24 運命の紙 【24-5】

【24-5】


「なんだろうな、今の……」

「うん」


蒼が今日、ここに来るなんて……。

思いがけないことに、鼓動が一気に速まった。

会えると思っていなかったから、蒼に何を言えば、どう話せばいいのかもわからない。


「田島と吉村から、神戸に連絡があった」

「エ……」

「今日、来ることが出来るかどうか……って」


みずなと田島が……


「今日が、『夢コメ』を掘り出す日だと、そう聞いて」


蒼がポケットに手を入れて、私の目の前に1枚の紙を出した。


「蒼……それって」

「うん。里穂が見つけて、風音に送ったものだ。それがまた、戻ってきた」



『風音と一緒に……』



10年前の『学園祭』で、蒼は、この『夢コメ』の紙に言葉を書いて、

一緒に埋めようと言っていた。

もちろん、それは出来なくて。


「ここへ来る前に、里穂にもちゃんと報告をしてきた。
これから、『学園祭』に行きますって」


蒼は、この紙が戻ってきた後、

里穂さん自身が、もう一度、おばさんに渡していたのだと教えてくれる。


「もし……まだ、間に合うのなら、そうして欲しいと」



『ごめんなさい ありがとう』



の意味は、そういうことだった。



「中村さんとのことを、お前が言わなかった理由も、
この後、実家に戻ろうとしていることも、吉村から聞いた。
そう……吉村の言うとおりなんだ。あの日、最後に中村さんの話題を出したのは、
風音の状況を知ろうとしたから」


