24 運命の紙 【24-3】

【24-3】


「連絡取れないよ、番号知らないし」

「知らなくたっていいでしょう。名前わかるし、所属わかれば、電話出てくれるよ」


藍子は自分が受話器を持ったような仕草をして、

『もしもし……』と、まるで見本を見せたような顔をする。


「職場にかけて、何言うのよ」

「何って、『私はって……』」


藍子は、もう一度会って、話をしましょうと言えばいいのにと、

テーブルを両手でパンパン叩く。


「まだ、里穂さんの納骨も終えていないでしょう。今は、会おうと思わない」


蒼のそばには、まだ里穂さんがきっといるはずだから。


「そんなこと言っていたら、次は三回忌だとか、七回忌だとか……
どこで区切るの?」

「ほら、藍子、興奮しない。赤ちゃんが短気になるから」

「エ……ウソ、そうなの?」


みずなの言葉に、藍子は慌てて自分のお腹をゆっくりなで始めた。


確かに、藍子の言うこともわかる。

でも、あまりにも情報が浮きすぎていて、

考えたことが本当なのかどうなのかもわからないし、

向こうに戻った蒼の現在も、私は何も知らない。


『蒼は今、私をどう思っている?』

こんなふうに、ハッキリ聞いてしまうのが、怖いところもあって……


今まで自分なりに考えたことが、ただの思い込みになってしまった経験があるから、

どうも考えがまとまらない。


「風音。向こうで何か仕事のあて、あるの?」

「ううん……とりあえず戻って、職安にでも行こうと思っている。
住むところはあるわけだから、最悪、パートとかでも働かないとね」

「そう……」


私は、これから色々と調べてみると返事をすると、料理を一口食べた。





そして、季節は夏。

7月も後半になろうかという時、私の携帯に連絡が入った。

その相手に驚き、私は仕事の帰りに待ち合わせのレストランに向かう。

途中にあったお店のガラス窓に自分の姿を映し、おかしくないかを確認した後、

鈴の鳴る扉をあけた。


「おぉ……こっちだ」

「お久しぶりです」


私を呼んでくれたのは、『北村社長』だった。

退社をすると聞いて、拍手をし送り出した日以来になる。


「悪いね、仕事が終わった後に」

「いえ」


私は椅子に座ると、ブレンドを注文する。


「松田君から連絡をもらってね、石本さんが10月で退社すると」

「はい……お世話になりました」


私は北村社長に、しっかりと頭を下げる。


「何を言っているんだ、石本さんには本当に悪いことをしてしまったと、
私は今でも悔いていてね」

「社長……」

「君が大学生になってバイトに来てくれて、よく働くし明るい性格だから、
会社を助けてくれないかと、半分強引に就職をさせてしまった。
もっと、『キタック』に力があれば、
こんなふうに退社させることにはならなかったのになと、本当に……」

「いえ、そんなことはありませんから」


北村社長は、私の現在を聞いて、連絡を取ってくれたのだ。

確かに、入社するとき、こんな5年後が待っているとは思っていなかったが、

後悔はしていない。私にとって『キタック』での5年。

いや、学生時代からの9年間は、本当に貴重なものだった。

社会人としての心得も、人としての優しさも、

そして……



人を好きになることも……



この場所がなかったら、得ることが出来なかったから。


「『キタック』と同じような規模の引っ越し業者が、
この数年でいくつも仕事を辞めています。そうなれば、ドライバーも、私たちも、
路頭に迷っていたわけですから、社長の選択が間違っていたなんて、
誰も思っていませんよ」


蒼が東京に来た時、確かに人員整理があり、会社の雰囲気は最悪になった。

しかし、あの条件をクリアし、今でも働いている人たちは、

『MAKINO』のブランドを身につけ、さらに給料を上げている。

私自身、待遇には不満もあったけれど、お給料は実際、きちんと上がっていた。


「ご実家に戻ってからの仕事は、何か決めているのか」

「いえ、まだ何も決めていません。とりあえず、祖父の状態が戻って、それからと」

「そうか」


社長はポケットから、折りたたんでいた1枚の紙を出すと、目の前で広げてくれる。


「実は、埼玉の……石本さんの実家から通えるような企業と思って、
昔、縁があった人たちに、私から状況を聞いてみたんだ」

「社長……」

「別に雇ってくれと話をしたわけではない。でも、もし、
向こうに戻って、思ったような流れにならなかったら、
この企業で頑張ってみようかと思う気持ちが出来たら、私に連絡を寄こしなさい」


北村社長は、その段階で話をしてみるからと、そう言ってくれる。

私は3つの企業名を見た後、『ありがとうございます』とお礼を言う。

お世話になろうと思っているわけではないけれど、私を思って、

こうして会いに来てくれた社長の気持ちが、とにかく嬉しい。


「どんなふうになっても、社長にはご連絡を入れますから。
本当に、そんなふうに気にしないでください」

「石本さん」


申し訳なさそうな社長の顔を、明るいものに変えてあげたくて、

私は一度咳払いをする。


「もしかしたら、『結婚します』なんて、連絡をするかもしれません」

「エ……」

「冗談です。全く予定はないですが……」


私の自虐的な言葉に、そこまで神妙だった社長の顔が、明るく変わってくれる。


「そうか、そうだよな。石本さんがまだ独身だなんて、
世の中の男どもは、見る目がない」

「いえいえそんな……」


真路さんとのこと、社長なら気づいているのかなと思っていたが……


「今度こそ、いい出会いがあるといいな……」

「あ……」


やっぱり気づいていた。

私は『はい』と返事をする。

社長は、せっかくだから美味しいものをごちそうするよと、

メニューを出してくれる。

私は、『ありがとうございます』とお礼を言い、その日はお肉の味がしっかりとする、

ステーキを食べさせてもらった。





季節が春から夏になっても、私の日々はそれほど変わることなく

毎日は確実に過ぎていった。

8月には、残っていた有給の消化もあり、少し長めに実家に戻る。

祖父は退院し、リハビリにもしっかり参加していたが、

母から思いがけないことを提案された。


【24-4】



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