4 この間って何? 【4-2】


【4-2】


「酒で失敗して見合いの日に謝ってきたのに、また酒でそんなことしているんだ。
『ハチ』は懲りない人なんだな」


勇也は、普通、おとなしくしているでしょうと笑い出す。


「いや……」

「ん?」

「あれは酔っぱらったからしたことじゃないよ。言い合いが始まりそうになって、
このままだと、空気がおかしくなるのを断ち切ったんだ」


祥吾は、ひかりの動物ものまねが出てこなかったら、

もっと険悪だったかもと、振り返る。


「一つの会だと言っても、時間が経ってくるとテーブルのあちこちで
小さな輪が出来るだろ。それを彼女のものまねで一気に一つにした。
もちろん言い合いもなくなったし、笑い声があちこちから出たし……」

「ふーん……」

「強い言葉で強制したわけではないし、誰かを悪者にしたわけでもない。
流れる空気を、自然とかき回した」


勇也は、祥吾のどこか寂しげな表情に、言葉が出なくなる。


「俺に……あれが出来たらな」


勇也は、『ハチ』に対してのイメージが、

祥吾の中で少し変わったのかとからかいたくなったが、

そういう雰囲気に思えず、あえて黙ることにする。

勇也から何も戻らないことに気づいた祥吾は、話題を変えた方がいい気がして、

もう一度タオルで髪を拭く。


「そういえば、叔母さん見ないな、この2日」

「あぁ、旅行に行った」

「旅行?」

「そう、親父と、ゆったり京都だそうで」


勇也はそういうと、また計算機で数字を弾き始める。


「別れる理由なんて、ないとしか思えないけれど……」

「わからないよ、あの夫婦……いや、元夫婦は」


勇也はそこから伝票の数字を追いかけ始め、祥吾はそばに置いてあった雑誌を取ると、

ペラペラとめくりだした。





週末が終わり、また新しい月曜日がやってきた。

ひかりは電車に乗り、いつものコンビニに入る。

コーヒーとパンを買うと、その袋を軽く揺らしながら、ビルの入り口を通った。

エレベーター前に立つと、乗る順番を待ち、

7階に到着するとまっすぐに歩き、そのまま『第2企画部』の扉を開けた。


「おはようございます」

「あ……おはようございます」


いきなり顔を合わせたのが祥吾だったため、ひかりは慌ててしまう。

朝から買い物をしたビニール袋を持っていても、

特に責められることはないはずなのだが、

両手を後ろに隠すようにすると、とりあえず頭を下げ、自分の場所に向かう。


「おい、浅井、会議室」

「エ? あ……はい」


雄平にそう言われ、ひかりは朝食用に買い込んだ袋をテーブルに置き、

すぐに仕事用のファイルを手に持った。

デスクの中から、その他のものも出していく。


「会議室で何か」

「行けばわかるだろう」

「まぁ、そうですけれど。ねぇ、山内さん」


ひかりが呼び止めたので、雄平は一度足を止める。


「何だよ」

「うちって通勤前に買い物をしてきても、違反じゃ無いですよね」

「なんだよそれ、今聞くことか」


雄平は突然飛び出した質問に、『わけがわからない』という顔をする。


「うわ……週明け月曜の朝から機嫌悪い。
山内さん、もしや釣りに行って、竿でも折れました?」


ひかりは『やつあたり反対』と言いながら、雄平の後をついていく。

『KURAU』には第1から第5まで5つの企画部が存在する。

文房具だけではなく、今やオフィス全体を考える総合メーカーのため、

企画部もそれぞれ分野別に細かく設定されていた。

筆記具やノートなど、身近な文房具と言える企画部が、

ひかりたちのいる『第2企画部』で、仕事はそれぞれのデスクがある場所の奥に、

小さなテーブルがいくつかあって、そこにコーヒーなどを持ち寄り、

顔を合わせるやり方で進めている。簡単な会議は企画部内で行うことが多いが、

それぞれの『企画部』とは別に、全体が予約を取り利用できる大きな会議室が、

7階にあった。

そこには映像なども映すことが出来、専門の机が完備されている。

そこに集まって話をするのは、年に数回しか無いため、

