3 みなさん、ご注目! 【3-3】


【3-3】


ひかりが突然の再会に驚いたのと同じように、祥吾自身も驚いていた。

土曜の『見合いの日』。

ひかりは、自分が書いたアンケートは性別と年齢以外、全てウソだと話していたが、

『KURAU』は文具メーカーとして一流企業と言えるし、

何しろ第1から第5まである企画部は、商品を作り出す会社の中心であるため、

それなりの学歴もあるのだとわかる。

個人データだと思い、愛美から渡された紙をそこら辺のゴミ箱に捨てず、

持ち帰っていた祥吾は、あらためてひかりのアンケート内容を確認した。

好きな色はピンク、読んだ本には『罪と罰』。

昨年旅行した『エーゲ海』では、異国の地に立ち、自分を見つめ直したことなど、

読み進めていく。


「確かにこのあたりはウソっぽいな」


見合いの日の印象からしても、今読んでいた内容は確かにウソのような気がしたが、

再会したことで、別の疑問が湧き上がってくる。

リビングで読んでいた紙を、後ろから勇也に取り上げられた。


「あれ? おやおや。何を真剣に見ているのかと思えば、
これは『見合い相手』のデータだよね。
なんだよ、祥吾。お袋にはめられたようなことを言っていたのに、
実は興味持ったのか……」

「おい、返せ」

「返すよ、返すけど」

「会ったんだ、今日」

「……は? どこで」

「俺が入った『KURAU』の『第2企画部』……つまり俺の新しい職場に彼女がいた」


勇也は用紙を両手で持つと、『マジかよ』と驚きの声をあげた。

祥吾はその用紙を奪い取ると、電話の横に立ててあるケースからハサミを取り出し、

紙を小さく切り始める。


「驚いたよ、まぁ、向こうも驚いていた。まさか再会するとはって顔で」

「へぇ……」


勇也は切り刻まれていくひかりのデータを見ながら、名前の部分だけを指で押さえる。


「祥吾……」

「何だよ」

「意外にこれが運命かもしれないぞ」


勇也はそういうと祥吾を見る。


「運命?」

「そうだよ、この『ハチ』」


勇也はひかりのことを、『ハチーズ』のイメージから『ハチ』と呼んだ。

祥吾は『浅井さんだ』と訂正する。


「『ハチ』と祥吾は、こうして出会う運命だったのかもしれないだろ」


勇也はおもしろくなりそうだよなと、祥吾を見る。


「勇也。お前、叔母さんのした詐欺行為を正当化するな。何が運命だ、
言っておくけれど彼女の中に、そういう運命? とやらを感じる部分は、俺にないから」


祥吾は切り刻んだデータの紙を手でまとめると、そのままゴミ箱に入れる。


「ただでさえ、妙なポジションにされそうなのに、
さらに仕事がやりにくいなと思っただけだ」


そういうと部屋の中に消えていく。

勇也は指で押さえたひかりの名前に、軽く息をかける。

その小さな紙片は、祥吾が座っていた場所に、ふわっと落ちた。





「よし、それじゃこれでまとめよう」

「じゃ、入力してデータ出します」

「おぉ」


次の日、検討中のデータ結果を出し、雄平と智恵はファイルをしまい出した。

朝から浮かない顔をしているのは、ひかりだけになる。


「浅井」

「……はい」

「歓迎会、『たきのや』にするから、回覧板作ってくれ」

「……はい」


ひかりは、営業所などに吉川と出かけている祥吾の席を見た。

配置からしてどう考えても、自分より立場は上になる。


「歓迎会、出ていいんですかね、私」


ひかりのつぶやきに、雄平と智恵は顔を見合わせる。


「仕方が無いだろうが、もう終わったことだし」


雄平は智恵から見合いの相手が祥吾だったことを聞き、驚きの声をあげたが、

ひかりの落ち込む姿を見て、そう励まそうとする。


「最上さんも大人だ、お前がウソを書いたくらいのこと、割り切るよ」

「違います……」

「違う?」

「はい、私、言ったんですよ、捨て台詞」

「捨て台詞?」


雄平は隣にいる智恵を見る。


「最上さん、結構女性に対してきつい条件を出していたみたいなんです。
才色兼備、自他共に認める美人……とか、で、ひかりは見合いの日、
最上さんを工作員だと思い込んでいたので、帰り間際に、あなたの条件を、
つまり、自分で自分が美人だと名乗ってくる女は、男には受けがいいけれど、
女からは嫌われますよと……」

