3 みなさん、ご注目! 【3-1】

3 みなさん、ご注目!


【3-1】


とんでもない見合いが終了した、次の日。

その日は日曜日で、前日、夜遅くに酔って戻ってきた愛美が起きるのを待ち、

祥吾はとにかくすぐに、『みらいず』のデータを削除してくれと迫った。

愛美はわかっているから、あまり大きな声で言わないでと頭を抱え込む。


「ダメだからね、叔母さん。そういう仮病」

「仮病じゃないわよ、昨日はちょっと飲み過ぎたの」

「あんなことをしでかしておいて、よく飲みに行く気になるよな」


愛美はリビングに連れて行かれ、パソコンの前に座らされる。

祥吾は『すぐに取りかかって』と、監視役のように横に座った。


「ねぇ、祥吾。あの後どうなったの? 少しは話をした?」

「何を話せばいいんだよ、俺は昨日30分前に事実を知らされたんだぞ。
それぞれアンケートに答えましたよねなんて、叔母さん言っていたけれど……」

「渡したじゃない、喫茶店で」

「だから、それがウソなんだろ、彼女の」

「そうよ。だからこそ、本当はどういう人なのか、聞けばよかったじゃない」


愛美は『臨機応変』という言葉を知らないのかと、祥吾に迫る。


「叔母さんこそ、『正々堂々』という言葉を知っているのか」


祥吾の返しに、愛美は無言のまま、顔をパソコンに向ける。


「このまま登録しておけばいいのにねぇ。次はウソつきではない人が、
出てくるかもしれないし」

「結婚するつもりがあるならそうするよ。今はないし」

「あら……まだ元彼女に未練があるの?」

「叔母さんには、何一つ言いたくない」


祥吾はどうでもいいからすぐに取りかかれと、愛美をせかす。

そして愛美は祥吾のデータを呼び出すと、『退会します』というボタンをクリックした。

しばらくすると『ご利用ありがとうございました』というメッセージが現れる。


「はい、出来ました」

「……うん」


祥吾は両肩を上下に動かすと、一度大きく息を吐く。


「また寝る」


明日から新しい場所で仕事だからと言うと、祥吾は部屋に消えていった。

愛美は部屋の扉が閉まったのを確認すると、『みらいず』のホームページに戻る。

メニューの場所をクリックし、さらに携帯に控えてある番号を丁寧に打ち込んでいく。



『再登録、ありがとうございます』



愛美は一度退会しても、

『3ヶ月以内』なら何度でも再入会できるというルールを知っていた。

そのため、この見合いが実行され入会がばれてしまったら、

祥吾に絶対退会を迫られると思い、あらかじめ『一度退会のテスト』を行い、

再登録番号を控えておいたのだ。

予想通りの行動を取り、番号をすぐに打ち込むと、また身勝手に入会させる。

そして、前回にはやらなかったことを、一つだけプラスした。

祥吾のデータは、やはり魅力的なのだろう。

再入会をすると、すぐに数名からチェックが入っていることがわかる。


「いいわよ……どんどん来てね。でも、条件はもう少し厳しくするから、
祥吾は見るだけです、見合いはさせませんよ……しばらく」


愛美はそういうと、『データ編集』という画面に入り、何やらまた打ち込み始めた。



週明けの月曜日。

見合い騒動にすっかり疲れてしまったひかりは、

いつもよりも遅れた電車に乗ったため、

買い物に立ち寄るコンビニの前も、ダッシュで通り過ぎた。

なんとかエスカレーターの前に立ち、人混みに紛れることに成功する。


「はぁ……間に合った」

「ひかり、おはよう」

「あ……智恵さん」


同じようにエレベーターを待っていたのは、同僚の智恵だった。

ひかりは少し左に移動する。


「ひかりも電車の事故?」

「いえ、単なる寝坊です。お腹……鳴りそう」

「あらあら……」


二人は降りてきたエレベーターに乗り込み、とりあえず息苦しい数分間を過ごす。

総務部、営業部とだんだん人が少なくなり、『第2企画部』のある7階に到着する頃には、

数名しかいなくなった。


「ねぇ、ひかり。どうだった? 見合い」


智恵は、周りには聞こえないよう、少し小さな声で尋ねた。


「見合いじゃないですよ、あれは儀式です」

「儀式?」


二人はそれぞれエレベーターを降りる。

すれ違う社員に、『おはようございます』と社会人として挨拶をした。


「儀式って何よ」

「最上祥吾さんは確かに来ました。背も高かったし、スーツもいいものを着ていて。
だから、条件はウソではないのだと思うんです。でも、『工作員』だという私の読みは、
大正解でした」

「工作員って、つまりサクラ?」

「そうです。だってそれだけの人が、ウソをついたと宣言している女に、
わざわざ会いますか? しかも、どうして断ってくれなかったのかと聞いたら、
どうしてなのかな……だって。人ごとでしょう」


ひかりは途中からバカにされているような気がして、捨て台詞を残してきたと話す。


「何よ、捨て台詞って」

「最上さんが相手への条件として入力した『自他共に認める美人』ってところ。
もし、自分で自分を美人ですと立候補してくる女がいたら、男性にはもてるけれど、
同性には嫌われますよって」

「言ったの?」

「はい。だって腹が立ったので。私に質問なんて、全然しないし」


ひかりはそういうと、これで終わったと両手をあげた。

智恵が『ひかりらしいね』と言いながら、『第2企画部』の扉を開けると、

月曜というスタートの朝から、先輩の『高坂厚文』が放つ、

いらだつ声が耳に飛び込んでくる。


「なんだよ、それ」

「なんだよって、中途採用だ」


高坂の相手になっていたのは、同期の雄平で、

ひかりと智恵はそれぞれデスクに荷物を置いた。

智恵は隣になる小春に、何があったのかと尋ねる。


「なんだか中途採用の人が来るそうです。山内さんが知っていて、
自分が知らないって、高坂さんが朝から怒って」


小春は『ガミガミ』うるさいですよと両耳を塞ぐ。


「中途採用?」


智恵は、自分たちの前に座る部長の吉川の席を見た。

数日前から、以前はファイルを重ねていたデスクが、

きれいになっているのが、確かに気にはなっていたのだ。


「高坂、とにかくここで吠えても仕方が無いだろう。吉川部長から話がある」


雄平はそう言って高坂をなだめると、とりあえずデスクに戻った。

その前になるひかりは、『誰か来るのか』と雄平に聞いていく。


「『ボルノット』を退社した人が、うちに来るらしい」

「『ボルノット』から?」

「あぁ……俺も細かくは知らないんだ。週末、帰ろうとしたら部長に呼び止められて、
で、中途採用の人が来週来るから、すぐに歓迎会をどうするか考えてくれって言われて」

「歓迎会」


その人物の詳細を話すより、飲み会を気にするのは

お酒が好きな吉川らしいと思いながら、ひかりは荷物を出していく。


「お前、アシスタントな」

「私ですか? どうして」


雄平が何かを言おうとした時、部長の吉川が入ってきた。

その後ろに、人が続くのがわかり、ひかりは自然と顔を見る。


「ゲ!」


突然飛び出た驚きの声に、雄平は『何が起きたのか』とひかりを見た。


【3-2】



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