2 どうしてなのかな? 【2-5】


【2-5】


祥吾は届いたコーヒーに砂糖を1杯入れて、かき混ぜ始める。

そこから本格的に質問が来るのか、それとも違う言葉が出るのかと思い、

ひかりは少し待ったが、もともと見合いにやる気が無い祥吾からは何も戻らない。


「あの……」


静かな時間がもどかしくなったひかりは、『工作員』だと思い込んでいる祥吾を見た。


「最上さんは、どうして断ってくれなかったのですか」


ひかりは、正直にウソだと言ったのに、会うことを選んだ意味がわからないと、

祥吾に聞いていく。祥吾はコーヒーを一口飲み、カップを置いた。

ひかりが口に出した言葉の意味はわかっているが、

そもそも自分が起こした行動では無いことに対して、なぜかと聞かれても、

答える台詞が思い浮かばない。


「どうしてなのかな……」


心の中にあった正直なつぶやきが、祥吾の口からそのまま出て行ってしまった。

ひかりは、そのあまりにも『どうでもいいです』という答えに、

『工作員』だとしても、もう少し演技が出来る者がいなかったのかとため息をつく。

それと同時に、この場で長居しをていると、さらにイライラするのでは無いかと思い、

持ってきた紙袋をテーブルの上に置いた。

ドサッという音に、祥吾も顔があがる。


「すみません、とにかく私は最上さんの探されている女性の条件と
かけ離れていますので謝罪させてください。
東京には、お仕事が変わったことで来られたと聞きました。
ですので、初めて食べる味だと思いますので」


ひかりは『ハチーズ』というチーズだと、紙袋の中を説明する。


「『ハチーズ』?」

「はい、忠犬ハチ公の形をしたチーズです」

「いや、いいですよ、こんなものいただけませんから」

「いえ、いただいてください。私が起こしたミスからこんなことになっているので」


ひかりの謝罪に対して、祥吾は口のすぐそばまで、自分も叔母に騙されているから、

お互いに気にするのは辞めましょうと言いそうになったが、

それはまた『みらいず』という団体に対して、迷惑をかけてしまうと思い、

黙るしかなくなってくる。


「本当に無駄な時間とお金を使わせてしまって、すみませんでした」


ひかりは『工作員』に対して、ほんの少し嫌みを混ぜた言葉を贈りながら、

その場で立ち上がる。

何パーセントのウソを書いたのかという問い以外、

ひかりに対して、祥吾は何一つ質問をしてこなかった。

今も、立ち去ろうとしているのに、止める仕草さえ見られない。



『それならば、なぜ会ったのか』



という気持ちが、イライラ度合いを最上級にまで引き上げようとする。


「あの……」

「はい」


興味など最初からなかったのだということで、ほっとしたはずなのに、

興味を一切持たれなかったということに、女として、悔しさもなぜか沸き起こった。


「余計なことだと思いますが、最上さんの求められている条件」

「……はい」


祥吾は、ひかりを見る。


「自他共に認める美人というところですが、
もし、それを私ですねと立候補してくる女性がいるとしたら、
男性には好かれても、おそらく女性からは嫌われる人になりますよ」


ひかりはそういうと、『失礼します』と頭を下げて、祥吾の前から離れていく。

祥吾はテーブルの上に残された紙袋を持ち、『あの……』と声を出すが、

ひかりは振り返らないまま、店を出て行った。

祥吾は仕方なく、また席に座る。



『自他共に認める美人というところですが……』



ひかりの残した言葉が、1分遅れくらいで、祥吾の気持ちに届く。


「ふっ……」


なぜだか、そこから妙におかしくなった。

自分が悪いと謝っていたはずなのに、最後は捨て台詞という展開に、

『妙な人』という思いだけが、祥吾に残される。

謝罪の品物をもらうような立場ではないと思いながらも、紙袋を残すわけにはいかず、

祥吾はそれを持つと、インスタント見合いの会場となった店を出た。





「あはは……いいねぇ、『自分に自信を持つ女は、女には好かれない』か、
最後に残す台詞か? それ」

「全く、叔母さんのせいで、言われなくてもいいことまで言われたってことだよ」


見合い会場から出た祥吾は、とんでもない出来事に疲れ切ってしまい、

そのまま今川家に戻った。仕事が休みの勇也にとんでもないことに巻き込まれたと、

今日の出来事を語っていく。


「いやぁ……叔母さんには参ったよ。
俺のことを勝手に見合いのサイトに登録していたらしい。
知らないところでメールの返事もしているし、土曜日用事があるからって言われて、
世話になるから何か手伝わないとと思って出かけたのに、見合いだぞ」


祥吾は、自分が巻き込まれた『ありえないような、本当の話』をしながらも、

勇也が全然驚いていないことが気になった。

勇也は、祥吾の話に反応するよりも、

持ち帰ってきた『ハチーズ』の袋をのぞき込んでいる。


「おい、勇也」

「何」

「お前さ、もしかして知ってた?」


祥吾の言葉に、勇也は顔を合わせないままで数回頷く。


「は? ウソだろ」

「いやいや、祥吾。お袋にとったらさ、祥吾は期待の星なんだよ。
親父も言ってた、祥吾の持っている条件なら、女はすぐにコロッとくるって」

「どういう親子だ、お前達」


勇也は『まぁ、落ち着いてくれ』と言いながら、祥吾を見る。


「落ち着けるか、この出来事が」


祥吾の怒りには反応せず、勇也は『ハチーズ』の箱を袋から取り出した。


「はい、これはなんですか?」


勇也は祥吾の怒りを、ごまかしてしまおうといきなり質問をする。

祥吾は、見合い相手となった女性が置いていったものだと説明した。


「『ハチーズ』だって。ハチ公の形をしたチーズだとかなんだとか」

「ハチ公? 犬のチーズか」


勇也は『けったいだな』と言いながらも、袋を開けて食べていく。

祥吾は、愛美だけではなく勇也も『見合い』を知っていたという事実を知り、

だんだんと怒りを持ち続けることが、馬鹿らしくなっていく。


「これ……どこで売っているんだろう」

「どうして」

「これ、うまい」


勇也はそういうと、他の味はどうだろうかと包み紙を開け始める。

それまで無関心だった祥吾も、『レストラン』に勤める舌が反応した味に、

興味を持ち、1つだけ開けてみる。


「箱の雰囲気とかはたいしたことがないのにさ、味は本物だ。中身勝負だね」


祥吾は自分の前に座り、謝罪したひかりの顔と、

最後に『捨て台詞』を残した顔を交互に思い出しながら、『ハチーズ』を口に入れた。


【3-1】





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