、
自分が頑張って働くぞという気合いだけでは、倒れかねないって。
あのとき、うちの社員を全て『MAKINO』が調べていたから、
私の事情も、蒼にばれていて」


母親同士が同じ店でパートをしていた縁もあったと、そう付け加えておく。


「その通帳を、この前、返してきたの」


職場が変わった同級生に、会いに行った理由。


「なんだそういうことか。『キタック』にいた頃は、
ずいぶんそっけない態度を互いに取っていたけれど、
お金を貸すなんて、それだけ親しかったってことじゃないか」


真路さんは、騙されたなと言いながら、大きくため息をつく。


「騙された? どうして」

「古川さんも、実は風音ともう一度……と思っていたのかな」


真路さんはそう言いながら、買ってきたペットボトルを持ち、部屋の方へ向かう。


「変な言い方しないでよ。もう一度も何も、一度もないもの」


私は、蒼とは高校の同級生以外の事実はないですと、

部屋の方にいる真路さんの方を見て、きっぱり否定した。

残った食材をしまおうと背を向けた瞬間、腕をつかまれ、そのままベッドへ押し倒される。


「あ……ちょっと」

「風音はすぐに反応する。でも、口ではなんでも言えるからね、
この生意気な口は塞いでおかないと」


そういうと、私の言葉など無視するように、真路さんが身勝手な行動をし始める。

重なった唇は、その後の私の言葉など必要ないと言うことなのか、

支配を強めていくだけで、隙を与えてくれない。


「ねぇ……」


なんとか顔をずらし、逃げようかとも思ったが、

蒼の話に、真路さんが焼き餅を焼いているのかと思うと、

逃げることなど頭から抜けていって、入り込む手のぬくもりに、全てを開きたくなる。

『愛されている』と、『受け止めてもらえている』と、心が弾み出す。


「わかった……」

「何」

「真路さん、焼き餅焼いているでしょう、蒼に……」


淡い思い出の中に、少しだけ浸ってきた私の言葉を聞いて、

焼かれる焼き餅というものは、悪いものではないなとそう思う。


「……悪いか」

「ううん……」


私は『嬉しい』と彼の耳元でささやくと、そこからは一緒に楽しもうと、

首に手をまわしていく。

まだ、外では太陽が輝いているのだろうけれど、

私たちは二人きりの時間を動かすために、カーテンをしっかりと閉じた。


【20-2】



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