21 他人の肌 【21-1】

21 他人の肌

【21-1】


ゴールデンウイークが終わってまもなく、私のところに封筒が届いた。

『キタック』の石本風音宛のため、

仕事関係のものだろうと、あまり何も考えず封筒をはさみで開ける。

入っていたのは、1枚の便せんと……



『風音と一緒に……』



色あせた紙には、『清廉高校 夢コメ』の文字。

平成22年、今から9年前の……



9年前というと……あの時の……



どういうことだろう。


「おいおい、どういうことだ」


私の心の中を代弁したようなコメントが、松田さんから飛び出した。

すぐに前を見ると、テレビのニュースで、信じられないようなことが発表されている。



『MAKINO』で関連会社の副社長を務める、牧野彬氏が……』



蒼の義理の父になる牧野さんが、

ベンチャー企業として売り上げを伸ばした会社の役員に対して、

威圧的な態度を取り、業務を妨害したということで、

警察に事情聴取を受けているというニュースが、テレビから流れ出した。

社長や『MAKINO』の社員達もただ驚き、画面を見るだけになる。

詳しいことはまだ何も発表されていないと言うが、

これだけのことを言われているのだから、何か関係しているのは間違いないだろう。


「社長……」

「うん」


北村社長は、『MAKINO』の社員達に、どういうことなのかと聞いたが、

社員達はまだ経営の中核に入っている立場では無いため、何も知らないと首を振る。

私はニュースのこと、そして本来なら蒼が持っていたはずの『夢コメ』の紙が、

なぜかここに送られてきたことに対しての疑問をぶつけるため、

『海外事業所管理』へ連絡をしようと思い、建物から外に出る。

真路さんに渡してくれと言われた名刺に書いてあった番号、

私もとりあえず携帯には登録してあった。

後々、色々とわかったら、牧野さんの方は情報も入るだろうが、

このままでは、どうしたらいいのかもわからない。

番号を鳴らしてみるが、話し中になったり、呼び出し音が鳴っても、

出てくれる人がいなかったりなど、相手側の慌てた状態も見て取れる気がした。



『風音と一緒に……』



そういえばと思い出し、封筒の中にある便せんを取り出してみる。

そこに書かれていたのは、たった1行の短い文章。



『ごめんなさい ありがとう』



謝られて感謝される。

この文章は、誰のどういうことに対して、書かれているものなのだろう。

『夢コメ』の方は、蒼の字だと思えるが、メモに残されているのは、

女性の字ではないだろうか。

頭の中がごちゃごちゃになっているまま、

とりあえずもう一度電話を鳴らそうかと思った時、私の携帯の着信音が流れ出した。

相手は誰かと思い確認すると、その番号自体、知らないもので、

しばらく出ることを迷ったが、鳴り続ける状態に、

相手が切らないということがわかり、覚悟を決めて出ることにする。


「もしもし……」

『もしもし……風音ちゃん。蒼の母です』


電話をかけてきたのは、蒼のお母さんだった。





牧野さんのニュースが飛び込んだ日、

私は仕事を終えたあと、電話をくれたおばさんと会うために、駅へ向かった。

おばさんは、私のところに『夢コメ』の紙が届いたことを知っていて、

それが里穂さんのしたことだということも、話してくれる。


『話をしたいの、食事でもしましょう』


私も電話で済ませていいのかどうかがわからず、指定された場所に向かう。

色々なことが、おばさんに会って話をすれば、

少し見えてくるのでは無いかと思いながら、電車の窓から外を見続けた。





店の入り口で名前を言うと、店員は奥に案内してくれた。

入り口付近は、それなりにテーブルが並んでいるが、角を曲がった瞬間、

雰囲気が変わる。


「こちらへ」


言われた場所の扉を開けると、蒼のお母さんが先に待っていてくれて、

私が頭を下げたら、しっかりとお返しをしてくれた。

蒼を挟んで、何度か話をしたことはあったけれど、こんなふうに向かい合って、

あらためて話したことなど、そういえば一度も無かった気がする。

注文はすでに済ませてくれていたようで、上着を脱いで椅子に座った。


「すみません、待っていただいて」

「いいのよ、こっちが来てもらったのだもの」


私はバッグから届いた封筒を取り出した。

それをテーブルの上に置く。


「ごめんなさいね、風音ちゃんに迷惑をかけて」

「いえ、迷惑だなんて。ただ、懐かしいものだと驚いたことは驚きました」


そう、あの事件の前の日、私は学園祭を蒼と一緒に迎えられると信じ、

青いハンカチを渡し、告白の返事を保留した。

思いがけない恋心の告白に、動揺と嬉しさが体全体からあふれてしまうのが怖くて、

そんなクッションを用意したのだ。

その後、事件が起こって、蒼が学園祭をどう過ごしたのか、

結局、しっかりと聞くことはなかった。絵史の告白に、私の名前を出したという蒼。

でも、『夢コメ』の紙を、持っていたなんて知らなくて。


「里穂ちゃん、少し参ってしまっているところがあって……。あ、ほら、
なんて言うのかしら、不安もあったり、どうしたらいいのかわからないことがあったり、
気持ちが上手にコントロール出来ていなくて」

「……はい」


蒼と婚約したと、先日聞いている。

結婚式の日取りはまだ先だと、そう言っていたけれど。


「この間、蒼に会ったとき、結婚式はまだ決めていないと……」

「あ……うん」


おばさんの表情。

一人息子の結婚が決まっているにしては、どこか浮かなく見える。


「蒼がこの紙を持っていたことに、里穂ちゃんが気づいて。
風音ちゃんの名前を知っていたでしょう、少し感情的になったというか……」


里穂さんにお会いしたことはない。

でも、お金を貸した話も、たしか蒼は隠さずにしていたと聞いている。


「すみません、私が蒼に色々と迷惑をかけたので」


私はおばさんに家の事情を話した。


【21-2】



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