2 どうしてなのかな? 【2-4】


【2-4】


『銀座』



祥吾はどこに行くのか、何度も愛美に聞いてみたが、

もう少し待ってと言われるだけで、訳がわからない状態のまま、喫茶店に入った。

大事な用事だと思っていたのに、ここまで何も起きていない。


「叔母さん……」

「はい、祥吾、これをよく読んで」


愛美はそこで初めてプリントを取り出し、テーブルの上に置いた。

祥吾は、出されたプリントに自分の写真がついていることに気づく。


「これ、俺?」

「そう」

「そうじゃないでしょう、何これ」


祥吾は『みらいず』という文字と、『登録』という文字に反応する。

愛美は、あと30分なのと、右手の指で3を作り、

計画的犯行を匂わせるようなコメントを送り出した。


「30分って何」

「今日はね、祥吾に『見合い』をして欲しいのよ」


愛美はコンパクトを取り出すと、自分の顔を見始める。

『待ち合わせの店は向かいにある喫茶店』だからと、当たり前のように言った。


「……何言っているの、叔母さん。普通の状態じゃ無いよね、それ」

「あ、えっと、相手の女性はね……」


祥吾は『ちょっと待って』と愛美の顔の前に両手を出し、言葉を止めた。

愛美は悪びれるわけでも無く、『声が大きい』と注意する。


「いや、あのさ」

「理由はどうでもいいの、とにかくもうお相手はそこまで来ているし、
今更なかったことにしましょうなんて、非常識でしょう」

「いやいや、この状態が非常識だって」


祥吾はそういうと、とりあえずプリントを見る。


「年齢と経歴は、まぁ、あ、そうか、叔母さんが打ち込んだ訳ね」

「そうそう、いいでしょう」

「いいでしょうってなんだよ。信じられ……なんだ、この相手への条件って……」


祥吾自身も、これはないでしょうと口にする。


「そうでしょ、だからそう簡単には成り立たないと思っていたの。
それなのに決まっちゃうから驚いて……」


愛美は楽しそうに笑い出す。


「笑うところじゃないって……」

「でも、相手の女性もね、なんだかお酒を飲んで酔っぱらって、
知らないうちに入会していたような人だから、大丈夫、大丈夫」


愛美は、わざわざ事務所まで来てくれたのよと、ひかりのことを口にする。


「酔っぱらって入会? そんな馬鹿な」

「だってそう言っていたもの。アンケートもウソばっかり書いてしまったから、
なかったことにしてくださいって」

「は? だったら、なかったことにすればよかっただろう」


祥吾の指摘に、愛美は冷静な顔で首を横に振る。


「ん?」

「私、今月はチャンス月間なの。実績ポイント3倍なのよ」

「3倍?」

「そう、3倍」


愛美は祥吾の目の前に、もう一度指で3を作る。


「まぁ、とにかく、そんな状態だから、向こうもこのまま続けようとはしていない。
とにかく見合いをしたという実績だけでいいの。
私にとっては、初めてのマッチングなのよ、形にしたいの、3倍なの!」


愛美は、とりあえず会ってもらえばそれでいいからと、祥吾に強く迫る。


「意味がわからないんだけど」

「わかる必要などなし。とにかく時間が無いの、ほら、ちゃんと記憶して、この辺」


愛美には『祥吾の拒絶』など、頭の中に微塵もないようで、

ウエイトレスが横を通ると、アイスティーと明るい声でオーダーをした。





「こちらが、浅井ひかりさん、そしてこちらが最上祥吾さんです」

「最上祥吾です」

「浅井ひかりです」


結局、強引な愛美のことを無視できなかった祥吾は、

相手を待たせるわけには行かないと思い、

待ち合わせ場所にした『喫茶店 アルモンテ』に顔を出した。

4人がけのテーブルにひかりと祥吾が向かい合うように座り、愛美はひかりの横に座る。

祥吾はひかりを見るのも、愛美を見るのも、どこか違う気がして、

視線がなかなか定まらない。

そんな祥吾の態度に、ひかりは、見合いという人生の一大事を迎えているはずなのに、

全然、積極性を感じないと思い、やはり、『工作員』だという考えを強くする。


「こちらの用紙に、それぞれお名前のサインをお願いしますね」


愛美は『ここが大事』とばかりに、『みらいず』の小さな用紙と筆記具を出した。

ひかりはそのサインペンが『KURAU』のライバル、

『サイノ』のものであることに気づく。

祥吾が愛美の顔を見ると、『早く書きなさい』という、圧がかかる表情をする。

部屋に戻ったら暴れてやると思いながら、とりあえず名前を書いた。

ひかりもその後、名前を書き記す。


「それでは、お二人でお話をしてください。
私は、ここから抜けさせていただきますね、どうぞごゆっくり……」


愛美は嬉しそうにサインの用紙を持つと、そのまま二人の前を離れていく。

愛美がいたのはたった5分ほどだった。

そこには、それぞれ違った意味で『ウソをついた』二人だけが残される。

ひかりは目の前に座る祥吾を見た。

着ているスーツも、それなりのものだとすぐにわかるし、

立ち姿を見ても、身長が高いことはよくわかった。

2つの条件が整ったとなると、おそらく3つ目も持っているだろうなと思え、

そんな好条件の人間が、自分の理想とかけ離れた女性と会う時間を作ることなど、

やはりあり得ないと思えてくる。

それでも、ミスをしたのは自分のため、まずは『今回は……』と切り出した。


「本当にすみませんでした。
私自身、色々とあって気持ちが乱れていたのですが、結果的に酔っぱらったまま、
ウソばかり書いてしまったと言うことは間違いなくて……」


ひかりの言葉を聞きながら、祥吾は本当にそんなことをする人間がいるのかと、

驚いていた。急に聞いた話に付き合わされているため、

『もう気にしないでください』など、フォローの台詞を入れることなく、

どこか人ごとのように聞いてしまう。


「ウソってどれくらい……」

「エ……」

「読み直して見て、どれくらい書いたのですか」


ひかりは、『そんなことは気にしない』というようなことを、

メールで返信してきたわりには、えぐるようなことを言うなと思いながらも、

自分が身勝手に書いたアンケートを思い出す。


「性別と、年齢……」


何か正しかったところはあるだろうかと考えるが、

料理は出来ないし、読書も漫画以外ほとんどない。

好きな色は『ピンク』どころか、赤系統の服も、あまり持っていなかった。


「……だけですね。それ以外はウソですから、90%以上かと」

「ほぉ……」


祥吾の返事の仕方が、『あまりにも人ごと』に聞こえ、

ひかりの頭の中で、プツンと何かが切れる音がした。


【2-5】



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