21 他人の肌 【21-4】

【21-4】


「そうなんだ」

「田島がさ、連絡係とかを自分が引き受けるから、
会場は駅前に出来た居酒屋にして欲しいと、強く訴えたんだって」

「そう……」

「あいつが仕切っての会ってさ、先生の定年と言うより、
自分の就職を祝えと言われている気がして、ちょっとどうなのって
つぐみは言っていたけどね」


『中尾つぐみ』。私が勇気を持って参加した成人式の会。

当時のことを謝ってくれた、正義感の強いクラス委員。


「田島は学校近くの居酒屋で、飲んでいて問題ないわけ?」

「本人がそうするって言うのだから、いいのでしょう」


みずなはそういうと、大好きなエビの天ぷらが美味しいと、嬉しそうな顔をする。


「みずなは出る?」

「微妙かな。もう少し考えてから出そうかなと」

「そうか……行かないのなら、行かないって言ってよ」



蒼は……

来るだろうか。



「つぐみがね、絵史のことを気にしていた」

「あ……うん」

「つぐみは本当に偉いよ、根っからの学級委員体質だわ。
あれだけ自分勝手な存在だったのにさ……ちゃんと心配して。
私なんて、絵史の噂を聞いたって、特に心配までしていないし……」


絵史の話題が出たので、私は以前、偶然会ったこと、

当時の噂話を広めたことを謝られたことなど、みずなに語った。

自分も同じように、『人の噂』で嫌な思いをして初めて、

私の辛さも理解できたと、ずいぶん穏やかな笑顔で話してくれて……


「そうだったの」

「うん……私もね、別にあらためて友達になろうとは思わないけれど、
でも、下を向いて歩いてばかりいるのは、絵史らしくないしね」

「まぁね」


みずなは、もしかしたら数名は名字が変わっているかもと言いながら、

次の天ぷらをつゆにつけ、美味しそうに食べていく。

私はレンコンの天ぷらを同じようにつゆにつけ、

シャキシャキした食感を楽しみながら、そうだろうねと返事をした。





みずなとの交流は、予定通り続いているのに、

真路さんとの約束は、今日もまた流れてしまった。

『仕事で戻れなくなった』というメッセージを受け取り、

それならまた……と返事を戻す。


「はぁ……」


仕事の帰りに待ち合わせをするのは、時間が読めないからと言われていたのだから、

休みの日に会おうと思うものの、『そうしようか』という一言が、

出せなくなっている。

そして、カレンダーが7月を駆け抜けようとしている日、

私は久しぶりに真路さんと会うことになった。



『話したいことがある』



この約束には、意味があるのだと……。



待ち合わせ場所に到着すると、すでに彼が待っていて、

何やら携帯をいじっていた。

遅刻したわけではないことを時計で確認し、手を振ってみせる。

真路さんの顔がこちらに向いた時、

私の体の中で、細胞達が予定外の動きをした気がしてしまう。

これは『胸騒ぎ』というものだろうか、『話がある』と言われたことで、

何度も見てきた真路さんの顔が、今日は、別人に見えるような気がする。


「ごめんね、待った?」

「いや……」


短い言葉。

仕事が早く終わったからとか、取引先に近かったからとか、

そういう説明は何もない。


「何か食べたいものとか、ある?」

「なんでもいいよ……」

「そっか……風音らしいな」



私らしい……



そんなこと、今まで言われたことなかった。



「私らしい? そんなの初めて聞くけど」

「そうかな。いつも『合わせようとしてくれるだろ』」


『合わせる』

確かにそうかもしれない。でも、別に我慢しているわけではなくて。


「それなら、この先の道を入ったところにある店にするよ」

「うん」


歩きながら、出張はどうだったのか、仕事は相変わらず忙しいのかと、

聞くつもりだったのに、あの日の女性の顔が浮かんでしまって、

心がストップをかけてしまう。


「あ、そうだ、牧野さんのこと、俺も驚いたよ」


牧野さんの話題。

別に待っていたものではないけれど、それでも、無言でいられるよりはいい。

私は、仕事には今のところ影響がないと説明する。


「そうか……そういうところが北村社長のすごいところだよな」


色々と動きがあっても、決して軸はぶれていかない。

真路さんは社長の名前を言ったあと、黙って歩き続ける。

過去を懐かしいと思っているのか、そうではないのか……



そこから5分くらい無言で歩き続け、店に入ると、すぐに席へ通された。





真路さんの注文を聞きながら、私の頭の中は、この先の展開ばかりを考える。

あの時と一緒。走り書きを見つけて、どうしてなのかと考えてしまい、

頭が正常に動かなくなった。

私たちは向き合うことに決めた間柄なのだから、疑問は解決しないと。

誤解されたりしたままでは、よくないことくらい、わかっている……


「福岡、どうだった?」

「ん? あぁ……うん」


うまく行かなかったのか、行ったのか。

真路さんからすぐに言葉が戻らない。

付き合う前の食事会より、ぎこちなさがハッキリ出てしまう。


「よくなかったの?」

「いや、そんなことはないよ」


完全な個室とは言わないけれど、他の客とは顔を合わせない作りになっている。

私も真路さんも、時間的にお腹は空いているはずなのに、食事はそれほど進まない。

私が進まないのはともかく……



なぜ、彼が進まないのか……



「話、あるんだよね」



どうなるのかわからない。

でも、飛び込むことに決めた。

妙な感があたったとしても、外れたとしても、それは……



きっと、避けられない。


【21-5】



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