20 意思の力 【20-2】

【20-2】


秋の季節は、あっという間だった。

段ボールが新しいものに変わり、何度も繰り返し使えるプラボックスの素材も、

研究された成果なのか、さらに軽量に変わる。


「さすが『MAKINO』だね、こういうところは抜け目ない。
元々、配送業で色々とやっているから、データも比べられないほどあるだろうし」


松田さんは、契約を済ませてきた企業の書類をケースに入れると、

お先に失礼しますと『キタック』を出て行った。

私も同じように仕事を終えて、そろそろ片付けを済ませようとした時、

電話が鳴りだす。引っ越しの見積もり依頼かもしれないと思い、

急いで受話器をあげた。


「はい、『キタック』でございます」


私は左手で受話器を持ち、右手でメモを取り、その後、ペンを握る。

時間は住所はと思いながら、相手の出方を待っていると、

何度も、少し辛そうな息づかいが耳元に届いた。


「……あの……石本さんは、いらっしゃいますか」


石本さん。

一瞬、自分のことだと気づかず、少しタイミングが遅れて、私ですと名乗った。

最初は見積もりかと思ったが、私にかけてくるということは、

逆に、仕事の失敗や、クレームだろうかと、気持ちが変わっていく。


「あの……」


言葉の続きが出てくるのかと思った瞬間、突然通話は途絶えた。

私は受話器を握ったまま、『もしもし』と何度も言ってみるが、

終わった音だけが聞こえてくる。


「どうしたの」


斜め前にいた中西さんが、様子を見て聞いてくれた。

私は受話器を元に戻す。


「石本さんはって言われて、私ですと答えたら急に、通話が切れました」

「切れた? 名だしされたのに?」

「はい」


『キタック』にかかってきただけなのなら、そこまで妙な気持ちにはならないだろうが、

間違いなく、相手は私にかけてきた。

いたずらと言うには、名前まで出されて具体的すぎる。


「あんまり気にしない方がいいよ。名前なんて知ろうと思えば知ることが出来るだろ。
ほら、社内用の雑誌も、石本さんの名前で取り寄せているし」


中西さんに言われて、私は新聞と雑誌が置いてある場所を見る。

そうだった。定期的に読む雑誌に関しては、担当が私の名前になっていた。


「さて、それじゃお先に」

「お疲れ様です」


中西さんの言うとおり、業者関係だろうなと思い、私も帰り支度を済ませ、

会社を出ることにした。





カレンダーが12月になり、私が真路さんとお付き合いを始めてから、

1年の月日が経過した。春に転職したために、忙しくなることはわかっていたが、

秋以降、さらに時間が取れなくなる。

だからこそ、会えるとなった日には、たとえどんな予定が入っていても、

真路さんを優先に考えることにしていた。

仕事のことでは、手伝えることなど私にはなさそうだったので、

とにかく彼が安らげるようにと思い、求められるままに時を重ねる。

季節が一周すれば、仕事にも慣れてくるだろうという彼の言葉を信じ、

年末からは、埼玉の実家に戻った。



恒例の歌番組を見ていると、

歌っている歌手が今年、『結婚』をしたという話題になっていた。

私はみかんを食べながら、何気なく画面を見ていたが、

隣に座る母は、ここがチャンスだと思ったのか、私の右手を軽く叩く。


「何?」

「何じゃないわよ。風音はどうなの?」


母が聞くのは、もちろん真路さんとのことだろう。

今年の夏、私は真路さんとお付き合いを始めた話をした。


「どうって会っているよ」

「会ってって、それはあたり前でしょう。そうじゃなくて、その後よ」


母は『結婚適齢期』と、プレッシャーになる言葉だけを送り出す。


「まぁね……お付き合いが続いていけば、そうなると思うし」

「中村さん、そろそろ身を固めたいとか言わない?」

「身を固めたいなんて、今時言わないわよ」


適当に母の言葉をあしらいながらも、私自身、多少はそういう思いもあった。

今年は真路さんにとって変化の年だったが、来年になればもう少し、

状況も変わってくるはず。


「ねぇ、中村さんはご実家……」

「あぁ……もう、うるさいです」


私はコンビニに飲み物を買いに行くからと言い、家を出て自転車に乗った。

ここから10分くらいかかるけれど、少し暖房が強かったからか、

冷たい冬の夜風が、今は気持ちいい。

都会にはない星がたくさん広がる空を見ながら、同じように実家に戻っているはずの、

真路さんを思う。

息を吐くと白さがわかるくらいだったが、

心の中は、温かいものだった。





新年が明けた。

まだ会社が休みだという藍子が、突然尋ねてくる。

みずなにも集合をかけたが、『販売店 新年大売り出し』という時期のため、

急な休みは取れないと、謝られた。


「いいよ、いいよ……みずなに悪いもの、こんな話は聞かせなくていい」

「みずなはよくて、私は聞くわけ?」

「どっちもいなかったら、寂しいでしょう」


藍子はそういうと、同棲状態だった彼と、年末にお別れしたのだと言い出した。

私は予想外の話だったため、感嘆符は出たが、そこから言葉が続かない。


「どうして」


そう、どうしてだろう。

藍子は仲がとてもよさそうだったし、彼も優しいといつも……


「どうしてって言われると、自分でもどうしてだろうって思うのよ」

「ん?」


藍子は、浮気をされたわけではないし、いつもと同じような時間が流れていたと、

別れの時期を振り返る。


「だったら……」

「どうしてかな。いつの間にか、ときめきがなくなっていたのかも」


藍子の言葉に、私は首を傾げた。

藍子は私の仕草を見て、そうだよねと頷き、ため息をつく。


「前にも話した気がするけれど、とにかくいつもね、彼は受け入れてくれる人だったの。
私がこうだよと言うと、藍子がそうしたいのならいいよって。
それって、最初は嬉しいなと思ったわよ。喧嘩をしても、最終的には折れてくれて」

「何も問題無いと思うけれど」

「そうなの……でも、彼と一緒に生活するようにしていたら、
このものの考えは、何も決めようとしていないからなのかもって、そう思えてきて」


藍子は、彼が『考えることを停止した』と、表現する。


「受け入れてくれると言ったら、言葉としては優しそうだけれど、
男のくせに、何も考えてくれていないのかと思ったら、だんだん腹が立ってきて」


藍子は、お昼は何にすると聞いても、これから先のことを聞き出そうとしても、

『藍子はどう思う』と跳ね返ってくるだけで、何も生まれなかったとそう言った。


【20-3】



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