5 足りないところが多すぎる! 【5-2】


【5-2】


「浅井、お前、昨日何をしたんだ」

「エ……それどうしたの、ひかり」


次の日、同じ仕事をしようとテーブルに座った雄平と智恵が目にしたのは、

両手に絆創膏をあちこち貼り付けたひかりの姿だった。


「名誉の負傷です」


ひかりはそういうと、検討しなければならない商品のデータを前に出す。


「名誉のってなんだよ」

「料理をしました。キャベツを切ったり、肉を切ったり……」


ひかりは仕事から疲れて帰ったのに、頑張ったのだと自分を正当化しようとする。


「ほぉ……頑張ってさらに、指を切ったり……か?」


雄平はそういうと、笑い出す。


「ガオー!」


嫌みのような台詞を付け足してきた雄平に対して、

ひかりは絆創膏だらけの両手で、ひっかくような仕草をする。

二人のくだらない会話はいつものことだと思った智恵は、

両手を前で叩くと、『始めましょうよ』と声に出す。


「おぉ、そうだ。アホにつきあっていると、自分までおかしくなる」

「どうして朝からそういうことを言うんですかね、山内さんは」


そう言いながらそれぞれが資料を前に置く。

数度のミーティングが行われ、そろそろ結論を出すべきだと思っているが、

あと1歩踏み込んだ答えが生み出せず、顔をつきあわせているだけの時間が長くなった。

雄平は、100%とはいかないがと言いながら、以前話しあった内容の部分に丸をつける。

ひかりは、席に座った状態の祥吾を見た。

会議室で、全体に向かって色々な提案をしてもらったものの、

そこから祥吾がそれぞれの仕事に、具体的に関わるような様子は見えてこない。

雄平の横で、ひかりがいきなり立ち上がったため、

智恵が『今度は何』とひかりに聞く。


「ここに入ってもらいませんか、最上さんに」

「エ……」

「入ってもらいましょう」


ひかりはまっすぐに前へ出て行くと、祥吾の前に立った。

祥吾は顔を上げる。


「最上さん、昨日の朝、話されていた罫線幅の変更点ですが、
もう一度聞かせていただいてもいいですか」


ひかりは『一緒に』と祥吾に声をかけた。

祥吾にはひかりの後ろに、どうなるのかと自分を見ている雄平と智恵の顔が見え、

即答出来なくなってしまう。


「すみません、余計なことかもしれませんが、昨日、
佐竹教授と話している最上さんの会話、ちょっとだけ聞いてしまいました。
具体的にはわかりませんけれど、でも……」


ひかりは左の人差し指で、『1』を作る。


「1歩前にって……その言葉が、頭に残っています」


ひかりは、『一緒に考えて、私たちを助けてください』と頭を下げた。

祥吾は、ひかりの言葉から、昨日、佐竹に言われたことを思い出す。



『まぁ、『ボルノット』では、お前の良さがわかってもらえなかったとしても、
『KURAU』に入り直して、リセットしたんだ。1からスタートが出来る。
立ち止まった反省点を生かして、1歩前にな』



ひかりの姿を見ていた智恵も、同じように席を立ち、雄平もその場で立ち上がると、

揃って祥吾に頭を下げた。



『最上さん……あなただけが考えているわけではないですよ。
まぁ、こっちの手なんて、必要ないと考えているなら別ですが……』



何かを言ったことで言いがかりをつけられたり、また、妙な壁を作られる過去が、

祥吾によみがえってくる。しかし、自分の前には『常に前向き』に仕事をする、

ひかりの姿があった。

祥吾は『わかりました』と立ちあがる。


「ありがとうございます」


ひかりは自分の場所に戻り、資料を前に出す。

智恵は、『ボルノット』で鍛えられ、

2年目の若手でありながら社長賞を取った『本当の実力』が知りたいと、祥吾を見た。

別の仕事をしている高坂や小春も、祥吾が輪に入り、どうアイデアを出すのか注目する。

祥吾が近づいたので、ひかりと智恵は自分の椅子を横にずらした。

正面の雄平を含め、どこか祥吾を先生のような角度で見る、

生徒3人の構図になってしまう。

祥吾はあくまでも『同じ立場』で仕事をしたいと思うのに、

用意された舞台は、『あなたは別』という差を感じるものになってしまった。


「最上さん、昨日いただいた資料を、もう一度細かく教えて下さい。
私たちは罫線の幅が一番の変更点だと思っていましたが、
最上さんは別だと……確かそんな話でしたよね」


ひかりは、祥吾が意見を出しやすくなると思い、導くような言い方をする。


「別と決めつけたわけではないんだ。ただ……」


ひかりが『聞きたいこと』の道筋を作ってくれたため、

祥吾は、そこから自分の意見を自然と出すことが出来た。

罫線の幅を見直すことも必要だが、この『新作ノート』には、

さらなる新しい点を持たせてみたいと言い始める。


「新しい点ですか」

「うん。あえて空白を多く取るのはどうだろうか」


祥吾は、ノートの両サイドに空白を作るという、新しい考えを発表した。


【5-3】



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