24 運命の紙 【24-1】

24 運命の紙

【24-1】


高校2年で、蒼とは初めて同じクラスになった。

中学が同じわけではないし、共通の友達がいたわけでもない。

それでも半年後の『学園祭』前には、私の心の中は彼で埋め尽くされていた。



『風音が好きだ』



あの日、そう言ってもらった最高の思い出。

これといった輝きもない私の高校生活に、一番の彩りを与えてもらった瞬間。

しかし、その後、それを踏み潰すくらいの、辛い出来事が起きた。

そこからは、互いに運命に翻弄されて、

抵抗するすべも知らずに東京を去ってしまったが、

『何かを残したまま』という思いは共通で、

もう一度『東京』を目指した結果、『再会』を果たす。

年月に変わったところもあったが、話せば話すほど、視線を合わせれば合わせるほど、

やはり気持ちは蒼を捉え、胸がグッと締め付けられるような思いをした。



『CROSS ROAD』



向かいあった道に、互いに存在を意識しながら、一歩を踏み出していくものの、

速度が違って少しズレた場所を選び、止まることも出来ず、また私たちは歩いていて。


もっと近づくことが出来たらと、どこかで互いに考えながらも、

蒼は里穂さんを選び、私は真路さんを選び……



それが自分たちの出した結論、

もう、また改めて、道を歩き直すことはないだろうと思っているのに……



姿が見えない日々を送りながら、今もまだ、心のどこかでその声を探している。





優しい春の風は桜を呼び込み、そして美しく散らしていった。

新しい日々が、始まる4月。

『キタック』の北村社長は、株式を所有したまま、経営を『MAKINO』に任せた。

ドライバーリーダーを務めていた鶴田さんが、定年退職をしたため、

そのポジションには、昨年、『MAKINO』から入った

ベテランのドライバーが名前を載せる。





「いらっしゃい、風音ちゃん」

「すみません、いつも立ち寄って」

「何言っているの、いいのよ、楽しみなんだから」


見積もりの帰り道、私は『橋爪クリーニング』に立ち寄った。

おじさんとおばさんは、あいかわらず元気にお店を経営していたが、

修行していた職人さんは、誰もいなくなった。


「結婚してね、独立したの」

「へぇ……そうなんですか」

「これからは『クリーニング店』を、個人でやるのは大変だよと言ったのに、
本人は頑張りますって。でもね、お嫁さんの実家が、いいところなのよ。
駐車場とかアパートとか、いくつか持っている人で、お金にも余裕があるでしょう。
だから認めてくれて」


別の収入が確立されているため、、お店を持つことに協力的だと言う。


「いいわよね……結婚で人生変わるのよ、男も女も」


おばさんは私は苦労ばかりだと、おじさんに届くような声で、わざと嘆いてみせる。


「何言っているんですか、おじさん優しいし、いい人ですよ」


父親の思い出などない私にとっては、橋爪さんに、どこかそんなイメージもある。

時折かけてくれた『大丈夫だよ』の言葉に、私は何度も救われた。


「いやいや風音ちゃんには、いい顔を見せているだけよ。
本当はケチだし、気持ちが小さいし……」


作業場の奥から、『自分もそうだろう』というおじさんの反撃が聞こえてくる。


「あぁ、うるさい!」


おばさんは、耳だけはいいのよと、笑い出す。


「風音ちゃんはいくつになるの」

「……27です、今年」

「あらあら……そうなの? いやぁ……本当に?」

「おばさん、そうですよ。ここに暮らしていたのがもう10年前になります」


今では、鉄筋コンクリートの団地が建っている場所。

ここに私と母が住んでいた、長屋の公営住宅があった。


「そうか、そうだったよね。この広い土地に、6つくらいの家だったでしょう。
今思うと、贅沢なことだよね」

「まぁ、そうですよね。庭と言うわけではないですけれど、
お花を植えたり、していましたし……」


思い出したくないことはあるけれど、思い出もたくさんある。


「あ……そうです。実は……」


私は、10月いっぱいで埼玉の実家に戻ろうと考えていることを話した。

おばさんはどうしてと目を丸くする。


「実は、4月の頭に、祖父が階段を踏み外して、骨折してしまって。
昔から腰が悪いこともあったので、入院したんです」

「あら……入院?」

「はい」


病院は実家から駅を7つ進んだ場所にある、以前、母も入院したところだが、

洗濯物を届けたり、寂しがる祖父のために祖母を連れて行ったり、

仕事を抱えながら母が大変そうなので、実は少しだけ有給を取ったのだと説明する。


「有給を取って、埼玉に?」

「はい……。事情を話して3日、もらって戻ろうとしたら、
『5日取って、週をまたいでもいいですよ』って、そう言われてしまって」


5日取ると言うことは、つまり1週間、私が全ていなかったとしても、

仕事の流れには支障が無いと、宣言されているようなものだった。


「家の事情を理解して、そう言ってくれただけで、嫌みではないと思いますが、
つまり、そういうポジションなんだなと、自分自身感じ取ってしまって」


いればそれなりに役には立つだろうけれど、いないとしても問題がない。

私はおばさんにそう話す。


「風音ちゃん……」

「いえ、薄々気づいていましたから、私もさすがに。
『キタック』が来年には、名前も全て『MAKINO』になることが決まって。
この4月には、入社させてくれた社長も、手を引いてしまった状態ですし、
以前は、もっと、会社の軸になる仕事が出来たのに、今はほとんどこうして……」


見積もりの仕事が悪いとは言わない。

でも、奥村さんがいたときのように、経理や広報と関わるような仕事は、

この数年間で全てなくなった。


「そう……」

「年齢を重ねていくだけで、特にスキルアップになるわけでもないし。
ここら辺で潮時かなと」


埼玉の実家。

すっかり体の弱くなった祖父と、元気ではあるけれど、色々と病院通いの増えた祖母。

そして二人を見ながら、仕事をしている母。

一人、東京でのんびりしているわけにはいかないと、思うようになる。


「絶対に東京にいないと出来ないと誇れる仕事なら、
思い切って家族をこっちに呼ぶという方法もありますけれど、
祖父母は持ち家ですし、家賃とか再就職を考えたら、今の年齢で戻る方がと……」


あの事件で去らざるを得なかった『東京』に出てきて、

自分の力でもう一度居場所を確保する。

それが私のリベンジだった。


一応大学を出て、就職もした。

ダメにはなったけれど、人を好きになることも出来た。

もうこれで……



『東京』に思い残すことは……



「そう……戻るの。事情を聞くとそうだよねと思うけれど、
世話焼きの知り合いおばさんとしては、寂しい気がするわね」

「世話焼きのって……もう、笑っていいところですか、ここ」

「当然よ、笑ってくれないと、困る」


おばさんは、少ししわの増えた顔で、笑ってくれる。


「帰るのは、秋ですけどね」

「うん……」


どこかで区切りをつけなければ、ならないこともわかっている。

だからこそ、私はこの秋に決めた。

コーヒーを1杯ごちそうになって、おばさんたちに挨拶をして、駅までの道を歩く。

会社までの電車に揺られながら、私は携帯を開き、ネットに載っている記事を見た。


【24-2】



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