2 どうしてなのかな? 【2-1】

2 どうしてなのかな?


【2-1】


「何よ、ウソって」

「だから……」


ひかりの説明を聞き、智恵と小春の驚きの声が店内に広がっていく。

ひかりは立ち上がると、静かにしてと二人の前に両手を出した。

小春は周りの視線に気づき、あちらこちらに軽く頭を下げる。


「いやいや、ひかり、それはさ……」

「だから私が悪いんです、それはわかってますけど……」


ひかりはそういうと、とにかく今日、『みらいず』の事務所を訪ねて、

全てをノーカウントにしてもらうと宣言する。


「好きな色はピンク、エーゲ海の旅行……」

「オーガニックを愛し、『罪と罰』を読破しただって。いやいや、ひかり、
そこで『罪と罰』はおかしいでしょう。女性で、それ書く?」


小春は『せめてひらがなタイトルにすればよかったのにね』と、

ピントのずれた、アドバイスをする。


「どう考えてもおかしい、おかしいよ、今考えたら。
でも、どうしてそんなこと打ち込んだのかわからない。
酔っぱらってやったことだし……」

「酔ったとはいえ、浮かぶかな……そこで『罪と罰』」


智恵と小春は、ひかりの書いたアンケート内容を振り返り、

顔を見合わすと、我慢していられないと笑い出す。


「もう、二人とも……真剣に考えて」


ひかりはそう言いながらも、笑う気持ちは理解が出来てしまい、一緒に笑い始める。

3人はしばらく、ひかりの失敗談で盛り上がりながら、楽しい昼食を取った。





『みらいず』


智恵たちに話しをした通り、ひかりは仕事を終えてから、

『みらいず』の事務所に向かった。

担当者のところに『今川』と書いてあったので、その人を訪ねるべきだと思い、

まずはインターフォンを鳴らす。

すると、女性の声がしたため、ひかりは『今川さんはいらっしゃいますか』と尋ねた。


『はい、私が今川ですが……』


ひかりはその声を聞き、実は入会をしたものですがと、話し始める。

すると、扉が開き、ひかりはそのまま奥にある小部屋に通された。


「少々、お待ちくださいね」

「はい、すみません」


ひかりはソファーに座り、怪しまれない程度に周りを見回していく。

書類の入っているような棚や、数台のパソコン。

電話もあり、壁には『それなりの証明書』が貼り出されていた。

ひかりは、『みらいず』がきちんと活動されている団体だと言うことに、

まずはほっとする。

これなら、自分が断りを入れた時、怖い顔の人たちが出てきて、

すごみをきかせるようなことにはならないだろうと考えた。

数分後、お茶を持ってきた女性が入ってきたので、ひかりは立ち上がって挨拶をする。


「どうぞ、どうぞ、座ってください」


ひかりは言われる通りに座り、女性も前に座る。


「『みらいず』の世話人をしております、今川愛美と申します」

「あ……浅井ひかりです」


ひかりは名刺を一応受け取ると、今回はすみませんでしたと、すぐに謝った。





「エ……ダメ?」


次の日、仕事の朝礼を終えたひかりは、

これから話しあう、ノートの変更点を書いたファイルを手に持ち、

丸テーブルの椅子に座った。智恵もその前に座り、書類を出す。


「ダメってどういうことよ」

「相手が、会う気になっているって」

「は?」


智恵は自分がウソを書いたことなど、しっかり説明したのかとひかりに迫る。

そこに同じようなファイルを持った雄平が来て、椅子に座った。


「よし、じゃ、始めよう。えっと……まず幅の変更だけれど……」

「ねぇ、ひかり。エーゲ海も、オーガニックもウソだってちゃんと言った?」

「言いました」


仕事に入ろうとしない智恵とひかりの雰囲気に、雄平は両手を目の前でパンとはたく。


「おい、細川も浅井も雑談は後にしろ。仕事……」

「それどころじゃないですよ、山内さん」

「は? それどころじゃない?」


智恵は、雄平に向かって、ひかりがとんでもないことをしたと言い始めた。

ひかりは自分はきちんと謝ったと、雄平に正当性を訴える。


「おい、お前達……」

「向こうが、つまり相手が、私のプロフィールがウソでも、
それはそれでいいって言っているって」


ひかりはそういうと、『どうしたらいいのかわからない』とその場で頭を抱えてしまう。


「ウソでもいいって、それもまたすごいけどね」


智恵は頭を抱えるひかりの前で、腕を組んだ。

雄平は、ひかりと智恵を交互に見る。


「なんの話だよ、これ」

「『見合い』です」

「『見合い』? 誰が……」

「誰とか言う前に、山内さんなら、
見合いの相手がウソばかりをアンケートに書いたとしたら、会う気になります?」


智恵の送り出した言葉に対して、雄平がどう答えるのかと、ひかりは顔を上げる。


「ウソばかりを書いたってことは、その人の中身はわからないわけだろう。
まぁ、普通なら……いや、俺なら? ウソを書いたという段階で嫌だけどね」

「ですよね、普通」


本来、商品であるノートの幅変更について話しあうはずの3人は、

すっかり話題をひかりのことに変えていた。

智恵は、そんな普通ではない態度を取ること自体、

相手もウソをついているところがあるのではと、言い始める。


「ウソ?」

「そうよ、『高学歴、高収入、高身長』でしょう。
そう書けば女はみんな喜ぶと思って、で、実際には全然違うとか……」

「エーッ……それひどくないですか?」

「お前も同じだろうが、浅井」


雄平のツッコミに、『そういえばそうでした』とひかりは頷き返す。


「引っかかってきた相手には、とにかく会っておこうと思っているのよ、きっと」

「あ……そうか」

「何、心当たりあるの?」


智恵の声に、ひかりは『ボタンが……』と言い始める。


「ボタン?」

「そう、そういえば『ボタン』があって、昨日、事務所で言われて気づきました。
申し込みをしてきた人と、積極的に会うか、その前に自分で判定するか選べたらしくて」


『みらいず』の申し込み時に、マッチングされた相手と積極的に会っていくか、

自分なりに写真やアンケート内容を見て、『会う、会わない』の判断を先にするのか、

選べるようになっていたことを話す。


「ひかりは積極的に会うってことにしたの」

「いや、何もしないとそうなるようになっていたから。
気づかないようなところに、そのボタンがあって……ってずるくないですか?」


同意を求めているようなひかりの言葉に、智恵も雄平も揃って首を振った。


【2-2】



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