1 おかしいけれど、思ったのです! 【1-2】


【1-2】


祥吾にとって従兄弟になるこの勇也は、

都内の駅前にある、イタリアンレストラン『カリーナ』の1店舗を任されていた。

経営者は父親の友則で、常に会っているため、

家にいてもいなくてもあまり関係がない。


「踏んだり蹴ったりっていうのは、こういうことを言うんだね、祥吾」


勇也はわざと憎まれ口を叩きながら、またビールに口を付けた。

聞き流せないと思った愛美が、振り返る。


「あら、このことが踏んだりだとしたら、蹴ったりということは何かあったの?」


愛美は早速、悩み事なら聞くわよと身を乗り出した。

祥吾は、『おせっかい』を人間の形にしたのが叔母だと思っているだけに、

大丈夫だと首を振る。


「何もないよ」


祥吾は勇也の顔を見ながら、『余計なことを言うな』という無言の合図を出す。


「俺じゃないよ、言ったのは親父」

「は?」


叔父の友則は、50歳になろうというのに、レストラン経営者という肩書きもあるからか、

とにかくよくもてた。女性関係は昔から派手なままで、

祥吾も会うたびに横にいる女性が違うことに驚くことも、すっかりなくなっている。

喧嘩をしては仲直りをしていた叔母夫婦は、今から半年前、

どういう理由なのかはわからないが、急に『離婚』の形を取った。

しかし、それからも一緒に食事をしたり、交流は続けている。


「母さん、祥吾、別れちゃったんだよ、彼女と」

「おい、適当なことを言うなよ」

「適当? いやいや、違うだろう」


勇也は『別れくらい誰にでもある』とソファーの端に足を乗せながら笑う。


「『今のあなたにはついて行けない』……ってね」


勇也はそういうと、祥吾を見る。


「……と、ラインが入ったことを、親父が見たって。
文章からして、祥吾の恋は終わったぞと……」

「あら……あらあら……」


愛美は『そうだったの』と、祥吾に同情するような言葉を出しながら、

実際にはにこやかな表情を向ける。


「あらあらじゃないし、どうして人の携帯を見るかな、叔父さんも」


祥吾は3ヶ月程前に、突然仕事だと言って友則が福岡に来たとき、

一緒に飲みに行ったことを思いだした。おそらくそのとき、

何かしらのタイミングで見られたのだろうと思い、ため息をつく。


「そんなに落ち込むことはないわよ、祥吾、あんたいくつだっけ年齢」

「俺? 今年31かな」

「31……いいわね、バッチリよ」

「何?」

「ううん、ほらほら、お風呂に入って、今日はさっさと休みなさい」


愛美はそういうと、祥吾に風呂を勧めた。

自分のバッグから、携帯電話を取り出すと、何気なくレンズを祥吾に向ける。

もちろんそんな怪しい動きに、祥吾が気づかないわけもなく。


「何しているの、叔母さん」

「いや……うん、あのね、携帯の調子が悪くて、様子を見ているの。
押しても反応しないこともあったり、押してもいないのに反応することがあったり……」

「それ、様子を見る必要なんてないよ、壊れているからすぐ直したほうがいい」

「そうかしら」


そんなとんちんかんなコメントを述べながら、言葉に紛れてシャッターを押した。

勇也は祥吾に『もう少し飲むか』と尋ねたが、祥吾は手を振る。


「いいよ、叔母さんの言うとおり疲れた、今日は風呂に入って寝る」


祥吾はそういって立ち上がると、首を軽く回しながら、風呂場に向かった。





「ふふん……ふん、ふん」


祥吾が思いがけない出来事に疲れていた頃、

同僚との飲み会を終えたひかりは、道路の白線の上を歩きながら、

駅から5分ほどの場所にある部屋を目指していた。

酔いが回っている時には、こうして白線を見ながら歩くと、

道路の真ん中に飛び出てしまい、車に迷惑をかけることがないと、

自分なりに考えての行動になる。

時々大きく息を吐きながら階段を上り、バッグから出した鍵を使い部屋の扉を開けた。

低めのパンプスを片方ずつ脱ぎ、それを揃えることなく放り投げる。

右と左の靴が、勝手な方向を向いたままになった。


「はい、ただいま……おかえり」


独り言を言いながら、廊下の壁を左手で触れていくと、指に当たるものがあり、

それを押した。すると灯りがつき、部屋の中まで見える状態になる。

そこにはひかりの生活が広がっていた。

昨日、寝坊してそのままになっている洗濯物と、朝、テレビ番組の面白さに、

時間が無くなり、洗えなかったお皿とコップ。

ひかりはその残骸を見たけれど、そのまま奥まで進み、とにかく腰を下ろす。


「はぁ……」


明日は休み。だから明日全てをすればいいと頭の中で言い訳をしながら、

ひかりは自分を縛っているような気がする洋服を、どんどん脱ぎ始めた。

ボタンを途中まで外しているとき、お風呂を入れていないことに気付き、

そのまま風呂場に向かう。

栓をしっかりと確認し、お湯が入るボタンを押した。

ゴーッという音がし始め、浴槽はお湯を溜め始める。


「よろしくお願いします」


ひかりは浴槽に敬礼をすると、また部屋に戻ってきた。

締め付けている下着のホックまで外し、そのままベッドに倒れ込む。

うつぶせのまま横を向くと、昨日寝る前に読んでいた雑誌が、そこにあった。

かわいらしいモデルが、何か楽しいことがあったのか、満面の笑みで収まっている。

ひかりは雑誌を取ると、表紙が見えないように裏側にした。


「あぁ、もう、どうしてこんなふうになるのよ」


そう声を出し黙っていると、眠気でまぶたが閉じそうになる。

ひかりはどんなに眠くても、お風呂に入らないまま寝てしまうということだけは、

今までしないで生きてきた。

自分の身体に、どこからか飛んできたほこりが全て吸い寄せられるような気がして、

それはまずいと必死に体を起こす。

お湯が溜まるまでの時間を、どうにか過ごすべきだと、バスローブを羽織り、

ノートパソコンを立ち上げる。

無料で見られる、犬や猫の動画を呼び出すつもりだったが、

パソコンは、身勝手に色々な広告を、ひかりに押しつけてきた。



『春です、自分を磨くなら今!』

『バカンス、今なら得だらけ』



パソコンには、検索を記憶する機能が入っているため、

その人の嗜好が登録され、興味がありそうなものを、勝手にピックアップする。

ひかりは休みは取れないし、自分を磨くお金もないしと思いながら、

画面をスクロールした。



『みらいず』



「『みらいず』? 何、これ」


ひかりはすぐに意味がわからなかったので、とりあえずクリックをした。


【1-3】



コメント、拍手、ランクポチ、参加をお待ちしてます。★⌒(@^-゜@)v ヨロシク♪

コメント

非公開コメント