1 おかしいけれど、思ったのです! 【1-4】


【1-4】


好きな色という項目には、女は『ピンク』と書いた方が受けがいいだろうと考え、

今まで読んだ本という項目には、『ドストエフスキーの罪と罰』と打ち込んだ。

もちろん実際には読んだこともなければ、触れたこともない。

ひかりの頭の中に、パッと浮かび上がったことだけが、書き込まれる。

その後も『オーガニック』だの、『エゴマ油』だの、

なんとなくよく見えるはずという言葉を入れた。


「昨年出かけた『エーゲ海』の旅行は……って、よし、よし、いいよ、これ」


入力しているうちに、どういう意味があるのか、なぜ入力するのかさえ、

ひかりにとってはどうでもいいものになっていた。

そして『相手に求めるもの』という項目までたどり着く。


「ほぉ……来たね、どんな相手でも探すって言うのだから、
優しくていい人なら……なんて、絶対に書かないよぉだ」


ひかりはそういうと『高学歴、高収入、高身長』と打ち込み、

思い切り赤いボタンを押した。


「よし、勝った!」


もちろん勝ち負けはないのだが、ひかりは満足そうに残りのチューハイを飲む。

そして缶をテーブルに残し、さらにパソコンの電源を入れたまま、

ベッドに潜り込んだ。





次の日、外はもう明るいとハッキリわかる時間、ひかりは左手を動かし、

その指に携帯を取ると、目をこすりながらラインを見た。

昨日、一緒に飲んでいた智恵からだとわかる。



『ひかり、帰れたの?』



1つ先輩の智恵は、ひかりにとって『生活面のコーチ』的存在だった。

仕事も出来て、女性としての魅力もしっかりと持っている。

『帰れたのか』と心配する短い智恵のコメントに、

重たい頭の中から、昨日の飲み会を必死に呼び出そうとする。

視線を下に向けると、脱ぎっぱなしの洋服と、つけっぱなしのパソコンがあった。


「はぁ……」


この状況を見るだけで、ひかりにはなんとなく昨日の時間が想像できた。

気分よく酔っぱらって、服を脱ぎ散らかし、ネットサーフィンをしながら、

寝てしまったのだろうと考える。



『帰れました。今、反省中です』



境界線を越えまいと思うのに、気づくといつもこんなことになっていた。

年齢も今年27になるわけで、新人ですからとは言えない立場なのに、

充実感などどこにもないまま、また日々を重ねている。



『あんた、また脱いじゃったの?』



智恵の返信には『笑』の文字がついていた。

ひかりはすぐに反論しようとするが、いつもの自分を思えば当然だと思い、

照れ笑いにも見えるスタンプを送り返す。

しばらく天井を見ていたが、なんとか体を起こし、まずは部屋の状態を整える。

服をハンガーにかけ、洗濯物を洗濯機に入れ、流しのお皿を洗い出した。





「月曜からじゃないの?」

「あぁ……1週間早く来たんだ。引っ越すから荷物の整理があると思っていたし」

「そうなんだ」


次の日、しっかりと睡眠を取った祥吾は、新聞を読みながら、パンを口に入れた。

その様子をじっと見ている勇也に気づく。


「何……なんかある?」

「ん? いや、うん」


勇也は祥吾から視線を外し、朝食を食べ進めた。

愛美は携帯を取り出すと、気になることがあるのか、何やら指を動かしている。


「エ!」


愛美の声に、祥吾の顔が上がる。


「どうしたの」

「ん? ううん……いいの、いいの」


愛美は祥吾から視線をそらし立ち上がると、リビングの奥にあるソファーに移動する。


「叔母さん、やっぱり俺、叔父さんに会ってくるわ。
こうなっているってこと、伝えないのも……」

「あ、うん、うん……どうぞ、どうぞ」


愛美は携帯の画面を見ながら、何やら指を動かし始める。

昨日は、ここにいることを伝える必要などないと言っていた愛美の、

急に変わったような態度が気になる祥吾だったが、

何が起きているのかなどわからないため、そのままコーヒーを飲んだ。


「親父のところに行くなら、俺も行こうかな。店の相談もあるし」

「じゃぁ、お前から連絡してくれ」

「了解」


勇也は残りを口に入れると、携帯電話をポケットから取りだした。





『カリーナ』



祥吾は、居候をさせてもらうことになった今川家のマンションを出ると、

勇也と一緒に、友則のところに向かった。

店は都内に3店舗あり、どこも順調に経営をしている。

その中でもトップの売り上げを誇るのが、都心の高層ビル内にある店で、

二人は営業の1時間前に到着した。


「おぉ、祥吾」

「お久しぶりです」


友則が指で座れと合図したため、祥吾は空いている椅子に腰掛ける。

勇也は二人の横を通り、コーヒーを入れようとカップを出した。


「引っ越しが出来なくなったって」

「信じられないけどね、実際そうなんです」


祥吾は、流れのままに転がり込んだと、友則に謝罪する。


「そんなことは気にするな。愛美も心強いだろうし。勇也だってな、
昔から兄ちゃんのように慕っていた祥吾なら、問題ないだろう」

「あぁ、親父が家にいるより、よっぽど平和だな」

「あはは……正直だね、お前」


友則は、携帯を見ながら足を組み直す。


「で、女と別れたんだろ、ちょうどいいよ。そこらへんも愛美に頼めばいい」

「いや、いいです……って、叔父さん、勝手に携帯を見たんだろ、全く……」

「携帯は見るものだぞ」


友則は『携帯は食い物ではない』と言いながら笑い出す。


「全然悪いと思っていないな、まぁ、毎度だけど」


祥吾は、今川家の人間と話をするといつもこうなると思いながら軽く頭をかいた。


【1-5】



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