「ほぉ……」

「あぁ、もう、仕事辞めたい……いや、ダメ」


ひかりは幼い頃からの憧れで入った会社なのだからと、瞬間的に発言を撤回する。


「女から嫌われるか……。まぁ、そういう傾向は確かにある気はするが……」

「ですよね、自分で自分を美人ですと言える女って、性格絶対に悪いって」


ひかりは、よくタレントの話とかで、聞きますよねと雄平に向かって、

さらに同意を求めていく。


「お前も、自分のミスを棚にあげて、よく言ったもんだな」

「……だって」


雄平はだったら余計に歓迎会だと、ひかりに声をかけた。


「最上さんにわかってもらえばいいだろう。見合い相手ではなくて、
これからはチームになるわけだから。仕事でしっかり対応すれば、
イメージ変えてくれるよ」


雄平は回覧板頼むぞと言いながら、席を立つ。

ミニ会議用のテーブルには、落ち込むひかりと智恵だけが残された。


「嫌だな、もう」


ひかりはペンの先を、出したり入れたり、何度も同じ動作を繰り返した。

カチカチという音が、同じリズムで届く。


「最上さんって『慶西大学』の大学院まで卒業して、『ボルノット』に入社したらしいよ。
2年目で社長賞だって」


ひかりは『本当ですか?』と智恵を見る。


「昨日、吉川部長に聞いたの。どういう経歴の方ですかって」

「そういうところ、智恵さん早い」


ひかりはエリートと言える祥吾自身に、それならばと何度か頷く。


「2年目で社長賞か。それだけのことをしてきた人だもの、
そりゃ、パートナーにも厳しいはずだ。美人であり、料理も出来て、
でも男性をきちんと立てるかぁ……。料理は全然出来ないし、酔ってウソを書くし、
男性を立てようだなんて、全然考えたこともない私とは……うん、真逆だわ」


智恵は『料理、そこまでだっけ』とひかりを見る。


「はい、ほぼ出来ません。一人暮らしをする前に母と約束したんです。
東京に出ても、絶対に街で料理をしましょうという『テレビ番組』だけは
出ないことって……」

「何それ」


智恵は、大丈夫だよとひかりに声をかける。


「ひかりはやらないだけ。料理はやれば出来るから」


智恵は、これからそういう気持ちになればいいじゃないとひかりを見る。


「それは料理も出来て、仕事も出来る智恵さんだから言えるのです」


ひかりはテーブルにファイルをトントンとさせ、揃えていく。


「そんなことはないって。今回の見合いはトラブったけれど、
これからもひかりには出会いがあるし、
料理が気になるのならここから初めればいいでしょう。
お酒もちょっと気にするようにしたらきっと、次こそいい出会いがあるって」


智恵は、そういうとひかりの肩を叩いた。


「お酒の量か……そうですよね」

「そうそう」


智恵は『境界線』に気をつければねと軽く笑う。


「はぁ……。まぁ、歓迎会でアシスタントすれば、飲まなくていいだろうし。
とにかくマイナスをゼロにしないと。仕事がやりにくい」


ひかりは『頑張ります』と智恵を見ながら、ひとりで声を出した。

智恵も『それこそひかりだよ』と声をかける。

覚悟を決めたひかりが回覧板を作り、祥吾の歓迎会をするのでと、

『第2企画部』12人に回したところ、流れなど全く考えず、

思い切りバツを出してきたものが一人存在した。


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