突然出てきた、『中村さん……』の台詞。


「風音が幸せなのなら、俺に壊す権利は無いけれど、
もし、ひとりになっているのなら、この先をと……」


飛び出した台詞の意味。

『この先』とは、これからの時間ということだろうか。


「まだ、風音にとっては整理のつかない状態かもしれないけれど、
伝えるには、この日を逃したらダメじゃないかって、田島も吉村もさ」


『私は出る』

今日の参加を決めていたみずな。

いつもの彼女には珍しいくらいの台詞だと、確かにそう思った。


「10年前の『学園祭』の後、俺たちはクラスの一員として、
風音の辛さを受け止めることが出来ていかなかったからと、そう言って」


事実では無い噂と、身勝手な想像。

私は、その渦に巻き込まれ、転校することになってしまった。


「俺も……2人と同じ思いだったから」


私は一人で苦しんでいたと思っていたけれど、

蒼も、そしてみずなや田島のような同級生達も、戻らない時間に後悔を重ねていた。

みんな、それぞれの思いに、苦しみ、悩んでくれて……


「あ……ほら」


グラウンドの隅にある、『夢コメ』の保管場所。

よくみると、そこにはすでに田島もみずなも立っている。



……絵史



学級委員だったつぐみのそばに、絵史が立っている。

絵史も、みんなの場所に、来ようと思えるようになったんだ。

絵史にとっても、今日はまた、新しい出発の日。


「あ……そうだ、そうだった」


蒼はバッグを開き、今度は『青いハンカチ』を取り出した。

私の目の前で、その隅を首の前に入れていく。


「風音にあの時のハンカチは返したから、今回は自分で持ってきた。
さて……」


蒼は真面目な顔で私を見る。

そのハンカチはまるで、『よだれかけ』のようで……


「誰でしょう」


『ハンカチのよだれかけ』

それで思いつく人など、私たちには一人しかいない。

私も蒼も指を出し……



『北村社長』



と、同じタイミングで叫んだ。

そう、北村社長はいつも愛妻弁当を持ってきて、食べる前にこうして、

ハンカチを……

思い出したら、おかしくなった。

そう、あの頃、『キタック』での日々。蒼もその姿を見ていた。

きっと、『どうしてあんなことするのか』と、思っていたに違いなくて……


「見ていたの? 蒼」

「あぁ……どうしてあんなふうにハンカチを使うのかなと、いつもね」


私は『私も思っていた』とわかるように、何度も頷く。

蒼は『もういいだろ』と言いながら、ハンカチを取り、たたみ出す。


「約束だ……10年かかったし、ハンカチは違うけれど、俺、守っただろ」



『このハンカチで、私がクスッと笑えるようなこと』



そうだった。10年前、蒼に告白されて、私、あまりの恥ずかしさに、

持っていた青いハンカチを取り出して、

これで『学園祭の日』におもしろいことをしてと頼んだ。


「そうだったね……」


10年前なんだ、あの日。


「ほら……今度は風音の返事だ」


蒼は、あの約束を覚えていた。


「おい……風音……」


何よ、少し待って。

自分はわかっているからって、どんどん先に先に進もうとして。

こんなことズルイよ。私一人、何も用意していなくて、考えていなくて。

『おい……』って言われても、言葉が出て行かない。

みずなの気持ちも、田島の気持ちも、そして蒼の気持ちも……

嬉しいことは間違いないのに、頭と心が、ごちゃごちゃで。

私は蒼に近づき、持っていた『夢コメ』の紙を取る。

懐かしい蒼の学生時代の字。

数学のプリントや、英語のノートに、残してくれた字。

もう一度、触れることになるなんて、考えてもみなかった。


「ありがとう……」



ありがとう……里穂さん。



「私も、蒼と一緒に……」



そう話そうとした時、近づいた蒼に抱き寄せられる。



「ヒュー!」



冷静に上を向くと、そこには『10年前の私たち』のような、高校生がいた。

そうだった、ここは『清廉高校』。

蒼は私の体を離すと、頭をポンと叩く。


「そうだった、学校だここ……」


そう言いながら笑うと、私の手をしっかりとつかんでくれる。


「お前らも10年、頑張れよ」


なんだよとか、意味がわからないという学生達の声から逃げるように、

私と蒼は、『夢コメ』を掘り出している仲間のところに向かう。


「ちょっと蒼、待ってよ、急がせないで……転ぶ」


つながれた手、その足取りが結構速く思えて……


「転ぶ? なら、ここからおぶってやろうか?」

「エ……バカなこと言わないでよ」


こんなところでおぶわれたりしたら、また学生達から冷やかされる。

もちろん、手を離せばいいのかもしれないけれど、離したくなくて……


「ほら……風音。こっち……」


花壇の脇を抜けようと指示する蒼。

振り向いた彼の顔には……



私が大好きな、『世界一の笑顔』が浮かんでいた。



『cross road』終



【ももんたの小ネタ交差点 24】

『清廉高校の学園祭』に始まった物語は、10年が経過した『学園祭』の日に、
完結を迎えることになりました。
すれ違い、また近づき、そして何もなく通り過ぎ……
そんな人生の色々な交差点に立ちながら、二人の歩む方向が、やっと同じになりました。
この続きは、こんなふうになるのかな……と、考えてもらえたら嬉しいです。
最後まで、お付き合いいただいたみなさまに、感謝……




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント

終わってしまった
でも、嬉しい
蒼とのこれから、みせてほしいです
ありがとうございました

毎日楽しみに通いました♪

10年後、ふたりの気持ちが寄り添って、明るい未来ヘ……

毎回、風音ちゃんを追いかけました。
毎日更新、読者にとっては嬉しいですね。

できあがっているお話も、ももちゃんの投稿作業は毎日……
連日更新、お疲れ様でした。

次回作も待ってます。

こんばんは

ぽこさん、こんばんは

>終わってしまった
 でも、嬉しい

終わったことを寂しく思ってもらえるのは、こちらもとても嬉しいです。
先を読んでみたいなと思ってもらえるのもね。
『余韻』を残したかったので、こんなラストにしてみました。

これからも、よろしくお願いします。
コメント、ありがとう。

こんばんは

なでしこちゃん、こんばんは

追いかけていただいて、嬉しいです。
今年は、こちらへの引っ越しなどもあって、忙しいのに。
(で、さらに、私の方がここは先輩なのに、教えてもらってばかりで・笑)

投稿作業は毎日だけれど、すでに日課のようになっていて、
やらないと何かを忘れたような気になるんです。
適度な散歩気分かな。

これからもよろしくお願いします。
コメント、ありがとう。