20 意思の力 【20-3】

【20-3】


私はふと、自分のことを振り返る。


「何でもかんでも命令されるのは嫌だけれど、たまにはさ、俺はこう思うって、
強く意見を言って欲しいこともあるでしょう。
スマホを手に持って、どっちでもいいよと言われるたびに、
私ってなんなのよって思うようになって……」

「うん」

「もう一緒にいるのは疲れたから、私は一人で暮らすからって言ったの」


私はその言葉に頷きかえす。


「そうしたら『藍子がそうしたいのなら、そうしなよ』って。
どういう気持ちで言っているのか、わかっていないのよね、あいつ。
だから、『さようなら』ってラインして、そのまま……」


藍子はそこまで言うと、黙ってしまった。

私は、藍子の彼が取った行動に、つい自分を重ねてしまう。


「そっか……。でも、相手が決めて動いているのなら、私は黙っていようと……
私も思ってしまうなと、今、話を聞いていて考えた」


真路さんは私よりも大人だから、人生経験もあるし、仕事も出来る。

手伝ってくれと言われていないのだから、出しゃばることはしないで、

私は受け入れていさえすればいい、それを求められていると考えていて。


「藍子の彼も、そう思っていないかな。『いいよ、僕は君を認めるよ』って、
大きく包んでいるつもりでさ」


藍子と彼の出会いは、確か仕事場でのこと。

世間話を聞いてもらって、聞き上手な彼に、心を動かされたと確か言っていた。


「思うことがあるのなら、隠していないで言った方がいいよ。
藍子としては、意見を言って欲しいこともあるって、ちゃんと……」


人には言える。

私は自分自身にもそう言っている。

私は、真路さんに甘え切っていないかと。

あの人は、いつも包んでくれると……


「もう本当にさようならでいいと思うのなら、このままでいいけれど」


二人のことは、二人にしかわからない。

黙っている藍子に、これ以上あれこれ言うのは酷な気がして、

私は出前でも取ろうかと声をかける。


「さようならの意味、あいつわかっていないのよ。
メッセージ寄こすから、既読して無視しているのに、何度も送ってくるし」


おはようとかおやすみとか、毎日の当たり前を藍子に送ってくる彼。


「うん……」

「ガツンと言えないのかよって、そう思うの」


さようならなんて、実は思っていない。

だからこそここで、愚痴っている。

みずななら、すぐに受話器を渡して、さっさと謝りなさいよと、藍子に言うかもしれない。

でも、私は……


「ねぇ、回転寿司食べに行かない?」

「何よ急に」

「近くに出来たの。行ってみたいのに、一人だとちょっと行きづらくて。
ねぇ、行こうよ」

「回転寿司? だって……」

「お願い、行こう!」


これだけ言えたら、藍子はちゃんと考える。

お別れしたくなかったら、どうすればいいのか。

私は、藍子の出した結果に、頷いてあげるだけ。


「お財布持って!」

「風音のおごりじゃないの?」

「自分の分は、自分で払います。それが社会人」


二人で笑いながら部屋を出ると、腕を組みながらお店へ向かった。





「へぇ……回転寿司か」

「美味しかったよ、今度みずなも行こう」


藍子が愚痴を言いに来てから1週間後、私は、みずなと会うことになった。

事務所ごと引っ越しをする業者に書類を届けた帰り、

みずなのいる販売店が近いことがわかり、ダメでもと思い、連絡をすると、

昼休みを合わせてくれることが出来た。


「それで何? 藍子は彼と別れたの?」

「ううん……結局元に戻ったらしい」

「何それ」


藍子はあれから、本人いわく本当にお別れするつもりで部屋へ向かい、

自分がどう考えているのか、いつもの態度にどんな気持ちがするのかと話したらしい。


「彼はね、別に考えていないわけではなくて、藍子がやりたいことが出来て、
楽しそうにしているのを見ているのが好きだから、そうしていただけだって、
真剣に答えてくれたらしいよ」

「ふーん……」


結果的に『のろけ』なのねと、みずなはコーヒーカップに口を付ける。


「でも、私は藍子がうちに来て愚痴を言っていた時、自分はどうかなと考えた。
私、年齢の差もあるし、会社に入った時の立場もあったから、
どこか真路さんに甘えている気がして」


仕事の話は、二人きりのときはしない方がいいだろうと思い、

あえて触れないで来たこと、自分から会いたいとか、部屋に行くとかは言わずに、

真路さんの予定を優先していること。

みずなは頷きながら聞いてくれる。


「なんだろう、道しるべになってもらえることが、とにかく嬉しくて」

「道しるべ?」

「そう、私、気づいたときから父親がいないでしょう。母もどちらかというと、
周りからの影響を受けやすい人だったから、
子供心に、自分のことは自分で決めていかないといけないって、常に考えていた」


むしろ、母を守らないといけないと、肩肘ばかり張っていて気がして。


「それが、真路さんに出会って、委ねていいんだって思った瞬間、
今まで抱えてきたもの全てが、ポンと落ちてくれたようで……」


どんな時も、彼の言葉を受け入れていたら、必ず明るい方向へ行ける。

いつのまにか、そんなふうに考えていた。


「まぁ、お付き合いの形は、人それぞれだから。風音には風音の、藍子には藍子の、
きっと形があるよ」


みずなはもちろん自分もだけれどと、軽く胸を叩く。


「そうだよね……」


私は、真路さんと自分にもきっと、『これだ』という形があるだろうと思いながら、

残りのコーヒーを飲み干した。





1月も後半に入った日、私は真路さんの部屋へ向かった。

休みの日、久しぶりに太陽のある時間から会うことが出来たら、

忙しくてなかなか手が回らないだろうと思える場所も、掃除してあげることが出来る。

真路さんは、私が台所に立つとき以外は、自炊をしないと言っていたけれど、

お湯を沸かしたり、インスタント食品を作ることくらいはあるので、

汚れていないように思えても、シンクの輝きはなくなってくるはず。

電車に揺られてホームに降りると、思い切り一度背伸びをした。


【20-4】



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