4 この間って何? 【4-3】


【4-3】


『慶西大学』

午前中の会議を終えた祥吾は、恩師に会うため母校への道を歩いていた。

ここに来るのは、数年ぶりになる。

駅から大学までの距離が変わることは無いが、

周りの店はいくつか新しいものに変わっているし、

道路にもレンガ作りが採用されて、どこかおしゃれな雰囲気になっている。

自転車で通り過ぎる学生がいたり、数名で歩道を埋めるように歩くものもいて、

祥吾はその流れに逆らうように進みながら、懐かしい学び舎を見た。

春になり、新入生が入ってきたからなのか、掲示板には『サークルのお誘い』が、

あれこれポスターになって貼り出されている。

祥吾の前を、髪をなびかせた女子大生が、何やら楽しそうに話しながら歩いて行った。


『先輩……』


懐かしい声がどこかから響く気がして、祥吾は空を見た。

大学で勉強をした後、『ボルノット』に希望通り就職し、

アイデアを出したことで、それが『社長賞』へとつながった。

自分の意見を、認めてもらえた嬉しさはもちろんあったが、

それよりも一緒に仕事をするメンバーと、

『同じ目線』でさらにいいものを目指し、仕事をするつもりだったのに、

あっという間の社長賞という出来事で、祥吾を『ライバル』という目でしか、

見られなくなる人が増えてしまう。


『開発部 リーダーポジション』


反抗的にわざと話し合いに出席する時間をずらす者が出たり、

隠れてアイデアを出し合ったりと、祥吾がリーダーとは名ばかりな状態が数ヶ月続いた。

それでも、祥吾自身に実力があり、それを社内も求めていたため、

外側から見ると、バランスだけは保たれていた。

元々、『自分だけ主義』ではないこともあり、

どこかで下働き的なことをやることになっても、

全体が収まるのならと思っていた時、完全なる裏切りが発覚する。



『あなたがいなくても、関係ないですよ』



女子学生達の笑い声が聞こえ、祥吾は現実に戻る。

ここへ来た目的を思いだし、また進み始めた。



教授室は奥まで進み、噴水の横を通ると近かったと思いながら歩いて行くと、

曲がり角から女性が一人現れ、前を横切った。

学生だろうか、それとも事務担当の職員だろうか、

一歩ずつ噴水に近づきながら考えていると、

その女性の姿を、自分がどこかで見たことがあったことに気づく。

祥吾がその存在を確認しようと少し早歩きになり、横を向くと、

ファイルを開き、ベンチに座っているひかりが目に入った。

当たり前のように座っているひかりに、祥吾は近づいていく。

人の気配に気づいたひかりも顔を上げた。

ひかりと祥吾は、思いがけない場所で会ったという出来事に、

互いの一言目が数秒間遅れてしまう。


「浅井さん、うちの卒業生なんだ」


祥吾の出した言葉に対して、

ひかりは2秒後くらいした後、『いえいえ』と両手を振った。


「違います、とんでもないですよ、『慶西』なんて出ていませんから」


ひかりは、今日は購買に来ただけだと言いながら、

まとめていたファイルを祥吾から見えるようにする。


「購買に」

「はい。3ヶ月に一度くらい、色々と教えてもらいに来ています。
文房具を買う学生に、使い心地を聞いたり、
そうそう、こういうものがあったらいいなというアイデアを、出してもらったり」


ひかりはアンケート用紙をファイルから取り出すと、『見てみますか』と前に出す。

祥吾はそれを受け取り、軽く中身を見た。

いつも買う文房具を決めているかなど、簡単な質問がいくつかある。

そして、『教授の話を録音しておいて、それをノートに印刷出来るようなペン』だとか、

『友達の書いた内容を記憶して、書き写せるもの』など、

ずいぶん都合がいいなと思うアイデアが書き記されていた。


「これを参考に?」

「ずいぶん身勝手なことを書くなと、今、そう思っていませんか?」


ひかりは祥吾の反応を聞き、そう尋ねた。

祥吾は『うん』と素直に認める。


「ですよね。本当に学生はわがままです。もちろん、ふざけたような内容を、
そのままを使うことはしませんが、学生がどういうものを求めているのか、
何を基準に選んでいるのか、それを聞くことも出来ますし、
値段も、考えることが出来る気がして……」

「値段」

「はい。私たちが『どうだ』と思って出したものでも、必要ないなとか、
そこまでいらないなと思われたら、認められないままになりますしね」


ひかりは、どこまで使えるかどうかわからないですが、

こうしてあれこれ考えているのが楽しくてと、笑顔になる。


「あ、そうだ、先日は失礼しました」


ひかりは立ち上がり、祥吾に頭を下げた。

祥吾は、ひかりがなぜ謝るのかわからずに、どう反応していいのか考える。


「この間って何?」

「エ……忘れたのですか」


ひかりは、『それなら謝らなければよかった』と言いながら、冗談ですと笑う。


「私、あの日、あの……見合いの日です。
最上さんが『みらいず』の工作員だと思っていたので、
最後に失礼な台詞をつけましたよね」

「工作員? 俺が?」

「そうですよ。だっておかしいと思うじゃないですか。
アンケートには酔っぱらってウソを書いたから、
見合いなどなかったことにしてくださいと、私の方が何度も連絡したのに、
いや、大丈夫ですと返事をよこすばかりで」


ひかりの話を聞きながら、祥吾は自分自身も謝るべきことがあったことを思い出した。

そもそも、その返事をしていたのも自分ではないし、

叔母と自分が絡んだとなれば、組織的とも言えなくない。

話が途切れたらと思い、とりあえずひかりの言葉を聞き続ける。


「もしも、『みらいず』側の工作員でないとしたら……
これは、女性とお付き合いをすることに、相当飢えた男だと分析したりして……」


ひかりは企画室のメンバーが揃う場所ではなく、

さらに祥吾と自分しかわからない話題だったため、

構えることなく、言葉を送り出すことが出来た。

ひかりの、お酒ではないもう一つの境界線、『話し好き』という枠を、

軽く飛び越える。


「飢えた男……」


祥吾は、普通なら言いにくそうなことを『ポンポン』と送り出し、

あの出来事を分析するひかりの感覚が面白く思え、

自分が謝るということを、忘れてしまう。


「あ、そうだ、最上さんがそうだと言っているわけではないですからね。
勘違いしないでください」


慌てるようなひかりのフォローに、祥吾は軽く頷いた。


【4-4】



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