4 マイナスの効果

『アン・ラッキーガール』  

4 マイナスの効果

「おめでとう! 2等賞です!」


振り返ると、私の後ろに並んでいた小学生が、お母さんと当選を喜び、

楽しそうに飛び跳ねながら、笑顔を見せる。

あと一人ずれていたら、あれが当たったのは私だったのかもしれない。


……そう、そうだった。私がこんな抽選に、当たるはずがなかったのだ。

私が当たるのは、嫌だな……と思ってしまうことばかり。


「こんばんは!」

「あ……」


目の前に現れたのは、盛田さんだった。

私は両手に台所洗剤を持ったまま、すぐに頭を下げる。

今、ふてくされたような顔をした気がするけれど、見られたのかも。


「抽選会かぁ……。駅の改札を出た時に、その洗剤を3つ持って歩いている人がいたから、
安売りでもしているのかと」

「ハズレなんです。私も今、2回チャレンジしたんですけど、全然……」


盛田さんは、自分の財布を取り出すと、赤い色画用紙に印刷された補助券を1枚取り出した。


「3枚で1回か……じゃぁ、ダメだな」

「あの、ありますよ。私、2枚余っているので、あげます」

洗剤をバッグに押し込み、財布を取り出すと、残った2枚の補助券を取り出し、彼に差し出す。

いつも、おすそわけしてもらってばかりだったので、こんなところでお返しが出来るのは、

ちょっと嬉しい。


「2枚あるんですか? じゃぁ、僕があげますよ。どうぞ……」


人がいいのかなんなのか、盛田さんは私に1枚の補助券を差し出した。

ダメなんですよ、私は全然こんなものに当たる、そんな運を持ってはいないんです。


「私、こういうの当たらないんです。今も、2回外したんですから。どうぞ、使ってください」

「次は当たるかもしれないですよ」


私は、『アン・ラッキーガール』なのだ。盛田さんの前で、また白い玉を出したくはない。

そんな微妙な気持ちには、どうも興味がなさそうだ。

こうなったら、どれくらい私がついてないかを、教えてあげなければ、券が3枚無駄になる。


「私が当たるのは、どうしようもないことばっかりなんです。駅の改札あるじゃないですか。
さぁ、出ようと思ったら、前の人が詰まっちゃって。それで出られなかったり……」

「そんなこと、誰だってありますよ。僕なんか何度足止めくらったことか。
いや、前なんか、自分が改札に引っかかって、ひっくり返った人を見たこともありますよ。
自動改札で嫌な思いを全くしたことがないなんて人の方が、珍しいはずだ」


表情一つ変えない、盛田さん。せっかく話した私の不運な出来事は、そこらへんにどうも、

落ちているものらしい。だったら、こっちはどうなのかと、食い下がる。


「……仕事が終わったと思って、席を立った瞬間、一人だけ課長に呼ばれて、
残業に残されたりするんですよ。急ぎだから、すぐにやってくれって……」


同期と一緒に出掛けようと思った時、課長に止められ、

3時間もPC前に座らされたことがあった、そんなことを思い出しながら、語りかける。

あの日、出掛けた飲み会で、彼氏を捕まえたと喜んでいた同僚の顔が浮かんで消えた。


「急ぎでしょ? それは信頼しているから頼まれたんですよ」

「エ……」

「急いで結果を出さないとならない時、信用出来ない人に、頼めないじゃないですか」


そんなふうに物事を捕らえたことなどなかった。いつも自分はついていない存在で、

誰から評価されているなんて、感じたこともない。


「あの……」


それでも変な意地があり、私の頭はとんでもないことを口にしてしまう。


「私、痴漢の被害にあったことがあるんです。ひどく混雑していて、それで……」


言った後、さすがに口を押さえた。そんな話をする女性なんて、聞いたことない。

おそるおそる盛田さんの方を向くと、バッチリ目があった。


「不謹慎な言葉かな……」

「エ……」

「いや、でも……。きっと、森田さんが、一番魅力的だったんじゃないですか?」

「は?」


その瞬間、抽選会場である金物店の中から、また大きなベルの音がした。

二人でのぞき込むと、4等賞に当たった人が、嬉しそうに笑っている。


「行きましょう、1等賞がなくなります!」


盛田さんに背中を押され、自分の意志とは関係なく、私はまた抽選会場へ入った。

私の手から2枚の券を素早く取ると、盛田さんは自分の1枚とあわせ、

店のおじさんにすぐに手渡す。


「はいよ、3枚ね。じゃぁ、1回どうぞ」

「森田さん、早く」

「いえ……私は……ダメなんですってば」


戸惑っている私の手を取り、盛田さんは自分の手をそこに添えると、一緒に機械を回す。

ガランと音を立て、出てきたのは、白い玉……



……に、なぜか赤い線が1本ついていた。



「はい、『わくわく賞』、おめでとう」



私と盛田さんの手は、共同作業で、『米5キロ』を当てた。

大きな袋を、お店のおじさんは当然のように、盛田さんへ渡す。


「なぜ、これがわくわく賞なのか、疑問ですけど、でも、当たりましたね。
マイナスとマイナスでもかけたらプラスになるものです」

「はい?」


どうでもよかった。当たるものなど、どうでもよかったのだ。

盛田さんと一緒に回した成果が、『ハズレ』じゃなかった。

そのことだけが私にとって、重要だった。


「もし、嫌でなければ、僕、家まで運びますよ」

「嫌だなんて、じゃぁ、半分にしましょう。私、何か入れ物に……」

「いえ、もらってください。前にも言った通り、僕は研修でこっちへ来ているので、
自炊はしてないんです。食べるものはみんな買って帰るか、食べてくるだけで……。
炊飯器もないくらいですから。生でかじるわけにもいかないし……」