ひかりはこれから何が起きるのかと、少し心配になった。

智恵や小春はすでに中に入っている。

ひかりはおそらく祥吾が座るだろうと思える場所から、一番離れたところに座った。

それから数分後、部長になる吉川が立ち上がり、挨拶をする。

そして、次に祥吾が立ち上がった。

祥吾は、テーブルの前側に立ち、自分の前に座っているメンバーの顔をゆっくり見る。

12人の名前と顔は、自己紹介と歓迎会、そして部長の吉川からの情報で、

ほぼ問題なく覚えることが出来ている。

だから、普通に踏み出せばいいはずなのだが、それぞれ程度には差があるものの、

『何を言うのか、言われるのか』という、表情ばかりが並んでいるように見えた。

祥吾は両手を握りしめ、少し呼吸を整えるようにすると、軽く頭を下げる。


「おはようございます。週末はありがとうございました。
先週から『KURAU』に入り、先に色々と見学させていただく時間があったため、
みなさんと仕事で話をするのは、今日が初めてになります」


祥吾は、部長の吉川から、それぞれのグループがどういう仕事を受けているのか、

一覧表をもらい、チェックしてきたこと、

自分なりにアドバイス出来る部分がないかを考え、まとめてきたことなど、

話を進めていく。

『第2企画部』は12名が存在するが、全員で一つのことを考えているわけではなく、

そこからさらにチーム分けをし、抱えている課題を数名で取り組み、

それを発表し考えるというパターンを取っていた。


「まず、『スライドペン』ですが……」


『ボルノット』というライバル会社で、開発のリーダーとなった実績もあり、

ある技術では自分たちよりも進んでいる会社から来た男が、

いったいどういうことを話すのかと、メンバー達は注目する。

祥吾は時にプリントを使い、そしてボードに細かい解説などもつけながら、

15分程度、話し続けた。





「すごかった……ですよね」


その日の昼休み、智恵と小春は、いつもの店に入りパスタランチを注文した。

小春は一言話すと、お冷やに口を付ける。


「『ボルノット』って、究極の実力主義だと聞いたことがあったから、
リーダーだった最上さんは、どれだけガンガン言ってくるのかと思っていたのに
なんだろう、思っていたよりもこう……遠慮がちと言うか、提案系だったような……」


小春はそう言いながら、お手拭きを取る。


「話してくれている内容は、さすがだなと思えたし、そういう切り方なんだ、
そういう考えもあるのかって。でもそれなら、
こっちに『取り組んでください』と来るのかと思ったのに、
考えてみてくださいでしたしね。高坂さんも首を傾げてました、
イメージが先行しすぎていたのかもって」


小春は、それでも提案してきたのだから、やった方がいいですよねと智恵に聞く。


「うん……」


智恵の返事が、どこか上の空な気がして、小春は手を顔の前に出し左右に動かした。

智恵は何をしているのと言う顔で、小春を見る。


「智恵さん、どうかしました? なんだか」

「いや、うん。小春の言うことはわかるよ。でも……うん、私はね、
私個人としては、ちょっとガッカリしたというか……」

「ガッカリ? エ、誰に? あ、いや、最上さんってことですか?」

「うん……」


小春は『どうして』と聞き返す。


「会議室に集合までして、最上さんが発表することになったから、
驚くくらいの意見を出して、私たちを奮い立たせてくれるタイプかと思っていたのよ。
だって、『ボルノット』で開発リーダーだよ、社長賞だよ」

「はい、確かに私も……」

「そう、だから高坂さんも、嫌だとか言いながらも、
来るなら来いと思っていたところもあって、逆に困ったんじゃないかな」

「困った……」


小春は、そうだろうかと首を傾げる。


「それとも……このつかみどころのなさが、挑戦状とか?」


智恵はそういうと、出されたお手拭きで、軽く手を拭いた。


【4-3】



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