23 思想の色 【23-2】

【23-2】


「あの当時は、今思うと、自分がどうかしていたんだと思う。
事件が起きたのが学園祭の前の日で、
最後に風音と『さよなら』って別れたのが俺だったのに、結局、何も出来なくて」

「蒼……それは何度も……」

「わかっている。でも、やっぱり俺に勇気がなかったんだよ。
クラスで妙な噂になったことも、『そんなことを言うな』と否定するのに、
その自分自身が、戻ってくる風音に対してどうしたらいいのか、
本当は一番わかっていなくて」


蒼は言葉を、一つずつ冷静に送り出してくれた。

『何一つ関係が無い』と言っても、それは違うと言い返されてしまうから、

あえて認めながらも、もう過ぎたことだと、

そう……思い出の一つのように、パズルのボードにピースを埋めていく。


「バスケの選抜チームに出かけて、他の人の実力を思い知らされたのもウソじゃないし、
うちの母親に牧野が近づくことも、気持ちを乱していたし、
色々なことが重なった日の中で、『万引き事件』を起こしてしまって」


田島が話していたこと。

普段の蒼なら、絶対にありえない。


「呼び止められた自分自身がわからなかった。なぜものさしなんて持っていたのか、
盗むつもりもないのに、外に出て行こうとしたのも事実だし。
ただ、俺にとって予想外だったのは、母親がそういった俺の気持ちの乱れを、
牧野に相談していたことだったんだ」


あの事件の後、『ふくたろう』まで行けば、蒼に会えると思った日。

おばさんを待っていたのは、確かに牧野さんだった。


「父親がいないことが悪いのではないかとか、確かに女一人で育てることに、
不安があったのかもしれないけれど、俺は、父親でもない牧野が、
俺にアドバイスをしてくるような距離感が、当時はとても嫌で……」


以前、取引先に出かけると言って、海のそばに車で向かった日。

蒼は、お父さんが亡くなった場所だと、言っていた。


「その後、また『万引き』騒ぎになった。今度は本屋だ。
俺はしていないと主張したけれど、持っていた布のバックから、
確かに1冊の本が出てきて……。でも、覚えもないし、盗んだ漫画自体、
読んだこともないものだから、俺ではないと主張したけれど、
客の一人が、絶対に俺だと、騒ぎ出して……」


蒼がカメラを見てくれと主張したが、その要求はなぜか店長にも認められず、

スーパーの時と同じように、おばさんが呼び出されてしまったという。


「その時に、なぜか牧野が一緒に着いてきたんだ。
店長に対して、まるで自分が父親かのように振る舞いだして、
うちの母親の方がむしろ1歩下がって、それを受け入れているように見えたとき、
『母子家庭はしつけがなかなか……』と、その万引きを発見したと主張する男に
さらに言われた」


蒼は、牧野さんの存在、おばさんの頼りなさ、店長と男の身勝手さに、

我慢の糸が切れてしまい、声を上げた男を殴ってしまった。

警察を呼ぶのかどうかと主張された時、その場を収めたのは牧野さんだったという。


「牧野が封筒を出して、その男と店長に渡していた。
中身を見たわけでは無いけれど、どういうことなのか、なんとなくはわかるだろう。
それまであれこれ言っていた二人が、急に顔色を変えて、
警察を呼ぶどころか、牧野にペコペコと頭をさげて……」


蒼は、辛い思い出を、私のために語っている。

田島から事情を聞き、気にしているだろうとわかっているから。


「蒼……もういいよ」


思い出したくないことを、思い出させるのは私も辛い。


「そんなふうに話をしてくれなくても……」

「いや、最後まで話すよ。それが……」



それが……



「俺とお前のためだと思うから」



覚悟を決めた蒼の顔を見ながら、私は頷くしかなくて。

そんな出来事があり、牧野さんをすっかり頼り切るようになったおばさんを見た蒼は、

『神戸行き』を承諾するしか無かった。


「神戸に行ってからの自分のことは、前にも話をした通りなんだ。
こっちにいたときとは違って、ふてくされて、
周りの人間に挨拶すらまともに出来ない日々が続く中で、里穂に会った。
わがままなところもなく、とにかく明るく前向きで……
境遇など関係ないと、過ごすあいつの姿を見ていたら、
自分が嫌な人間だなと、そう思うようになって……それに……」



それに……



「心のどこかで、風音もあんなふうに過ごしているのではないかと、
思うようになっていた」

「私が?」

「うん、お前も、いつも明るく、頑張っていたからさ」


里穂さんの姿に、先に転校した私を重ねてくれたという蒼。


「成人式の会で再会した風音は、俺が思っていた以上に、きちんと前を向いていた」



私……



「そうかな」

「もちろん、強がりもあったことくらい俺にもわかるよ。
あんなことになって、転校するしか選択肢がなくて。
何も気にしていないというのもウソだと思うし。でも、風音はあの場所に来た。
それだけでもすごいと思ったしね……。大学に合格して、
また東京に戻って、新しい一歩を踏み出していた。
それを見て、俺もこのままじゃダメだと……」



新しい一歩……



「お前に、正面を向いてまた会えるようになりたいと、そう思いながら生きていた」



蒼の言葉に、何か特別なものがついていたわけではないのに、

力を抜いてしまうと、涙が出てきてしまうような、そんな気になった。

私の最高の日を作ってくれた人は、最低の日になったことも、

心から受け止めてくれていて、そのために自分も迷いの中に入り込んだ。


「私は、たくさん蒼に迷惑をかけたと思っていたから、
本当に、『また会えるように』と考えてくれたのなら嬉しい」



『また……会えるよね』



あの日、私は蒼に聞いたはず。



「『MAKINO』が、『キタック』と仕事をしていくことになるのがわかって、
風音が就職したことも知った。数年すれば、『MAKINO』が幅をきかせて、
『キタック』の形が変わるかもしれない。それならそうなる前に、
『東京』で風音に会いたいと考えた。それともう一つわかったことがあって……」

「わかったこと?」

「うん……」


蒼は自分の携帯電話を取り出すと、何かを開いて見せてくれた。

私は画面を見て、すぐに蒼を見る。


「これ……」

「あぁ……前に聞かれただろ。どうして、もういない人の名簿まで、
あれだけ使うんだって」

「うん」



『坂上京助』



刑事が『キタック』にきて、名簿を見せて欲しいと言った、詐欺事件の犯人。

蒼が印刷してくれた紙に、何か跡がついていると指摘され驚いたことを思い出した。


【23-3】



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