「クスッ……」


マイナスとマイナスの意味、そう、盛田さんは、自分が同期で一番成績が悪かったことを

私に教えてくれた。一緒に来ている研修のメンバーは、全てが後輩で、

それでも、好きな仕事についているのだから、嫌だと思ったことはないのだと話してくれる。



出来事は、捕らえる人によって、良くも悪くも変わるものだ……。

盛田さんの話は、私にそんな側面を、見せてくれるような気がした。


駅から一人で帰る時、足が疲れて大嫌いな坂道も、まるで道が動いているのではないかと、

勘違いするくらい距離が短かかった。





「本当に、いつもいただいてばかりですみません」

「いえ……じゃぁ」


お茶でもどうですかとたずねようとしたのに、盛田さんはすぐに頭を下げ、背を向ける。

私の中にいる、名前も知らない神様が、胸の中でトン……と跳ねた。


「あの!」


私の声に振り向いた盛田さんと、しっかり視線が重なった。

言うのなら、今しかない……。

そう思った私の心は、またとんでもないことを口にする。


「一回だけ、一緒に食事をしませんか? このお米で……」


どうしても、もらったままなのは嫌なのだと、私は必死に訴えた。

いや、本当は、もう少しあなたを知ってみたい……。

きっと、そんな気持ちが働いているのだとそう思う。


「……いいんですか? そんな嬉しいお誘いを受けても」

「……はい!」





その日、私達は、アドレス交換をした。

盛田さんのアドレスには、犬の種類が入っていた。

担当する犬の種類なのか、それとも、自分で飼っているのかと考える。


出世なんてしなくても、彼はきっと、誇りを持って仕事をこなしている人だ。

私は、並んでいる英字と数字を見ながらそう思い、なぜか笑顔になった。





それからも、盛田さんとは駅でよく会った。

曜日によって会わない日もあったが、それはドッグフードを作る工場へ行く日があるからだ。

そんな次の日には、工場で見聞きした話をしてもらうことのが、私の楽しみになる。

読みかけの本は、いつのまにかしおりが抜けていた。





「森田さん、悪いけど、これ、今日中に仕上げてくれ!」

「あ……はい」


私は無愛想な課長から書類を受け取り、PC前に座った。

時計を見ると、あと30分で勤務時間が終了する。


「ねぇ、美緒。船田課長、やることいやらしくない? 明日にしろっていうんだよね」


同僚はそう言って、私を励まそうとする。

そう、以前なら、こんな時、自分はついていないんだと、そう思うことの方が多かった。



『急ぎでしょ? それは信頼しているから頼まれたんですよ』



私は盛田さんの言葉を思いだし、定時に帰る同僚を送り出し、さっさと仕事をこなす。

驚きながらも、珍しく笑顔で挨拶してくれた課長と別れ、予定より早い、

7時少し前に会社を出た。


帰りの電車の窓に、私の顔が、疲れたサラリーマン達の顔と一緒に並ぶ。



『きっと、森田さんが、一番魅力的だったんじゃないですか?』



痴漢されたことを、こんなふうに言われて、一瞬驚いたけれど、

盛田さんにそう言ってもらえたのは、嫌な気分ではなかった。

私は、別に美人でもないし、スタイルだって、いいわけじゃない。


それでも……。





その夜、私は盛田さんに、明日の都合を聞くためにメールをした。

最後の1週間では、色々と忙しいだろうから、そろそろ食事のご招待をしようと、考える。



『お誘い、ありがとう。必ず伺います』



たった、それだけの文字だったが、私は何度も読み直し、盛田さんが来ることを確認した。





しかし、その次の日の朝、盛田さんからメールが届く。



『ごめんなさい、今日はダメになりました』



楽しみに気持ちを盛り上げていた私の肩は、がっくりと落ちた。

彼のことだ、きっと大事な用事が出来たのだろうと、その日は予定を変えて、

ゆっくり過ごした後、自転車で駅の向こうにある書店へ向かう。


駅に近づくと人が増え、自転車から降りた私は、歩きながら噴水の前を通った。

その水の向こうに、時計を何度も確認する盛田さんを見つける。


「あ……」


改札から人が出てくるのと重なり、一瞬消えた盛田さんだったが、

もう一度私の前に現れた時、そこには彼に腕を回し、

嬉しそうに抱きついている一人の女性がいた。





みなさんの考える道先へとつづく………






【第4回 アンケート結果発表】

Q4 少しずつ盛田さんを意識する美緒ですが……(投票数64票)


  盛田が素敵な女性といるところを発見!  ……44票

  元彼、畑中と一緒のところを、盛田が発見!  ……20票

となりました。ありがとうございました。






【第5回 アンケート】

Q5 さて、怪しい二人を見てしまった美緒、どういう行動を取る?……


  気になるので、隠れて二人を追う!

  ショックを受けたまま、家で泣く


投票期間は10日です。
みなさんの1票がなければ成り立たないお話です。
ぜひぜひ、ご参加下さい。ご意見、アイデアもコメントでお待ちしています。
(私にしか見られないので、大丈夫ですよ!)





みなさんで、一緒に作ってみましょう!
創作に関しては、いままで通り、『あひるちゃん』に……

ランキング参加中です。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

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一等が当たるかとドキドキ

一等が当たっちゃうのかな?とドキドキv-344しちゃった。

腕を組むほど親しい間? 親子ではないよね勿論、兄妹?姉?違うか・・・

でも美緒の「ご飯を食べましょう。」の誘いに応じるってことは、
盛田さんにも好意があると思ったけどな。

マイナス思考をプラスに、ポジティブは盛田高感度i-184i-184i-184

さて次回のアンケートは、うーーん又どっちにしようか迷うなv-292

あっらぁ・・・

盛田さん・・・またタイミング悪く美緒が誘ったその日にそんなことを・・・( ̄□||||!!
まさに、アンラッキーですわ・・・(涙)
実は小さな子供だったら面白いな・・・

ポジティブに・・・^^

ももちゃん こんばんは^^

痴漢にあっても「一番魅力的だったんじゃないですか?」な~んて思えたら
ホントにあんまり落ち込まないですむかも^^;
ポジティブに考えるって、なんかいいね~^m^

ラスト・・・くっついてる彼女は、きっと妹だ!な~んて前向きに考えられたらいいんだろうけど…
やっぱり落ち込んで泣きそう~ToT

見たよ!

mamanさん、こんばんは!
女芸人さん、今日、たまたま見ちゃいました。
いやだよぉ……美緒があのイメージになったら(笑)


>盛田さんのおかげでポジティブシンキングになった
 美緒さんなのに見たくないもの? 見ちゃった。

そうですよ。女はね、好きになるとその人の言葉を
信じて、変わっていくものなのです。
さて、この女性の正体は……
アンケートも、ぜひぜひ、参加してね。

毎日が楽しいよね、きっと

yokanさん、こんばんは!


