5 足りないところが多すぎる! 【5-1】

5 足りないところが多すぎる!


【5-1】


祥吾よりも先に戻ってきたひかりは、筆記具とアンケートを取り出した後、

急に慌てたようにバッグの中を探り始めた。

雄平はその様子をチラッと見た後、小春に近づいていく。


「島津、ちょっといいか」

「あ、はい」


小春は、自分のデータを持ち、雄平に続いた。

席の後ろにある、丸いテーブルに向かい合って座る。


「これがデータです」

「うん……」


小春は自分の前にある、雄平のうつむいた表情を見ながら、

落ち着くために何度も呼吸を繰り返した。

すると、少しだけ雄平の顔が上に向く。

小春は自分に何か言ってくれるのかと思い、その視線の先を探ろうとするが、

その前に雄平が答えを出した。


「おい、浅井。さっきから何してんだ、お前」

「無いんです」


雄平が気にしていたのは、バッグの中から何かを探しているひかりだった。

小春はその視線を追うように、ひかりを見る。


「……ったく」


雄平は席を立ち、ひかりの前に立つ。


「何を探しているんだ」

「ノートです」

「ノート?」

「はい……おかしいな、きちんと入れていたはずなのに……」


ひかりは、自分の行動を最初から振り返ることにした。

朝、コンビニで買ってきた袋を置いたこと、でもその中に入れた覚えはないこと、

その後の会議には出席したが、そこにも持ち出していないと考える。


「商品改良のデータとかか?」

「違います……私のお守りです」


ひかりの個人的なものだとわかり、雄平は『あ、そうか』と言うと、

また小春の前に戻ってきた。


「ごめん、島津」

「いえ……」

「全く浅井は、なんだかんだと……」


雄平のひかりに対するつぶやきが、小春にはとても優しいものに思え、

どこか切ない気持ちさえしてしまった。

二人は元々席が近く、仕事でもチームと言える部分もあるが、

ひかりの行動をしっかり見ているのかと思える雄平の態度に、

自分が同じことをしていても、こんなふうに心配されるだろうかとふと思ってしまう。


「島津……」

「あ、はい」


小春はファイルを取り出すと、雄平に説明する。

雄平は付箋をつけながら、話を聞き続けた。





祥吾が『KURAU』に戻ったのは、仕事が終了する時間の30分前だった。

いつものようにエレベーターに乗り、7階にある『第2企画部』の扉を開ける。

自分の席に着く前にと思い、ひかりを探すと、何やら書類を書いているのか、

ペンを動かしていたが、急に椅子の下をのぞき込んだり、

いつにもまして落ち着きがないように思えてくる。


「浅井さん」

「……はい」


ひかりは祥吾に呼ばれたことがわかり、その場で立ち上がる。


「これ、忘れていったよ」


祥吾がバッグから出したのは、ひかりが必死に探していたノートだった。

ひかりはすぐ『どこに……』と聞きかけたが、佐竹のところかとすぐに納得する。


「佐竹教授のところですね、でも、どこに……」

「テーブルの下に落ちていたんだ。誰のかわからなかったから、
少し中を見てしまったけど」


祥吾は申し訳なさそうに、ひかりに話す。

『見てしまった』という事実を白状したことで、

ひかりの表情が、祥吾にはどこか曇って見えたため、

これはまずいことをしたのかもしれないと思い始める。


「これ……中身を見たのですか」

「あ……いや、うん」


祥吾は、どう言えばこの場を収められるだろうかと考えながら、

次の言葉を考えるが、ピタッとくるものが浮かばない。


「あはは……恥ずかしいです。すみません、こんなものを……。
でも、ありがとうございました。これ、私のお守りなので、本当によかったです」


全く怒っているわけではないひかりは、

幼い頃からこんなことばかりしていましたと笑顔になる。

祥吾は、ひかりが明るく答えたことがわかり、少しだけほっとした。

ひかりは両手でノートを大事そうに抱えながら、後ろを向く。


「山内さん、見てください。私のお守り、戻ってきました」

「あ、そうか、そりゃよかったな」


雄平は、笑っているひかりの顔を確認する。


「はい……。また明日も頑張れます」


ひかりは戻ってきたノートを嬉しそうに自分の胸に当てる。

雄平はひかりの姿を見ながら、『明日こそしっかりやれよ』と言葉を戻した。


「明日こそって何ですか、いつもしっかりやっているじゃないですか」


ひかりは、納得が出来ないと、そう文句を言い返していく。


「答えてやったのに、どうして文句を言われるんだよ。だったらこっちに振るな」

「うわぁ……心が狭い」


雄平とひかりの遠慮がない会話を聞きながら、

祥吾は『自然体』でいられることに、少しうらやましさも感じていた。





大事な落とし物が無事戻ったことで、ひかりは明るい気分で家に向かった。

駅の改札を通り、いつも立ち寄るスーパーに入る。

野菜やお肉の売り場を通り抜け、

いつものように、すぐ食べられる惣菜の売り場に立った。

手を伸ばそうとするのに、なぜか前に動かない。

自分と同じくらいの年齢に見える女性が、野菜や魚を買い、

惣菜売り場を無用だというように、サッと通り過ぎる。

その姿を見送ったひかりは、カートを回転させ、野菜売り場まで戻ることにした。



ひかりは、買い物を済ませ、ハミングしながらゆっくりと部屋までの道を歩いた。

今日は、『高学歴、高収入、高身長』という祥吾が、

実は、彼女との別れで見合いをしたのだという事実を知った。



実際は、そうひかりが思い込んでいるだけなのだが。



あらためて、祥吾が相手に対して出した希望の項目を思い返す。


『才色兼備、自他共に認める美人、料理が出来て、男性を立てる』


ひかりにしてみたら、『自分が書いた90%以上のウソ』をすでに知られているし、

歓迎会でもヤギやあひるのものまねなどをして、『恥』は十分かいた。

だからこそ、『慶西大学』で会った時も、ノートを持ち帰ってもらったときも、

『自虐的』に開き直った会話を祥吾とすることが出来たが、

実際には、『同じ女性として』、祥吾が出した条件の1つすら、

自分には当てはまらないことが、どこか情けなくもあった。

他の人たちがどう考えているのかまで、全て把握することなど出来ないが、

要に『彼女』だと思われていなかった理由も、

そういう『女子力不足』ではないかと考えながら、

ビニール袋の中に入っている『キャベツ』を見る。

お肉と野菜と、フライパンに放り込んで味付けをすれば『野菜炒め』。

智恵に言われた通り、これからのことを思えば、いつまでも惣菜に頼ってはいられない。

ひかりは塩こしょうが切れていなかったか考えながら、さらに道を進んだ。


【5-2】



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