21 他人の肌 【21-3】

【21-3】


蒼のこと、牧野さんのこと、

気になるワードは色々出てきたものの、私はそれを話題にすることが出来なかった。

興味があるから、ただ聞きたいから、それだけで乗り込んでいいとは思えなかった。

食事をしたのは、大通りから少し入った店のため、

人通りのある場所に来ると、急に雰囲気が変わる。

タクシーが何台も止まるようなホテルが建ち並び、交渉ごとがあるのか、

時計を見ながら早足で歩くサラリーマンもいた。

ラウンジでも、向かい合って話す人たちがこの時間でもまだ多く存在していて、

自分が働く環境とは、別の世界があるのだと、そう思いながら歩く。

立ち上がった男性と女性の姿に、自然と視線が向かった時、私の足が止まった。



真路さん……



思いがけないところで、彼の仕事姿を見るなんて。

『キタック』での仕事姿は、まだ記憶に残っているけれど、

今の仕事になってからは、何も知らない。私は、植木の影に立ち、様子を見守る。

隣の女性と一緒に頭を下げた彼の前にいたのは、体格のいい男性。

髪の色は私たちと同じ黒だけれど、目や洋服の雰囲気からして、日本人には見えない。

輸入雑貨を扱う仕事をしているのだから、交渉相手も、世界の人たちになるのだろう。

その男性は、手にファイルのようなものを持ち、なんだかにこやかだった。

交渉、うまくいったのかな……


男性の姿が見えなくなるまで見送った真路さんは、また椅子に座り、

隣にいる女性と何やら話し出す。

隣の女性も、会社の人だろうか。

緊張する時間が終わったからなのか、揃えていた足を組み、

自分の前にあった飲み物を飲み干している。

スーツ姿がとても様になっていて、仕事にも自信がある人なのか、

テーブルの上に残った紙を持つと、何やら指で差し始めた。

真路さんはその様子に時々頷き……



頷き……



「エ……」



仕事なのだ、ここは真路さんの勝負の場所だった。

私がこんなところで見ているのは、おかしなことではないか。

でも……



隣に座る彼女の耳元に顔を近づけて、何やら話している。

彼女はそれを聞くと、今度は、彼の肩に軽く頭を寄せた。



部屋でくつろぐ私が、真路さんの肩に置くように……



動けと頭が命令するのに、足が全く動かない。

二人はチームなのだ、一緒に大きな仕事を成し遂げて、気分が上昇していて……



で……



そこから女性は姿勢を直し、また書類の中身を指さしている。

急に携帯電話が鳴ったのか、彼女がバッグの中から取りだして、

その場で立ち上がり方向転換する。

彼女の顔が見えた瞬間、私はそこでホテルの前を離れた。

とにかく前に前にと進む。


心臓のドキドキが止まらない。

一瞬、振り向いて見えた彼女の表情は、とてもしっかりしていて、

何事にも動じずに、まっすぐ前を向き、意見を言えるような……



私とは全く違う……



人だった。





憂鬱な空、そして私の心。

藍子が結婚すると宣言して、現在は結婚式場を探すために、

休みになると、彼と雑誌を持って色々と巡っている話を聞いた。

みずなは販売店の事務を任される立場になり、

以前よりも責任のあるポジションになったことを、

嘆きながらも楽しそうに話してくれた。

牧野さんの話題で、動揺した『キタック』だったが、

相手先との示談交渉は進んでいるということを聞く。

仕事は相変わらず順調に、取ることが出来た。



『明日から3日、福岡に行ってきます』



真路さんからの連絡。

私は『気をつけてね』といつものように返信をし、そのまま携帯を閉じる。

ホテルの前で、彼を見かけてから2週間、

一度、外で食事をしようと計画があったのに、

この季節には起きやすいゲリラ豪雨で、真路さんが取引先から戻ってこられなかった。

顔を見て、『じつはこの間ね』と切り出すつもりだったのに、

時間が空いていくと、どう切り出したらいいのか、言わない方がいいのかと、

迷いばかりが生まれてくる。

彼を信じている。だから、どんな聞き方をしてもいいはずなのに、

一度、雑誌の裏に書いてあった文字を見つけ、細かく聞き出した前例が、

『またなのか』と思われるのではないかと、私を臆病にした。





『友原先生、定年感謝会、同級会のお知らせ』



母から転送された葉書は、『清廉高校2年生』の時、担任をしてくれた友原先生が、

この3月で定年退職をするため、当時の学級委員やイベントに協力的だったメンバーが、

この機会に『同級会』をと計画した。


「ほら、覚えている? バスケ部だった田島」

「うん。先生になったのでしょう」


みずなは、『どうして知っているの』と驚きの声をあげたため、

私は、蒼から聞いたのだと話す。


「蒼に用事があって『MAKINO』に行った時、田島のことが出て。
教師になったって聞いたの」

「そうなんだ。友原先生は退職、田島が赴任という妙な縁が起きたから、
この機会に懐かしさもあるしどうかって……」


みずなは、成人式後の同窓会に出席した、当時のC組メンバー数人が、

また何年後かに同級会を開きたいと話題にしていたことから、

動いたのだと教えてくれた。


【21-4】



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