22 心根の核 【22-4】

【22-4】


34名の中で、たった12名の会だったけれど、

先生は私たちが集まったことを、とても喜んでくれた。

昔はもっと、サバサバしていたのにねと、ハンカチで目を押さえる先生を見ながら、

みずなも私も笑ったけれど、でも、年齢を重ね、色々と経験し、

それぞれが成長したとわかるような、素敵な飲み会だった。





「絵史は来なかったね」

「何? 風音、会いたかったの?」

「エ……いや、うん」


会いたいのかと言われると、複雑だけれど、蒼が来られない理由はわかっていたが、

絵史が来ないのは、まだ心の傷が癒えてないのかもしれないと、そう思えるから。


「さて、どうするよ、藍子の結婚式」

「あ……そうだった」


同級会が終了し、私たちの頭は12月の頭に行われる藍子の結婚式に向かう。

スピーチと何かをして欲しいと要求されていたため、

みずなと会う今日、何をするのか考えようと話していたのに、

蒼の話が出てきたため、こっちがすっかり……


「歌でも歌う?」

「何を歌う?」

「うーん……」


みずなはカラオケもあまりしないからなと、首を傾げる。


「あ……なんだっけ、ほら『Butterfly』は?」

「いいけど、難しくない?」

「練習、練習」


私はみずなに提案し、これからの1ヶ月、何回か食事をしながら、

カラオケの練習をしようと提案する。

みずなも他にないからそうだよねと納得し、その日は駅で別れることにした。





帰りの電車の中で、以前、蒼と話をしたことを思い出した。

蒼がどんなふうに東京を離れたのか、神戸へ行った後どうなったのか、

あいつなりにまとめて話してくれたので、私はそれが事実だと思っていた。

あの時も確かに、あまりにもスラスラ言葉が出てくるので、

おかしいなという思いはあったのに、追求することは出来なかった。

高校生の時、追われるように神戸へ行き、

気持ちがまとまらない蒼を支えたのはきっと、里穂さんだったのだろう。

『SANGA』という、大手企業の社長を父に持つお嬢さんだけれど、

彼女はきっと、それだけではない魅力があって。

あの蒼が、一生ともにいようと、そう思えた人なのだから。



あいつは、心の支えを失って、今、何を思っているのだろう。



ネットのニュースで里穂さんの一報を知ったけれど、

その後のことは、一切、表に出てきていない。



私は目を閉じ、揺れる車内の中で、同じように刻まれる走行の音を、

黙って聞き続けた。





仕事が休みだと言うのに、何をするきまりもない。

朝ものんびりと起き、身支度も整えないままテレビをつける。

景気がどうのとか、治安がどうのとか、

解説者の人たちが、自分の意見を必死に押し出している。

私は布団をかぶりながら、あまり深く考えないようにしていたが、

ピンポンとインターフォンが鳴り、慌てて鏡を見た。

パジャマという格好ではないので、上着をはおる。


「はい……」

「すみません、『宅配屋』です」


荷物か……


「はい、今すぐに出ます」


洗面台の鏡を見て、とりあえず手ぐしで整える。

玄関の鍵を開ける前に、一度本当に業者なのかを確認し、扉を開けた。


「印鑑、お願いします」

「はい」


荷物を受け取りましたとはんこを押して、『ご苦労様です』と言葉を添えながら、

扉を閉める。それほど大きな箱では無いけれど、なんだろう、

埼玉の母からだろうかと送り主を見る。



『中村』



名字だけ。

住所は、真路さんの住む部屋だけれど、この字は彼の字ではない。

私はテーブルの上に箱を置き、はさみの刃を使い、ガムテープを切っていく。

開くと、ビニール袋に包まれた、私の洋服が入っていた。

彼の部屋にいるとき、くつろぐために置いていたスウェットの上下。


「ふぅ……」


とりあえず息を吐く。


正しいと言えないけれど、でも、おそらくそうだろうという状況は頭に浮かんだ。

真路さんは、私ではない人を好きになった。

あのホテルのラウンジで会った女性かどうか、それはわからない。

でも、仕事のアドバイスもきちんとしてくれるような、

横にピタリと並べるような人を選びたくなったと、そう言っていた。

だとするとこれは、その彼女から送られたものだろう。

あの部屋に来た彼女が、これを見つけ、ここへ送ってきた。


もう、この場所はあなたの場所ではありませんからねと、

自分を前に一歩、進めるために。


黙って捨ててくれたら、それでいい気もしたが、

彼女にしてみたら、この行動こそが自分をアピールすることなのだろう。

なんだろう、遙か昔、私が蒼と話していると、

『何しているの』と飛んできた、絵史のことを思い出す。

私はスウェットを手に取り、それをビニール袋のままゴミとして処理することにした。

そう、私にもこれは終わったものだ。

あの部屋にいた記憶を、思い出させるようなものは、これから必要ない。


「さてと、買い物にでも行きますか」


休みにやることがないからなんて、ゴロゴロするのは辞めた。

掃除でもいいし、料理でもいい。

前を向いて生きていこう。

私は部屋の真ん中で着替えをし、『よし!』と大きく一度、気合いを入れた。


【22-5】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント