4 この間って何? 【4-4】


【4-4】


「そんなあれこれを考えながら喫茶店で待っていたら、現れたのは最上さんで、
身長もちゃんとあるし、スーツもいいものだなと思えたし、となると、
残りの学歴もおそらく間違いないと思いました。あぁ、これは、
『飢えた男説』は流れ、『工作員説』だと確信して」


ひかりはそこまで言うと、さらに笑い出す。


「今度は何?」


祥吾は、自分で発言しているのに、どうして急に笑い出すのかわからずに、

そう聞いてしまう。


「いえ、あはは……私何を言っているんですかね。
そもそも自分があんなことをしていたのに、人のことあれこれ言って。
結局、最上さんは『工作員』でもなかったし」


ひかりは『とにかくすみませんでした』ともう一度謝罪する。


「あれはなかったことにしてください。ほら、自分で美人だと認めるような女性は、
男性には好かれても、女性には嫌われるという……あの……」

「あぁ……」


祥吾は、最後に投げかけられた言葉を思い出し、納得するように頷いていく。


「酔っぱらって90%のウソをつくような私が言うことですから、
笑ってくれたらそれで……」


ひかりはそこまで言うと『でも!』と何かを断ち切るように声を出す。

祥吾は、今度は何だとまた身構える。


「でも、仕事は一生懸命にやります。いや、やる気だけは人一倍あります。
文房具が大好きですし、なんせ、『須美川の奇跡』ですから」

「『須美川の奇跡』?」


祥吾が『それは……』と切り返そうとした時、上の方から『最上』と声がした。

祥吾は顔を上に向ける。


「おい、早く上がってこい。コーヒーが入るから」


祥吾が尋ねようとしていた

『慶西大学教授』の『佐竹小五郎』が窓から顔を出し、手招きした。





「すみません、私までお邪魔して」

「いやいや、君は見たことがあると思っていてね、
今、最上と話をしていたのを聞いて、思い出したよ」


佐竹は、購買のベテランさんたちにも、時々コーヒーを入れてあげているのだと、

説明する。


「はい、聞いたことがあります。佐竹教授は科学的に考えて、コーヒーを入れていると」

「お……いいね。そうそう、科学的だよ。温度、時間、それを計算式にかけて……」

「本当にですか?」

「いやいや、適当だ」


佐竹はそういうと、もうすぐだからとひかりに声をかける。


「ありがとうございます」


明るく受け答えをするひかりの隣に座りながら、

祥吾は自分が佐竹を訪ねてきているはずなのに、

話が、自分からずれていることを不思議に思いながら前を向く。


「よし、いい香りだ」

「本当だ」


ひかりは両手を広げて、息を吸い込んでいく。


「はぁ……」


隣にいる祥吾に、その広げた手がぶつかりそうになったので、

何気なく体を少しずらした。

佐竹が人数分のコーヒーを入れているのを見たひかりは、すぐに立ち上がり、

それをそれぞれの前に置く。


「どうも」

「いいえ」


こうなると、どっちが客だか、予定外の人間かわからなくなる。


「最上」

「はい」

「どうだ、東京での生活は」

「久しぶりなので、まだ……あ、そうなんです。入ろうとしていたマンションが、
違法建築だと言うことが判明して、急遽入れなくなりました」

「違法? どういうことだ」

「施工業者が、数ヶ月前に色々と調べられたらしくて、そこから広がったようです」


祥吾は、まさかと思っていたのでと話す。


「でも、東京には親戚がいまして、部屋が一部屋空いているので、
とりあえず居候させてもらっています。父の妹が……」


愛美たちの話をしようとして、祥吾は『見合い』のことをまた思い出した。

隣に座るひかりに謝罪しなければと思うものの、

佐竹に聞かせる話でもない気がして、そこで会話が止まる。


「平成には大きな地震がいくつもあったからな、建築関係も厳しい。
まぁ、命がかかるのだから、当然なのだが」


佐竹はブラックコーヒーを飲み始める。

視線は、黙ったまでカップを持つひかりに向かう。


「お嬢さん、どうですか」


佐竹は、ひかりに声をかける。


「お嬢さん? あはは……何を言われるのやら。
おかしくて吹き出すから辞めてください。浅井です、浅井ひかりです。
とても美味しいです」


ひかりはそれだけを言うと、隣の祥吾を見た。

祥吾の視線は、ひかりではなく佐竹に向いている。

落ち着いて考えてみると、祥吾がここにいるのはここに来る理由があるわけで、

ひかりは余計な自分が、ゆっくりと飲んでいるわけにはいかないなと、

ペースを上げていく。


「『KURAU』はどうだ」


佐竹は『ボルノット』とはまた違うだろうと、祥吾に聞いた。

祥吾は、横にひかりがいるため、『そうですね』と当たり障りのない言葉だけを返す。


「まぁ、『ボルノット』では、お前の良さがわかってもらえなかったとしても、
『KURAU』に入り直して、リセットしたんだ。1からスタートが出来る。
立ち止まった反省点を生かして、1歩前にな」


ひかりはコーヒーを飲みながら、佐竹の言葉を聞き続ける。


「それなのに、励ましてもらうはずの立花と別れたって言うのは……」

「は?」


佐竹が唯のことを口にしたので、祥吾は慌ててしまった。

隣にいるひかりは聞かないふりをしているが、もちろんしっかり聞こえてしまう。


「いや、教授」


今ここで話さなくてもという意味で、祥吾は両手を出そうとするが、

佐竹の視線はそこからずれてしまう。


「残る立花のことを考えてかもしれないが、あいつからも連絡があったよ。
知らないうちに、考え方がズレていたのかもしれないって」


祥吾の元彼女、『立花唯』は、同じ『慶西大学』の3年後輩だった。

ここにいる佐竹にしてみると、二人とも教え子という共通点があり、

唯は祥吾を追いかけるように、『ボルノット』に就職した。


「少し時間をおけば……」

「あいつの……期待に応えられるような男ではなかったんです」


祥吾の言葉を聞きながらも、どんどんプライベートに話が進むことを感じ、

なんとかここを早く出なければと、ひかりは必死にコーヒーを飲み干した。


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