23 思想の色 【23-5】

【23-5】


カレンダーは3月になり、久しぶりの女子定例会が行われることになった。

『新婚旅行』を済ませた藍子は、私たちにお土産をくれ、

さらに、お腹がいっぱいになりそうな、ご主人とのエピソードもつけてくれる。


「本当に評判だったのよ、向こうの友達に。藍子さんのお友達は、
歌がうまいですねって。もう、会うたびに……」


藍子は、親戚もそう言ったと付け加えてくれる。


「そんなことないよね、みずな」

「そうそう、あまりの緊張に、声震えたし」

「ううん……私は何より感動した」


藍子は、あんな結婚式ならもう一度したいと笑顔になる。

みずなは、『だったら離婚するの?』と笑いながら問いかけ、

藍子は『するわけないでしょう』と言い返す。


「あ、そうだ……この間、北島社長が販売店に来てくれてね。
里穂さんのことを少し話してくれたの」


みずなは、本来ならすぐに納骨すべきだったが、

お母さんの悲しみが強く、夏まで待つことになったことも聞いたという。

『夏には……』と、確かに言っていた。


「うん……そうらしいね」

「知っているの? 風音。あ……もしかしたら」

「うん……蒼から聞いた」

「蒼に会ったの?」

「うん……田島がほら、あの日、蒼のことを私たちに話してしまったでしょう。
それを気にして連絡を取ったみたい。それで、2月には神戸へ戻るからって、
蒼がその前に会ってくれた」


みずなは、そうだったのかと頷いてくれる。


「ねぇ……風音は話したの?」

「何を?」

「何をじゃないわよ、中村さんとお別れして、今は一人ですって」


藍子は、お互いに『一つの恋』が終わったのだから、

また違った感情で向き合えるのではないかと言い始める。


「ううん……」

「言わなかったの?」

「だって言えないよ。そんなこと言ったら、神戸に戻るって言っているのに、
心配してくれと訴えているみたいでしょう」


私は、アパートまで送り届けてもらった時、

実は『急に』蒼が真路さんのことを言い、実際、戸惑ったことも話す。


「降りようかなと思った時で、私も慌てちゃって。
で、納骨で東京に来た時にでも、彼と会いたいようなことを言うから、
適当に話を合わせるようにしたけれど……」


藍子とみずなの声が止まり、私も話を止めた。

何か、おかしなことを、言っただろうか。


「何? どうしたの? 急に黙らないでよ」


藍子はなぜか姿勢を正して、私を見る。


「今、急にって言ったよね」

「ん? うん……」

「車で送り届けてもらった時、もう降りないとならない瞬間に、
急に古川さんが『中村さん』の話題を出したってことだよね」


妙に責めてくるような視線に、私は返事の声が小さくなる。


「うん……」

「いやいやいや、それはあのさ、そういうことでしょう」

「どういうこと?」


藍子がみずなを見ると、みずなは黙って頷いた。

間に挟まる私は、二人の顔を交互に見る。


「古川さんの立場は複雑なのよ。色々と事情があったとはいえ、
結果として里穂さんを選んだ。その事実がある以上、積極的には出られない。
でも……もしかしたら、どうなんだろうって思いを込めて、『中村さん』って、
そう言ったってことじゃないの?」

「は?」

「は? じゃないよ。風音に『中村さん』のことを聞けば、二人が今どうなのか、
聞くことが出来ると思って、古川さんはわざと話題に出したのでしょう。
『幸せ』だと言われたら、諦めるしかないけれど、『実は……』って言ったら、
それはこの先を考えてもいいのではないかって」

「エ……」

「何してるのよ。生きているんだよ、風音と彼は。
互いにまだ、気持ちも持っているでしょう。違うの?
これから先、一緒に歩いて行こうと考えたらどこか問題?
風音が嫌いなら、無理にとは言わない。でも、そうじゃないはず……」



私が蒼に対して……



「そうだよね、みずな」


藍子の問いかけに、みずなの答えはきっと……

『蒼のことはもう……思い出にした方がいい』

だと……



今までもずっとそうだったし……



「……だよ、私もそう思う。だから風音の話を聞いて、言葉が止まった。
気づかなかったのかって……」

「みずな……」

「蒼にとって、風音は今でも特別なんだよ、だから神戸に帰る前に会いに来た。
今、話を聞いて、私もそう思ったもの。藍子の言うとおり、
里穂さんと生きることを選択したから、自分から『風音と一緒に』なんて、
蒼は言わないし言えないだろうけれど。
中村さんが、もう風音のそばにいないとわかっていたらきっと……」

「そうそう、きっと……」


みずなの言葉に、藍子が気持ちを乗せていく。


「風音が蒼と生きていきたいと思ったとしても、間違ってなんていないよ。
里穂さんだってわかってくれる」


予想外の言葉だった。

いつも冷静で、距離を保とうとするみずなの、

感情的で、前に向かえというアドバイスを聞くことになるとは。


「古川さんはきっと……風音を思って、東京を去ったんだよ」



『幸せになれ』という最後の言葉。

私と真路さんがまだ、お付き合いをしていると思った蒼の、

精一杯の……



里穂さんとの思い出が、蒼から語られていくことが、

あまりにも鮮明で、あまりにも切なくて。

私はあの日、ただ、受け止めていることしか出来なかった。

蒼が私のことをどう思っているのかなんて、考える余裕はなかったから。

アパートの前の道が狭いことが気になって、心の揺れなんて、わからなくて。



『古川蒼』



私の脳裏に、あの日、笑ってくれた蒼の顔が、浮かんで消えていった。



【ももんたの小ネタ交差点 23】

1話を5つに分けている中、
この23話はそのうち4つが風音と蒼のシーンのみになりました。
『キタック』に来てからの、蒼の冷たい態度や、おかしな行動の意味が、
この23話で全て明らかになっていると思うのですが……どうかな。
人は必死に生きているので、自分の人生が中心になるのは当たり前なのですが、
実際には、全ての人に時間が流れているんですよね。



【24-1】



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コメント

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読みながら、思わず涙ポロリでした。
最終回まで見守るぞと思いますが、のぞむ結末になるかなあ

どきどき

ぽこさん、こんばんは

>最終回まで見守るぞと思いますが、
 のぞむ結末になるかなあ

ぽこさんの望む結末が、
どういうものなのか、少し不安ですが……
でも、見守ってください。
よろしくお願いします。