>盛田さんのプラス思考、いいですね^^
 私も何事もプラスに考えたいものです。

私も、そうしたいものです。
なかなかね、人って、不幸が起きるような
気持ちになること、多いですからね。

地味に続けている創作ですけれど、
楽しみにしてもらえたら、嬉しいな。

それはないよ(笑)

ヒカルさん、こんばんは!


>実は小さな子供だったら面白いな・・・

あはは……文章的には、女性だからありえるけど。
美緒は見ちゃっているから、子供! ってオチはありませんよ。
こんなことがあったり、あんなことになったり……で、
お話はもう少し、進みます。

誰が言うか、そこは重要

eikoちゃん、こんばんは!


>痴漢にあっても「一番魅力的だったんじゃないですか?」
 な~んて思えたら ホントにあんまり落ち込まないですむかも^^;
 ポジティブに考えるって、なんかいいね~^m^

でもね、言ってくれる人のタイプにもよるよね。
嫌いな人から言われたら、腹が立つかも!(笑)


>やっぱり落ち込んで泣きそう~ToT

そうか、そっちか。
今回、すごく競ってるんですよ、今のところ。
さて、どっちになるか決まるまで、お預けのままです。
考えると、反対の方へ行きそうな気がするので。

あれはきっと幻だ

ももんたさん、おはようございます。

いつもカメさん。

なんかね~、お話を読んでるとほんわか~するわ。
何でもいいほうに、前向きに、そう考えられるっていいことですね。

でも最後のほうで、
いつも元気付けてくれた盛田さんに異変が・・・
異変じゃないのよね、彼みたいないい人だから・・・・ショック!!!


リミット・・・今初めから追ってます。^^

よかった……

tyatyaさん、こんばんは!


>なんかね~、お話を読んでるとほんわか~するわ。
 何でもいいほうに、前向きに、
 そう考えられるっていいことですね。

そう言っていただけると、ほっとします。
本当に、アンケートの結果が出てから、スイッチ入れているので、
全体像は見ながら書いているつもりでも、心配なんです(笑)

リミット、最初から追ってるの?
別に、全ての作品を読まなくてもいいからね。
無理しないで!

気にしないでね

mamanさん、ふたたび!


>創作イメージを削いでませんよね。すいませんでした。

あはは……。気にしないで、いいんですよ。
自由に発想してもらえたら、それでいいのです。

これからも、楽しく読んでね!

追いついた~!

こちらのお話も、やっと追いつきました!

投票には参加できなかったけれど、出来上がった物語を読ませてもらう贅沢を味わってます^^

いま、この時点で言っちゃうのもどうかと思うけど(と言いながら書きます^^;)
二つの選択肢のどちらかを選んでも、盛田くんと森田さんは出会って、親しくなって、
森田さんのネガチィブな思考を少しずつ変えていくのは、盛田くんなんだろうな。

運命の分かれ道なんていうけれど、大きな流れの中では、ほんの些細なことだものね。
なーんて偉そうに言ってるけど、自分で考えていない方向に行く物語を書いている作者さんに拍手!

5キロのお米、彼の口に入るといいな~・・・

アンケート
私の気性ならAだけど、自分にない展開が楽しそうなのでBね♪

おまけを楽しんでね

なでしこちゃん、こっちでもありがとう!


>いま、この時点で言っちゃうのもどうかと思うけど(と言いながら書きます^^;)
 二つの選択肢のどちらかを選んでも、盛田くんと森田さんは出会って、
 親しくなって、森田さんのネガチィブな思考を少しずつ変えていくのは、
 盛田くんなんだろうな。

あはは……、全然、今言ってくれていいよ。
うん、恋愛ものだからね、主人公が誰かと出会って、少しずつ近づいてっていう道のりは、どういう道をたどってもここまで来たと思う。

でも、きっかけがどんなものか、どういうセリフを言うかも、普通はすべてこっちが思った通りで進めるでしょ?

それがみなさんにとって、普通のことなのか、おや? 意外! と思うようなことなのか、そんなものも知ってみたかったし、
アンケートに参加してもらうことで、ちょっとおまけを楽しむ気分になってもらいたくて、こんなチャレンジをしています。

今までのアンケートで、私がこっち……と思った方には、1回しかたどりついてないんだもの(笑)

おもしろいよね……

さて、今度はAかBか! 結果は出たので、これから作ります!