3 みなさん、ご注目! 【3-2】


【3-2】


ひかりは吉川部長から顔をそらし、体ごと斜めを向く。


「おはよう、ちょっと席についてくれ」


朝からぼやいた高坂も、立ち話をしていた智恵や小春も、

そしてひかりに何かを言おうとした雄平も、とりあえず席に着く。


「ウソ……ウソ……どういうことなのよ」


ひかりは心臓が飛び出そうになるくらい驚きながら、それでも人の隙間から、

そっと前を見る。土曜は2日前なのだから、顔を間違えるわけもなかった。


「今日から、この『第2企画部』に参加してもらうことになった最上君だ」


『最上』という名前を聞いて、智恵はすぐにひかりを見た。

ひかりは、体を斜めにして、明らかに動揺しているのがわかる。


「おはようございます。今回、『KURAU』の中途採用試験を受け、
こちらに配属されました最上祥吾です。前職は『ボルノット』にいました」


『ボルノット』というライバル会社の名前に、企画部内がざわつき出す。

名前も同じのため、智恵はやはりこの人がひかりの相手だったと、

もう一度しっかり顔を見た。


「最上君は『ボルノット』で開発のリーダーを務めていた。
もちろん、うちに慣れてもらうことが先だけれど、みんなと一緒に、
商品をよくするアイデアを、出してもらえるはずだ……」


思考回路を閉じようと奮闘するひかりには、

気持ちよく話す吉川の声など、全く入ってこなかった。

ただ、現実逃避も数秒しかもたず、受け入れないとならない事実だけがここにある。

自分が『工作員』だと思っていた人が、実はそうではなく、

『上司』扱いしないとならない存在だった。


「最上君には、これから全企画部や営業に、挨拶に回ってもらうことになるので、
とりあえず全員、今日は、立ち上がって名前だけ言ってくれ」


吉川はそういうと、右からと指名する。


「あぁ……もう、信じられない」


ひかりはあっという間に自分の番が来ると思いながら、顔を下に向け続ける。


「おい……浅井」


雄平はひかりの様子がおかしいことに気づいていたため、デスクを軽く叩いた。

ひかりは気づかれるので辞めてくださいという意味なのか、手で払うような仕草をする。

雄平は『心配してやっているのに』と思いながら、前を向く。


「高坂厚文です」


高坂は明らかに『気に入らないですが』という表情で祥吾を見る。

祥吾も、その不満そうな態度はすぐわかったが、

色々な人間がいるのが職場で、

自分の入社が拍手喝采にならないことくらいはわかっていたので、

特に表情を変えることなく、受け入れていく。


「細川智恵です」


智恵は、祥吾の顔をしっかりと見た。

ひかりが言っていたように、確かにスーツ姿もさまになっているし、

高身長であることも間違いない。さらに前職が『ボルノット』なら、

高収入もウソじゃないことになる。


「島津小春です」


小春は軽く頭を下げると、椅子に座った。

自己紹介は、右から左へと流れてくる。


「山内雄平です」


雄平が名前を名乗り、椅子に座る。

順番的には自分だと思ったひかりは、覚悟を決めたように立ち上がった。


「浅井……ひかりです」


互いに声には出さなかったものの、驚きはマックス状態になる。

祥吾の表情が変わったことに気づいた智恵は、『ビンゴ』と心の中で叫んだ。





「エ! そうだったの?」


事情を知らなかった小春は、

ランチタイムにひかりの見合い相手が祥吾だったことを聞き、

自分のことではないのに慌て始める。

先に見抜いたと思っている智恵は、こんなこともあるんだねと余裕の笑みを見せた。

ひかりは二人の顔を交互に見た後、うなだれる。


「智恵さん、あ、もうほら、笑ったらダメです。笑うところではないですよ、
ねぇ、ひかり」

「いやいや、小春、ここは笑った方がいいと思うけれど、どう思う? ひかり」


智恵は、『工作員ではなかったね』と、ひかりを見る。


「こんなことウソだ……絶対におかしいもん」


ひかりは、隠れてこっそり『アルバイト』でもしているのではないかと、

祥吾のことを疑った。智恵は、それはありえないよと反論する。


「あり得ない?」

「そう。最上さんは前職が『ボルノット』の開発リーダーだったって、
吉川部長が言っていたでしょう。その裏でお見合いサイトの工作員だなんて効率悪いよ。
『ボルノット』の本社福岡だよ。わざわざ東京まで来るの?」


智恵は、こういう現実なのだから、ひかりの勘違いだよと声をかける。


「まぁ、そうだよね、冷静に考えたら」


小春も『私もそう思う』とひかりを見た。

ひかりは二人に責められている気がして、さらに気分が重くなる。


「だとしたら、本当に見合いだと思って来たつもりなら失礼だよね。
こっちに何も質問してこなかったし。会おうと思ったのなら、
ちょっとくらい何か聞けば良かったのにさ」


ひかりはそういうと、フォークのナフキンを取る。


「何それ、本当はあれこれ質問されたかったの? ひかり」


小春は『それが哀しかったのか』と付け加える。


「別に……」


ひかりは、気持ちを切り替えるつもりで、『さぁ、食べよう』と声を出した。


【3-3】



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